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道程 番外編 その後

 

これは確か、SNSでキリ番リクエストで書いたものです。

 

是非、道程のその後が見たいです、と。

 

ウキウキして書いたのを覚えています。

 

何故か話が長くなるタチなので、一話なのですが長いです。

 

お時間が許すときにでも読んでくださいませ。 

 

 

 

 

 

 

***************

 

 

 

 

「ゆーりん・・・。」

 

王宮に王の寂しそうな声が響いた____。

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

「夕鈴!」

 

黎翔が産所に駆け付けた時、夕鈴は既に宝物を産み落していた。

 

「間に合わなかった・・・。」

「そんなに落ち込まなくても・・・。黎翔様は尊き御身です。本当ならこんな所に来れないんですよ?」

 

子を産む場所は穢れとされ、王が立ち会うなどもってのほか。

それどころか通常入ることも禁じられている。

 

「だって・・・。折角皆と同じように産むのならば、傍に居たかったんだ・・・。」

 

耳を垂れ尻尾をしょぼんと垂らした幻が見え夕鈴は苦笑いする。

 

「もう!黎翔様はどこまでも私を甘やかして!子を産むのは女の仕事です!信じてないのですか?」

 

口を尖らせて横になったまま見上げてくるお嫁さんが可愛くて、黎翔はそっと額に口付けを落とした。

 

「信じてるよ?でも・・・心配なんだ。」

「もう!・・・あり、がとうござい、ます。」

 

どちらからともなく手を繋ぎ指を絡ませてぎゅっと握り合い微笑む。

夕鈴の規則的に上下する胸の上で幸せそうに眠る子を、暫く二人で見つめ続けた。

 

 

 

 

 

「夕鈴。ありがとう。」

「え?」

「僕に家族をくれて。」

「・・・。」

「うーん、なんか違うな。えっと幸せな日々をくれて、かな?」

「黎翔様・・・。」

「警備は増やしてあるけど、心配だし寂しいから、早く帰って来てね?」

「はいっ!わ、わたし、も、・・・寂しい、です。」

 

最後は口ごもって小さな声になってしまっていたけど、頬を紅く染めて嬉しそうに微笑んでいる彼女は相変わらず破壊的に可愛い。

子を今さっき産んだというのに相変わらず初々しくて清らかさはそのままで。

だけども慈愛に満ちた瞳にはどうやっても勝てそうにないくらいの威力がある。

彼女にこれからも翻弄されるだろう未来を思って1人溜息をついたのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

生まれた子は男の御子だった。

世継ぎが生まれたことは、夕鈴とそのお腹の御子を守り続けた下町にあっという間に伝え広がり次から次へと言祝ぎが届けられた。

老師があまりもの嬉しさから小躍りしてまた腰を痛めたのはまた別の話。

 

黎翔譲りの漆黒の髪に王族の証しである紅く輝く瞳。

名を章翔と名付けられた。

夕鈴が生まれ育ち、また守ってくれた優しい皆がいる場所である章安区。

そこで生まれた王族である息子に、素晴らしい民が付いていることを覚えていて欲しい。

民がいてこその王族であることを忘れないで欲しい。

その想いから二人で相談して授けた名であった。

 

下町の住民は夕鈴が自宅に戻ってからも精を付けろと毎日何か食べ物が届けられ、夜泣きが酷いと少しの時間でも寝れるようにと御子を預かってくれた。

時には浩大がちょっとアクロバティックにあやしたりして夕鈴に雷を落とされることもあったのは御愛嬌だ。

夕鈴は後宮にいる時並にのんびりできたし、章翔も皆の愛情に包まれすくすくと育った。

 

黎翔は相変わらず政務をするために王宮に通い、なるべく二人と共に過ごせるよう精力的に政務をこなしていた。

 

 

 

はずだった____。

 

 

 

 

 

***********

 

 

 

 

 

____数か月後。王都乾隴章安区。

 

「ゆーりん、まだ帰ってこないの?」

 

この国の王は難攻不落の正妃(予定)に手をこまねいていた。

 

