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本誌57話派生SS番外編 汀家の困惑

懲りずに番外編があったりして・・・


これでこのお話はおしまいです!!



************




あの日、僕は学問所からの帰り道、いつものように夕餉の買い物をして帰路に就いた。


いつもの、何気ない、本当に普通の一日が終わろうとしていた。


 


「あれ?父さん、どうしたの?」


家に着くと、いつもは僕よりも遅く、下手したらあまり家にはいない父が先に帰宅していた。


「う~ん。父さんにもわからないんだ。上司から早く家に帰るよう言われてな。なんでもいいから帰れ、と。道草もせず、とにかくまっすぐに帰るように言われたんだよ。」


僕も父さんも訳が分からなかったけど、こんな時間から父さんがいるのは珍しいし、たまにはのんびりするのもいいね、と笑いあったんだ。


でも帰宅を命令されるなんて、父さんまた何かやったんじゃないよね?姉さんまた怒るかな?なんて考えながら夕餉の準備をしようと台所に行って荷物を降ろしていると玄関の戸を叩く音・・・


「青慎~、お、お客様だ。お前もおいで。」


とお父さんの上ずった声が聞こえてきた。

取り立て屋だったらどうしようかな?もう~。

なんて思いながら出て行ったら、そこにいたのは取り立て屋なんてものでも、もちろん几鍔さんでもなくて。


「いらっしゃいませ。こんばんは。あの・・・」


「青慎、ここに来て座りなさい。」


「は、はい。」


とりあえず居間の食卓の椅子に来訪者と向かい合わせで座ってみる。


なんだか上等な衣を着た美丈夫が二人・・・一人は眉間に皺を寄せてこちらを睨みつけていて。

もう一人は優しい微笑みで見つめていた。

なんとも対照的な二人に困惑しつつ、どう見ても貴族であるような佇まいに恐縮してしまう。


一体何なんだろう?

貴族ということは、父さんじゃなくて、王宮勤めの姉さんに何かあったのかもしれない。


目つきの悪い人が口を開いた。


「本日はどうしても汀家の皆様そろってお話を聞いていただきたく、父上にも早くにご帰宅いただいた。申し遅れたが、私は政務室補佐官をしている柳方淵と申す。」


「そんなに怖い顔をしていては何事かと怖がられてしまうよ。まぁ、君の笑い顔なんて想像もできないけどね。」


もう一人の微笑を浮かべた美丈夫が言った。


「うるさい!!貴様と言い合うためにここへ来たのではない!!貴様も早く名を名乗れ!!!」


「それもそうだね。すみませんね。彼はいつもこうなのですよ。私は方淵と同じく、政務室補佐官の氾水月と申します。よろしくお願いしますね。」


ん~~~~~、柳?氾?・・・


柳・・・?氾・・・?


柳~~~~~~!!!氾~~~~~~!!!


「「え~~~~~~~~~!!!!!」」


僕と父の声は見事に重なりもの凄く大声になってしまっていたんじゃないかと思う


「__えと、あの大貴族の柳家と氾家のご子息ということでしょうか?」


いくら下町といえども大貴族の名前くらいはある程度知っていて当然だった。

逆に言えば、それくらい大貴族ということでもあるのだけど。


「うむ、そうである。いや、恐縮することはない。別に悪い知らせというわけではないのだ。」


「そうかなあ。ある意味家族の方々にとってはつらい決断になると思うけどな。」


「だから貴様は~~~~~」


二人で漫才でもするかのように話をしていてさっきからちっとも内容が伝わってこない。

柳家と氾家って仲が悪いって聞いた気がしたけど聞き間違いだったのかな?