「だって、私だって帰りたいんです!せ、正式に、黎翔様のお、お、お・・・。」

「お?」

「お、・・ふぅ。お、奥さんにな、りた、い・・・です。」

 

顔を真っ赤にして涙を瞳に湛える夕鈴に嗜虐心が湧く。

思い通りにならない彼女をどうしてやろうかと瞬時に憂い想いが頭をもたげ彼女の腰を攫い何時もの様に膝の上に誘い腕で囲い込んだ。

 

「れ、れ、黎翔様~~~~~?」

 

目をぐるぐる回して必死に手で囲いを破ろうと押してくるけど構わない。

逃がす気などないのだから。

そのまま旋毛に口付けて、驚いた拍子に上げた顔にも口付けを落とす。

片方の色付く頬に逃げられないように手を寄せて、震えるまつ毛に何度も口付けを落とす。

恥ずかしそうに真っ赤に染まった鼻にもちゅっと吸い付く。

 

「やっ!」

 

拒絶するような言葉を発した柔らかく色付く唇は塞いでしまうに限るだろう。

彼女が身を捩って逃げようとするのを押さえつけ、頭の後ろを手で押さえて固定すると拒絶する言葉ごと絡め取るように唇を重ねた。

角度を変え何度も何度も、わざと音が鳴るように口付ける。

何か言いたそうにもごもごしている唇の隙間から舌を挿し入れ、僕しか知らない彼女の内側に侵入する。

長い間触れていない場所を彷彿とさせて身体の中心が疼きだす。

 

____欲しい。

 

彼女を思うままに蹂躙し味わい尽くし啼かせたい。

止めてと艶を帯びた熱い目で懇願されそれでもやめてやれないだろう自分が容易に想像できて笑みが零れる。

 

____おぎゃー!ふぎゃー!

 

聞こえた瞬間それまで蕩ける様な顔で僕に身を預けていた君の瞳が見開かれ、ドンっと胸を強くおして膝の上から飛びのいた。

 

「ゆ、夕鈴・・・。」

「あ、や、う、・・・。うわーん。」

 

真っ赤な顔で口元を両手で押さえると正に脱兎のごとく章翔の元へ去って行ってしまった。

 

「ゆ、ゆーりん・・・。」

 

孤独な狼は柔らかく温かい兎を寸でのところで逃がしてしまい、息子にまで悋気を抑えきれない自分を持て余していた。

 

 

 

 

 

***********

 

 

 

 

 

「陛下。この案件は?」

「ああ、急ぎ取り掛かれ!もう待てん!」

「・・・これを、急ぎで?」

「ああ。」

「・・・。」

「方淵と水月にさせよ。他の案件は一切回すな!」

「・・・はぁ~。御意。」

 

黎翔の鬼気迫る様に側近の李順ですら意見をいう事が憚れ、と言うか、馬に蹴られてなんとやらになるのも面倒くさいと思い補佐官にそのまま投げることにした。

 

 

 

 

 

そして今日も王は下町の愛しい妻の元に通う。

 

「夕鈴、ただいま!」

「だからね、なんでそうなるの?」

「・・・。ゆーりん・・・。」

「どうして泣き寝入りするのよ!付けあがらせるだけだわ!私が行って・・・。」

「我が妻は愛しい夫をほったらかしにしてどこへ行くと言うのだ?」

「へ?あ、れい、李翔さん!すみません、気が付かなくて・・・。」

 

勇ましく握り拳を作って掲げた彼女の前には見たことのない少女がいた。

僕の存在に気が付かず雄弁に語っていた夕鈴の表情から赤みが消えたと同時に、その女の子も俯き青ざめ震えだした。

ここでは一応温厚な李翔で通しているが、当たり前に皆が黎翔を狼陛下だという事を知っている。

 

「あの、その、申し訳ございません。相談に乗っていたもので、つい・・・。」

「・・・。」

 

言い訳を始めた夕鈴に何も言わず近付くと腰を攫い腕の中に閉じ込め有無も言わさず唇を奪う。

一度重ねると歯止めが利かず腕の中で可愛い抵抗を試みる夕鈴を更に強く抱きしめ薄く開いた唇の間から侵入する。

歯列をなぞり舌先を尖らせて上顎をすっと撫でると夕鈴の腰が揺れ出した。

その様に煽られ唾液を全てなぞり取るように咥内を舌で蹂躙し吸い尽くす。

隠れて密かに震えている夕鈴の舌を見つけ出し己の舌で絡めとり吸い付き撫でると夕鈴がかくっと膝から崩れ落ちた。

唇をそっと離すと美味しそうに色づく頬に口付けを贈り抱きかかえた。

突然の刺激に気をやっている彼女をいいことに抱き上げ、先程まで相談に乗っていたと言う少女に目をやると口をあんぐりと開け真っ赤になって固まっていた。

まだどちらのかわからない唾液が口元に残っていたのを思い出しペロリと舐めると努めて優しい笑みを作った。

 

「ごめんね。また明日来てくれる?」

「っ、す、・・も、申し訳ございませんでした~~~~~~~~!!!!!」

 

少女が出て行ったのを確認してから長椅子に座り彼女を膝の上に下ろしてその温もりを確かめながら棒茶に輝く髪を指で梳いた。

 

「へ~か~、ちょっとやりすぎじゃネ?」

「・・・うるさい!」

「正妃ちゃん(予定)が相手してくれないからってさぁ。」

 

言い終わるのが早いか否か浩大の耳元すれすれに小刀が飛んでくる。

 

「・・・死にたいか?」

「いいえ!」

「わかればよい。警戒は怠るなよ。」

「リョーカイ!」

 

相変わらず一言多い隠密は狼の冷気に晒され早々に気配を消して闇にまぎれた。

 

 

 

 

 

黎翔の機嫌は最悪だった。

王宮ではブリザードが吹き荒れ、例の件を任された水月と方淵は魂が抜ける一歩手前でどうにか踏みとどまっている状態であった。

それと言うのも、二人が急ぎその案件を纏めない限り自らの安寧も訪れないと分かっている官吏達は全員が一丸となってその案件に協力していたために倒れずに済んでいるという綱渡りの状態であったのだが。

先の粛清の件で狼の唯一が王宮に現れなくなってからの黎翔の機嫌は下降の一途を辿り、今やお小言を言うのが仕事の李順ですら何も言えないほどとなっていた。

下町で安全に守られ、日々黎翔は通っていると伝え聞いているのに黒いオーラは一向に減ることなく増え続ける。

それを危惧した官吏達により補佐官2人は支えられ、通常にない速さで草案を仕上げた。

 

「陛下、これを。」

 

目の下に真っ黒に隈を貼り付けた人身御供となった方淵と水月が青ざめながら精魂込めた書簡を差し出す。

黎翔はゆっくりとそれを受け取るとばさっと卓に広げいつも以上に真剣な面持ちでそれを読み進めた。

黎翔が時折眉間に皺を寄せるたびに補佐官2人の背に嫌な汗が流れ、様子を伺う官吏達は震えあがる。

 

いつにない緊張を強いられる時間は静かに流れた。

 

 

 

 

 

「ふむ。悪くない。」

 

黎翔の満足げな声に2人は顔を上げた。

 

「この短期間でよくここまで仕上げた。ご苦労であった。では急ぎ発布、そして施行の準備に移れ。施行までは最短期間で行け。」

「「御意!」」

「それから、いつでも追加、訂正ができるようにしておけ。まだ手探りの案だからな。より良いものにしていくぞ。」

「「はっ!!」」

 

その時黎翔の顔には久しぶりに笑みが浮かび、王宮の温度は大分上がったと言う。

外に控える官吏達も安堵し歓声が上がる。

2人に対し、次々に労いの言葉や感嘆の声が上がる。

 

政務室が1つになった記念すべき日となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____数か月後。

 

其れほど時を待たずして二人の仕上げた法案が施行された。

それは白陽国初の民法であった。

民同士の諍いを法的に判断しようとしたもので、相談所をはじめとし、調停する場を設ける等、誰の目から見ても判断理由を明確にし、感情を介在させない、客観的に判断する場を作り上げた。