柳方淵さまがゴホンと咳払いをすると、きっ、とこちらを見つめ背を正したので僕たち親子も急いで背を正した。


「口で言うよりも、まずはこちらの書簡に目を通していただきたい。」


父さんは恐る恐る受け取ると僕にも読めるように広げて見せた。


_____ん?


_______へ?


____________・・・・・・?


おそらく目がまあるく見開いたまま動かなくなった僕らに、二人の政務室補佐官は若干気の毒そうな、訝しげな視線を向けた。


「字が読めぬわけではあるまいな?どうかしたか?」


声をかけられやっと衝撃から戻ってきた父さんが震えながら言った。


「あ、あの。何かの冗談では?」


「冗談ではない!我が君が冗談で正妃様を決めると思われているのか!」


「いえ、あの、そういうわけではなくて。ですが、娘は庶民です。何故そのようなことに。」


「お父様。落ち着いてください。別に狼が取って食おうという話ではないのですし。二人の馴れ初めは存じ上げておりません。それを問うのも我々には許されることではありません。なので、何故?、には答えを持ち合わせておりません。」


「ね、姉さんは王宮で掃除婦をしていると聞いていたのですが・・・」


「そうなのですか?我々があの方にお会いした時は既に陛下唯一のお妃さまでらっしゃいましたが。そのあたりのお話は我々は聞かない方が命の心配をせずに済みそうなのでここでやめていただけると助かります。」


「水月!貴様はまたそんなことを。」


「あの方に睨まれたらそれだけで息もできなくなってしまうよ。知らない方がいいこともあるのだよ。」


「まあ、詮索する必要はない。陛下があのお妃が良いと。いや、あのお妃でなければ駄目なのだとおっしゃられていられるのだ。我々はその意に沿うことが陛下の御為!」


「私の安息の日々の為にもお妃さまがいてくださらないと。ここ最近の政務室にはもう近づきたくないよ。」


「お妃のせいにするな!!貴様は!!~~~~~今はよい!!!貴様のせいで時間がかかり役立たずと思われてはかなわんからな!!」


「兎に角!!その書簡の内容は理解したと思ってよいな?」


なんだか良くわからないけど、とりあえず頷かないといけないと思い、父さんと二人ぶんぶんと音を立てて上下に頭を振った。


「ふむ。その書簡は御署名にある通り、陛下の側近である李順殿からである。そして、それが本物であり無事に家族のもとに届いたことを柳家と氾家が確認をした。」


「つまり、ここに書かれてあることは嘘偽りなく本当だということでしょうか?」


「そうだ。あのお妃の弟君にしては聡いようだな。」


「方淵、さっきから君随分と失礼な物言いだと思うんだけど。」


「うるさい!!あの通常のお妃像とは真逆を行くお妃だ。そんなもんでいい。」


「まあ、今のうちだよね。ご正妃様になられたらいくらなんでも口は慎むべきだしね。」


「彼女がご正妃様になられようと何も変わらん!」


「全く君らしくて楽しみだよ、方淵。」


優しい微笑みを終始たたえた美丈夫はそう言うと、では我々はこの辺でお暇いたします。と騒がしく帰っていった。


 


____一体何だったんだろう。


いや、訪問の理由はわかってはいるんだけど。


 


嵐が去った後の自宅の居間で茫然と会話をすることもなくしばらく佇んでいた。


「夕鈴が・・・行ってしまう、のだね。」


父さんがどこを見るでもなくポツリと言った。



************



そんなこんなでお嫁さんの実家決定しました。

お二人の漫才のおかげですね!←違う



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本誌57話派生SS 李順さん目線

懲りずに違う目線で書いてたりして・・・。


恥ずかしいから、これもとっととさらしてしまおう!




**************




「は~。陛下、これ以上官吏たちを使い物にならなくするのはやめてください。」


今朝から何度目になるかわからない進言をしてみる。


今日の陛下の機嫌はものすごく悪く、官吏たちが何人も倒れて早退していた。


 


_______なんなんですかね?昨夜夕鈴殿のところに行かれたようでしたが何かありましたかね?まったくあの小娘が!!!


 


「陛下、何か御座いましたか?」


「・・・」


「陛下?」


「・・・_____やった。」


「は?何とおっしゃいました?」


「・・・だから、夕鈴を_____にやった。」


「夕鈴殿がどうかされましたか?」


「だから!夕鈴を浩大にやったんだ!!!」


 


________聞き間違い・・・ではないようですね。


 


「どうしてその様な話になったのでしょうか?」


小娘~~~~~~~~!!!!!