一から作り上げたそれは、新しい諍いが起こると協議が持たれ、新しく法を付けたし整備する成長する法律であった。

 

それが整備されるにつれ、商売上でも善悪が明確化されたことにより、白陽での商売はやりやすいと評判になり物流が盛んになる。

売買契約や婚姻等、今までならば泣き寝入りしていたところにも幅広く対応した法律は人の流入も促した。

元より、庶民出の正妃、しかも唯一と王が宣言する国であったため、次第に身分制度の廃止へと動いていく。

広く開かれた王室を自然に作り上げたため、他国からの視察も多く、交流も盛んであった。

 

こうして、冷酷非情と揶揄され、一人孤独に生きていた狼陛下の世は、温かく慈悲にあふれた施政を行ったとして、後世広く賢王として慕われ続けることになる。

また、その隣でいつも慈愛に満ちた表情で王を支える正妃の数々の元気すぎる逸話も数多く残される。

 

 

 

 

 

その全ての始まりが、王の悋気から始まっているなどとは誰も知らない。

 

 

 

 

 

夕鈴がその人の好さから下町で巻き起こる問題のあれこれに首を突っ込み次々と解決に導く様に、次から次へと相談がひっきりなしに来て後宮に戻れないことから始まった立案。

 

「ふぅ、これで名実ともに我が妻だ。」

 

1人胸を撫で下ろした王がいたことは歴史には残されていない。

 

 

 

 

**************** 

  

 

 

こうして陛下はかけがえのない人をその腕に取り戻し、温かな国政を執り行い素晴らしい賢王になったのでした。

  

夕鈴がいないとだめだと思うの。

 

いなくてもきっと夕鈴を思っていろいろ決めると思うけど。

 

そんなもやもや陛下も見てみた気もしますね(●´ω`●)←いぢわる

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道程 番外編 初夜

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道程29

 

さぁ!最終回ですよ!

 

 

 

***************

 

 

「駄目ですったら駄目です!!もったいないです!!」

「で、でも夕鈴!!!」

「でも、も何もありません!兎に角駄目です!」

「・・・」

 

ああ垂れた耳と尻尾が見える気がする・・・。

でもここで私が折れたら国庫が怖い、と言うか李順さんが怖い、気がする。

 

「と、兎に角!私は下町で出産します!大袈裟です!産所とかいりませんからね!最初からその予定ですし。」

「でも、やっと皆に認めさせたし、夕鈴の居場所を取り戻したんだよ?」

 

尻尾をぶんぶん振って褒めて、褒めてと上目遣いで覗き込まれる。

でも、でも、でも・・・。

 

「それについては、ありがとうございます。とても、本当にとても嬉しいです。陛下の御傍に居られるなんて、幸せすぎます。ですが、陛下・・・。」

「・・・陛下・・・。」

「あ、いえ、黎翔様。」

「なぁに?夕鈴。」

「後宮を全て解体して建て直す、と言うのは贅沢すぎます。」

「そうかなぁ。他の妃なんか娶らないという意思表示にもなっていいと思うんだけど?」

「それは・・・そうですが、あの、必要箇所だけ残して壊すことは出来ないでしょうか?それか、何か他に使うとかですね。建物自体は素晴らしいのですからもったいないです!!」

「ふ~ん。じゃあ何かないか考えてみるよ。で、夕鈴は帰ってこないの?」

「こちらだと王宮にいらっしゃる侍医の方しかおりません。産婆さんを連れてくるにも、下町にも妊婦さんはいっぱいいらっしゃいますし、私の為に独り占めすることは出来ません。」

「一国の正妃だぞ。何よりも大切にされるべきだ!国母になるんだよ。」

「いえ、正妃だから、です。大切な民であり、これからの白陽を担う者を生むかもしれない女性の皆さんが安心して出産できないなんて、私、嫌なんです!」

「・・・夕鈴。」

「我儘なのはわかっています。黎翔様が心を砕いてくださっているのもわかってるんです。貴方の傍に居たい。でも・・・。」

 

本当はいつも黎翔様の傍に、近くに居たい。

でも、お世話になった下町の皆の為にできることはしたい。

黎翔様が少しでも悪く言われるようなことはしたくない。

私が陛下のお嫁さんに無事になれる様応援してくれた皆に御子を見せてあげたい。

黎翔様に無事に御子を抱かせてあげたい。

 

色々な気持ちが溢れて考えが纏まらずに涙が溢れだすと黎翔様がギュッと抱きしめてきた。

そのまま頭のてっぺんに口付けされる。

顔を上げて恐る恐る目を合わせると鮮やかに笑う貴方がいた。

 

「わかったよ。君は今まで通り、下町で出産に備えてくれて良い。但し、出産後は落ち着いたらすぐに戻ってきてね。」

「へ、陛下~~~~あ、ありがとうございます。」

「もう、僕ってどんだけ君に甘いのかな。でも、我が民も心優しい后を持って幸せと言うものだな。だからこそ君だ。」

「~~~~~。」

「ほら、もう泣かないで。僕もこれまでと同じように君のところに帰るよ。出産までもう少しだし、ね。」

「す、すみません。ご負担をおかけしてしまって。」

「ん~。でも僕、君に振り回されるの結構好きなんだよね。」

「な、なんですか?それ。私がいつも振り回されていると思います!!」

「君ほんとわかってないよね。」

「それはそっくりそのまま黎翔様に返します!」

 

そう言うと二人で笑って、優しく黎翔様の腕に囚われて胸に顔をうずめる。

 

「黎翔様、大好きです。」

「うん。夕鈴、愛してるよ。」

「わ、私も、あ、あ、愛してます・・・。」

 

耳まで熱を持ったかのように熱く感じる。

 

____カプッ。

 

「へ、陛下~~~~。」

「だって、美味しそうに色づいてたから。」

「だからって、耳、耳、~~~~~。」

「あははは。」

 

やっぱり陛下には適わない。惚れた弱みってやつかしら。

でも、これでいいと思う自分もいて。

一生お互い振り回し、振り回されていくのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして私は下町に戻った。

 

私の出自を明らかにしたのに、紅珠は是非会いたいと下町までやってきた。

私を見るなり抱き付いて来て、泣きながら会えて嬉しいと何度も言って、二人で泣き笑いした。

身分なんか関係ない、私が私であればそれでいいと、黎翔様のようなことを言ってきた紅珠の話を聞いて、後で黎翔様がやきもちを焼いたことは彼女には内緒だ。

 

出産まで何度も訪ねてきた紅珠が妄想を爆発させ、『ある王国の王と正妃の出会いの物語』なるものを執筆し貴族の子女の間で爆発的な人気を博したのはまた別な話。

 

でもそれの影響か、下町に来る貴族子女が増え、それを狙った貴族の子息もやって来て下町はとても賑わいだした。

身分の違う者同士の交流が少しずつ増えて、中には恋仲になっている者たちもいると言う。

 

そうなってくると今度は基本的な教養を下町の女性に教える所も出て来て、下町には学問ブームのようなものまでできた。

 

「黎翔様、あの、ちょっと友達に・・・。」

「ん?」

「女性の為の学問所があったらいいねって、その、陛下にお話しできないかと頼まれまして・・・。あの、すみません!やっぱりいいです!聞かなかったことにしてください!」

「ああ、大丈夫だよ。最近の下町の動向は僕の耳にも入ってきている。僕は官吏の道を全ての民に開いたのは、ゆくゆくは民全体に学ぶ機会を与えたかったからだ。既に女性にも最低限の学を修める環境を整えるべく指示してある。・・・でね、夕鈴。」

「はい?」

「前、言っていたでしょう?後宮の要らない所を何かの役にって。」

「はい・・・あ!」

「うん、後宮は女性しか入れないからね。女性専用の学問所を作ろうと思うんだ。そして、後宮で働きながらであれば無料で授業が受けられるようにしようと思ってる。そうすれば身分や収入に関わらず沢山の民が学べるだろう?」

「わぁ!陛下!すごいです!!それは素敵です!!皆喜びます!!」

「うん、そうだといいな。君にも喜んでもらえたようだし。」

「はい!!」

 