「うるさい!!兎に角そういうことだ。」


陛下はそうおっしゃられるとこの話は終わりだとばかりに手を振った。


 


________さて、困りましたね。どうしたものでしょうか?


 


 



 


 


「りっじゅんさ~ん。」


全く緊張のかけらもありませんね。こっちは頭が痛いっていうのに能天気な。


「待っていましたよ、浩大。一体どういうことなんです?」


「う~ん。ダヨね?オレにもよくわかんないんだよね~。陛下がお妃ちゃんの部屋に来て、最初は楽しかったんだよね。お妃ちゃんを甘やかしたそうにあれやこれや言っててさぁ。でもほら、お妃ちゃんってびっくりするくらい立場をわきまえてるだろ?だから、どれもこれも却下されてさ。そしたら陛下何を思ったのか、お妃ちゃんに嫁ぎ先を融通してやるなんて言い出してさぁ。もう大笑いだよね?ここまでは・・・。」


「もったいぶらないで早く教えなさい。それが何故あなたに夕鈴殿をあげる話になったんですか?」


「簡単に言うと、お妃ちゃんが『だったら浩大がいい』って言ったんだよ。」


「は?本人が、ですか?」


「そう。まぁ、俺のことが好きらしいんで。」


全く、食えない笑顔ですね。そうは思ってないんでしょうに。


「それで?どうなさるんですか?」


「どうもこうも。陛下の命令には従いますよ。陛下が命令を覆さない限りは。アンタはどうすんの?」


「___ふぅ。仕方ないですね。腹を割って話しましょう。確かに、夕鈴殿は正妃になるだけのものは何も持ってらっしゃらない。それは変えようのない事実です。この国にとっては利とは成り得ない。_____ですが、認めたくはありませんが、陛下個人にとっては、無くしてしまえばおそらくもう二度と手にすることはできないであろうものをくれる人物であると言えます。」


「ふうん。アンタもそう思ってんの?意外だネ。」


「あなたは私を何だと思ってるんですか?これでも陛下の幸せを願っていないわけではありません!が、しかし、それとは別に、陛下は陛下であられる。国の行く末のことを抜きにしては考えられません。多くの妃を娶り世継ぎを作られることも責務であられる。それに、後ろ盾のない寵妃など絶好の的です。夕鈴殿がこのままここに残ったとしても彼女の身の安全は保障できません。御二方にとって此度のことは決して悪いことばかりではないのです。」


「でもさ、今日一日で官吏たち死にそうじゃん?これこの先ずっと続くの?みんな氾の坊ちゃんみたいに出仕拒否すんじゃね?」


「はぁ~。思い出させないでください。本当に頭が痛いことですよ。バイト妃などいつでも切れるはずでしたものを。全く、あの小娘ときたら!一国の行く末まで左右することになるとは思いませんでしたよ。都合のよい駒でしたものを。」


「なんだ、認めてんだ?」


「認めざるを得ないでしょう。既に陛下の心は彼女に囚われています。狼陛下ともあろうものが己の心すら気が付かないとは情けないものです。手放してしまえば心のバランスを失いかねないでしょう。彼女は陛下に心の拠り所を与えてしまいました。その責任は取ってもらわねばならないでしょうね、生涯をかけて。」


「はっ。そうこなくちゃな。じゃあオレはなんとか陛下を焚き付けてみるわ。」


「私は準備に取り掛からせていただきますよ。大変な仕事になりますからね。あなたが失敗したら許しませんよ。」


「優秀な隠密だぜ~。ま、お妃ちゃんからむと陛下おもしれ~からどうなるかわかんないケド任しとけって。」


「お願いしますよ。」


 


さあ、陛下に内密に、一大仕事になりますね。


腕が鳴りますよ。


ふふふ______。


 


 



 


 


「今日は私から皆に大切な話がある。


___妃を、夕鈴を正妃にする。それに伴い後宮は閉鎖。夕鈴以外を娶ることは決してない。


これは決定事項だ。翻すことは決してない。」


「御意。」


朝議に立席している大臣たちから一糸乱れぬ声。


「・・・異を唱える者はいないのか?」


狼陛下が冷たい微笑みで全員を見渡す。


「王宮の総意は夕鈴様を正妃に、ですでに纏まっております。」


拱手して食えない笑みをたたえた氾大臣が口を開いた。


「ふ、どういうことだ?」


「詳しいことは後程私から説明させていただきたく思います。」


「李順・・・」


「長くなります。お妃さまが政務室にいらっしゃらなくなってから大分経ちますが、その頃に遡ってのお話になろうかと思います。連絡を受け、既に準備は整えてあります。」


「準備?」


「はい。本日ご実家に行かれると。昨夜夜半連絡があり、急ぎ準備にかかりましてございます。」


「___ふっ。大義であった。」


「はっ。」


「朝議はこれにて散開。本日の政務は休みとする。私は妃とともに準備でき次第妃の実家に向かう。」


「言祝ぎ申し上げます。」


柳大臣が眉間に皺をよせたまま、それでも跪き拱手してお祝いを述べたのに続き、次々に大臣たちから祝いの言葉が紡がれていく。


ふぅ、やっとですね。あまりにも時間がたってしまったので苦労損になるかと危惧いたしましたよ。


覚悟してくださいね、夕鈴殿。


妃教育、いえ、正后教育はこれからですよ。


ええ、楽しみですね___。  




***********


楽しみすぎてはげるかもしれませんね( *´艸`)


本誌派生SS第57話⑥

これでこの話は終わりです~。

 

お付き合いくださりありがとうございます! 

 

 

*************

 

 

 

「ゆーりん。泣き止んで、ね?」


 


優しい陛下の声。あ、本当なんだ。


 


「へ、陛下は知ってらっしゃったんですか?」


 


バツの悪そうな顔でへへへ~っと笑う。


 


「いや、知らなかったんだよね~。今朝、朝議の場で開口一番後宮を閉鎖するって言ったらさあー。」


「はぁ?後宮を・・・へ、閉鎖―!!」


「うん、それでね。」


「いや、それでじゃなくてですね、何でですか?そんな無茶な。」


「だからね、もう!ゆーりん、ちょっと黙って聞いて!!」


「は、はい。すみません。」


「でね、僕、もうゆーりんしかいらないし、他の娘と閨なんて嫌なんだよ。こんなに可愛くて僕思いで倹約家のお嫁さんなんて他にはいないだろうし。僕、ゆーりんだけでいいんだ。」


 


蕩けそうな笑顔で陛下が見つめてくる。


うわぁ、またこんな恥ずかしいことを。あ、でもこれ演技じゃないのよね。


ぼふん!!本気~!!それはかなり恥ずかしい~。もう~。


 


「だから後宮を閉鎖するって言いに行ったんだよね。そしたら柳も氾もそのほかの大臣もみーんな反対しなくてさ。」


「へっ?誰も・・・ですか?」


「うん。なんかね、優秀すぎる側近が頑張ってくれてたらしくてね。」


 


_____なぁ、と狼の微笑みで李順さんに問いかけた。


 


「だいたい有り得ませんよ。浩大にあげるだなんて。言い出した時から準備は始めていたのですよ。どうせこうなるだろうと。あなたを焚き付けるために浩大はその身を差し出したのですから咎はないと思いますがね。」


「_____その件については近々、しっかり話し合わねばなるまい。」


 


急に馬車の中の温度が下がった気が。


 


「へ、陛下!浩大は悪くありません。私が悪いんです。」


「妻の口から他の男の名前は聞きたくないと言っているんだが。」


 


と唇を塞がれた。昨夜の余韻かすぐに頭に霞がかかる。


はっ!ダメダメダメ~!!胸を押して離れた。


 


「李順さんがいます~。恥ずかしいです。」


「あいつなど石ころと思えばいいものを。仕方ない、可愛い妃の頼みならば聞くとしよう。」


ふう、甘い、甘すぎる。いつも以上に甘すぎて蕩けそう。


「そ、それはそうとですね。このまま行ったら、青慎とお父さんがびっくりしちゃうんじゃ・・・。」


「それも大丈夫。もう行ってるだろ、なあ李順。」


「左様です。既に先発隊として方淵と水月が行っております。」


「は?そ、そんなことまでやっていただいているのですか?」


「ええ。ですから、思ったよりも陛下が我慢強かったため準備期間が長く取れましたのでね。前もって書状にて伝えてあります。それに、昨夜浩大からも今日だと連絡がありましたからね。」


 


き、聞いていたのかしら・・・ね、浩大は。


 


「なんなら浩大からの連絡を詳しくお話しいたしましょうか?」


「い、いえ!!大丈夫です!!もう、勘弁してください~。」


 


最後の方は小声になる。いたたまれない。


 


「わが妃をからかうのはその辺でいいだろう。あいつには再教育が必要なようだな。」


 


憂い笑いの狼陛下___。でもそこは、うん。教育してもらおう。


 


 


 


 


馬車が止まった。扉が開く。


大好きな狼陛下の蕩けるような笑顔で手を差し伸べてくれる。


ああ、この手があれば私は間違えない。


私に勇気を与えてくれる優しくて暖かい手。


これから先、辛いことも悲しいこともあるだろうけど。


あなたがいれば大丈夫。


 


いつまでも手をつないで・・・


 


 


 


本誌派生SS第57話⑤

どんどんいきます~。



****************

 




 

「支度は整ったかな?」

 

はっ、やっと来た~。

 

「陛下~~~~~」

 

陛下はこちらを見て目を丸くしたまま固まって動かない。

 

「あ、あの、やっぱり変ですよね!あの、すぐ着替えますから。」

 

言い終わらないうちにずかずかと近づいてきて腰をさらわれ陛下の腕の中に閉じ込められる。

 

「ゆーりん、すっごぉく、綺麗・・・」

 

陛下は蕩けるような笑顔をして耳元で囁いた。

 

「このように美しい妃を持って私も幸せと言うものだ。誰にも見せたくはないが、共に参ろう。」

「や、陛下~。これは何かの間違いでは?」

「何がだ?これ以上美しくなっては見つめるのもつらくなる。」

 

あ~。いちいち甘い~。

 

「下町に行くのですよね?これでは、あの、陛下も私も正装では?」

 

李順さんが準備したという衣装を見て驚いた。

それはまるで婚礼衣装の様で、もちろん下町ではお目にかかれないようなもので。

純白の上等な絹に繊細な刺繍が施され、所々に真珠が縫い込まれている。上掛は極薄い桃色の、これまた手の込んだ刺繍がされ、こちらは紅水晶と翡翠が縫いとめられている。装飾品に至っても、また同じような豪奢さだった。

 

「そのままで良い。」

 

ん?なんで狼陛下なの?

 

「でもこのままだとみんなが驚いちゃいますよ。」

「いや、そのままでいいんだ。」

 

ますます訳が分からない。挨拶に行ってくれることはうれしい。本当は王様なんだから欲しいというだけで済む話なのは私でもわかっている。

でも、王様だということが下町で知られては大変だし、私が庶民だということがそこからばれてしまっては陛下の御為にならないのではないかしら?

 

「いえ、陛下が下町に行ったことが表沙汰になったら、そこから私が庶民の出であることがばれてしまいます。私は構いませんが、陛下が貶められるのは嫌です。」

「皆知っている。」

「え?皆?」

「そうだ。皆知っている。」

 

は?何を?出自不詳なはずでは?

 

「今詳しく話をしていると日が暮れてしまうからな。馬車の中で話すとしよう。」

 

陛下は茫然とした私を抱き上げると額に唇を落とし、「はぁ、僕、馬車の中で我慢できる自信ないよ。」と嬉々として運んで行ってくれた。

 

馬車が準備されていることにも驚いたけど、その豪奢さにも驚いた。

王様が乗るよりは控えめだが、やはり装飾はそれなりのものだ。

その上、大臣その他重鎮が両脇に立ち並び頭を垂れて拱手している。

いったい何が起こっているのかわからない。私は気絶しそうな身体を陛下に預けていた。

馬車に乗り込むと李順さんが先に乗っていた。

 

「李順さん~、いったい何なんですか?どうしてこんなことに?」

「どうもこうもないですよ。正妃様。」

「は?正妃さま?誰が・・・ま、まさか___」

「まさかもトサカもありません。あなたですよ、夕鈴様。」

「え、いや、私庶民ですよ。李順さんのおっしゃる然るべき家柄ではないですよ。」

「そうですね。ですが、あなたが正妃様になられるのですよ。ああ、今日は急ぎでしたのでこの様な衣装になっておりますが、近々立后していただきますので衣装を新調いたしましょう。戻ったら、今まで以上に妃教育をしますので頑張ってくださいよ。忙しくなりますよ。」

 

最後の方は苦虫を噛み潰したような顔で言われ、はぁ~っと溜息をつかれた。

 

「李順、今はそれくらいでよかろう。それより、何故お前が同じ馬車に乗っているのだ?」

「ええ、どっかの誰かさんが正妃様のお美しい姿をどうにかなさらないように、ですよ。」

「どうにかとはなんだ?だいたいこれが我慢できると思うか?」

「だから同乗してるんです!!あなたはもう箍が外れるとこうなんですから!!!盛りのついた狼は大人しくしていてください!恥ずかしいのは夕鈴殿ですよ!!」

 

うきゃ~、李順さんどこまで知ってるの?ていうか、知っているのね・・・

 

「夕鈴殿、ええ、わかってますよ。全く、回りくどいことをなさって。周りの迷惑も考えて欲しいものですよ。ええ!!!」

 

へ?なんで考えてることがわかっちゃったの?

 

「あなたの考えていることは顔を見れば誰でもわかります!」

「はあ、そうですか。あの、ところで周りに迷惑って・・・」

「ええ!!もう!!あなたが!!浩大に嫁ぐといった日から政務室にはいらしてませんでしたから、あなたは!!存じ上げてらっしゃらないでしょうが!!!その日からですよ。政務室は今までで一番のブリザードで官吏が何人も倒れました!!まるでどこかの令嬢の書かれているという物語が如く、陛下の視線!一挙手一動によって皆倒れましたよ。」

 

李順さんはふぅ~っと大きな溜息をついた。

 

「ですが、それが良かったのです。後宮のいざこざから寵妃が政務室に出てこなくなったため陛下の機嫌が降下していると考えた官吏たちから、夕鈴殿を政務室にとの嘆願書が出されました。それをもとに方淵と水月が官吏たちを纏め上げ、妃として認めるよう大臣たちに訴えかけてくださいました。家に反してもよい、と。陛下とお妃さまの御為とおっしゃられましたよ。」

 

夕鈴の瞳からは大粒の涙があふれ出した。

政務室のみんなが・・・ありがたくて嬉しくて、何と言っていいかわからない。

 

「まあ、他にもいろいろありますが、とにかく、王宮の総意はあなたを認める、ということで纏まりました。庶民であることから、権力争いになんら関わらずに済むというのも良かったのですよ。ですから、胸を張ってください。これ以上泣かれると、私の腕をもってしても美しくして差し上げることは難しくなります。」

 

_____正妃様になられるんですから、無様な様を民に見せるわけにはいきません!

 

ともう一つ小言を落とすと、今までにないくらい微笑んだ。

 

「ご正妃様。陛下をよろしくお願いしますよ。」

  

 

 

***************

 

 

 

つづく

本誌派生SS第57話④

さぁ、お話も終わりに向かいます。


やっぱりこうでないとですね。



************* 

 


 

ぼんやりと目を覚ます。


部屋の中はずいぶん明るくなっていて、なんでこんなに寝過ごしてしまったのかと焦った。


急いで寝台から降りようとすると何か違和感に気が付いた。


あれ?は、裸!


よく見ると体中に紅い華が咲いていて、昨夜のことを思い出した。


あ、私、へ、陛下と・・・


恥ずかしすぎる!と寝台の上でわたわたしていると声がかかった。


 


「お妃さま、お起きでしょうか?」


「あ、はい。すみません、寝過ごしてしまったようで。」


「いえ、陛下から起きるまで近くで控えるよう言付かっております。お支度のお手伝いをさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「い、いえ・・・自分で。」


 


この姿を見られるのは恥ずかしすぎる!


あれ?体がうまく動かない・・・え~~~~~!!!


 


「お妃さま?大丈夫でしょうか?」


 


侍女が心配そうに聞いてきた。


仕方ない。


 


「すみません。手伝っていただけますか?」


 


と声をかける。


 


も~なんなのよ!恥ずかしすぎるわ!


支度の間中、侍女は頬をいつも以上に染め、なんとも言えない生温い視線を送ってくる。


 


「陛下がお泊りになられたようで、素晴らしいですわ!」


「妃の部屋で目覚めるなど、本当にお妃さまへの寵愛は限りなく溢れているのでございますね。」


 


などと、ずっと王の妃への愛について興奮気味に話している。


みんな、紅珠の巻物に侵されてるわ。恥ずかしすぎる!


心の中で叫んでは見るものの、今回はさすがに本当に事があった後なのでどうしていいやらわからない。


 


「陛下より、昼餉を共に、との伝言を受けておりますがその様でよろしいでしょうか?」


もうそんな時間なのね?恥ずかしいけど、ここで断るわけにもいかないわよね。


「はい、その様にお願いします。」


 


いつもは一人でやってしまう支度を侍女に珍しく頼んだせいか、張り切って着飾られた。


宴も謁見もないのにこんなに着飾らなくても、と苦笑いしていると声が聞こえた。


 


「愛しいわが妃よ、目覚めたか?」


 


愛しいあの人がものすごく上機嫌な声と甘い笑顔で部屋の入り口から顔を出した。


 


「お疲れ様です。ものすごく機嫌がよろしいようですね?」


「うん、ものすご~く、いいことがあったからね。」


 


いたずらっ子のように笑うと人払いをして食事が始まった。


 


「陛下は朝からお起きになられ政務に励まれてらしたのに、わたしだけのんびり寝てしまって申し訳ありません。」


「ん~、いいんだよ。だってゆーりん初めてなのに僕が無理させちゃったからね。」


 


頬を染めながらこちらを見る陛下は可愛いけど、その姿と言葉に私は全身真っ赤になってしまう。


 


「へ、陛下、あの、あまり言わないでください・・・恥ずかしいです。」


 


最後の方はものすごく小声になってしまった。


陛下はクスッと笑うと包み込むような笑みを私に向けてくれる。


あー、この微笑みが大好きなのよね。


 


「ねぇ、ゆーりん。ご飯を食べたら一緒に出掛けようね?」


「え?どちらにですか?なにか急な視察でもありましたか?」


「えー、ゆーりん、忘れたの?」


「は?何かありましたか?」


 


さっぱりわからない。


何かあったなら、むしろ朝まであんなことをして大丈夫だったのか?


と考えて思い出してしまい真っ赤な顔で俯いて黙り込んでしまった。


今なら恥ずかしさで死ねそうだ。


 


「ご挨拶だよ!ゆーりん、今日ご実家に結婚の挨拶に行くんでしょ?」


 


あ!そうだった!すっかり忘れていた。


事前に休みをもらい、いつも逃げ回っている父に絶対に家にいるよう手紙も書いた。


あんなことがあったからすっかり抜けていた。


と、また思い出して頭から煙が出そうだ。


何かある度にこれでは身体が持たない・・・


 


「あ、そうでした。でも、浩大とはもう、その、しないので__」


「愛しい妃の口から他の男の名が紡がれるのは面白くないな。」


 


食事の終わった陛下はさっと立ち上がると私の腰をさらい、あっという間に長椅子の上に座らされた。


正確にいうと、長椅子の上に座る陛下の膝の上に座らされている。


ちゃんと伝えなきゃ。


 


「あの、でも、その、わたしはもう、その、陛下が・・・」


「陛下が・・・なぁに?」


「陛下が・・・」


「・・・」


「陛下が・・・」


「ねぇ、言って?君の声で聞かせてくれ。」


 


耳元で囁かれる。死にそう!


 


「陛下が、その、好きなので。あの、おそばにいたいです。」


「僕もゆーりんが大好きだよ。愛してる!だから、ちゃんと貰いに行かなきゃね!」


「で、では着替えを・・・」


「ん~、そうだね。李順が用意してくれてるからそれに着替えてね。僕も着替えてくる。では、また後でね。」


 


陛下は尻尾をぶんぶん振り回しながら自室へ戻られた。


 


さあ、私も急がなくっちゃ!

 

 

 

***************

 

 

 

つづく