そんなこんなで民の間にいろいろな変化をもたらした二人の成婚はすっかり国民に支持される様になって、古狸どもは寄る年波には適わず、変化に付いていけずにすっかり隅に追いやられてしまう事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして____。

 

 

 

「おぎゃー、おぎゃー。」

「はっ、はっ、はぁーーー。」

「よく頑張ったね、夕鈴ちゃん。ほら、見事な御子じゃよ。」

「あ、おばさん、ありが・・・あ、男の子。」

 

生まれたての御子を産婆さんが夕鈴に見せると夕鈴は涙をつーっと一筋零して綺麗な笑みを浮かべた。

 

長かった。

 

臨時花嫁となって、恋を知り。

無理やり身体を繋げられ、それでも愛しくて大切で護りたかった人と心を通わせることができた奇跡。

そして今、大切な宝物をこの手に抱くことができた。

 

道程は遠く、間違えたかもしれないけれど、これから先は間違えない。

 

ずっと共に____。

 

馬の駆けてくる音が響く。徐々に産所に近づいてくる。

 

愛しいあの人がやって来る。

 

「夕鈴!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

道程 完

 

 

 

************

 

 

おしまいっ!

 

長編にお付き合いくださりありがとうございました!!

 

番外編と、本当の初夜話もあるんですけど読みますか?

 

読まないって言われても近日公開予定!!(#^.^#)

道程28

よしっ!

 

この調子で最後まで一気に上げようと思います! 

 

あと少しです。

 

お付き合いくださるとうれしいです(*‘ω‘ *) 

 

 

 

 

***************

 

 

 

 

桜華の懐妊が裏付けられたその日_____。

 

黎翔は王宮から夕鈴の自宅がある章安区への家路を急いでいた。

今日は夕鈴が肉汁たっぷりの饅頭を作って待っていてくれる約束だったが、桜華の件があり打ち合わせやなんやらでいつもより大分遅い帰りになってしまった。

夕鈴の事だから、懐妊しているといえども必ず起きて待っているだろう。

愛しい娘を想い自然と笑みが零れ足取りも早くなっていく。

 

「ただいま!!」

 

急いで家の門をくぐると嬉しそうに台所から顔を覗かせて夕鈴が出てきた。

 

「お帰りなさいませ!」

「うん、ただいま!!ごめんね、遅くなって。」

 

両腕に夕鈴を閉じ込めながら額に頬に口付けを落とす。

 

「れ、黎翔様!もう、恥ずかしいです・・・。」

 

子も成したし、身体を繋げてから長く歳月がたっているのに、未だにこんなことで恥じらい赤くなる夕鈴は本当に可愛い。

嬉しくて愛しくて頬と頬を合わせてすりすりしていると彼女にやんわりと胸を押し返された。

 

「だ、駄目です。今、肉饅頭を蒸してるんです。浩大がそろそろ来るよって教えてくれたから出来立てを頂いて欲しくて・・・。」

 

此方を見上げながら口を尖らせて離してくれるよう懇願する彼女はやっぱり破壊的に可愛くて、もう一度だけ腕に閉じ込め頭に口付けを落としてから解放すると大人しく卓に座って出てくるのを待った。

本当は付いて行ってずっとくっついていたいけど、

 

「お疲れになっているんですからお座りになってお待ちください!」

 

と可愛く叱られるとそれ以上我儘を言う気になれない。

どこまで夕鈴に溺れてるのかと自嘲してしまうが、それも悪くないと日々を過ごすうちに受け入れられるようになった。

元々彼女への気持ちが定まらず、見ない振りをしていた頃に比べると箍が外れたせいかどんどん好きになっている気がする。

こんな幸せが自分に用意されていたのならば、過去の色々な暗い闇はバランスを考えると仕方のないことかもしれないとまで思う。

それくらいに夕鈴という存在は自身の中で光り輝く存在であり、そういう者と出会えた奇跡に本当に感謝している。

だが同時に、これから先を共に手を取り歩んでいくためには、この闇を彼女に隠し続けるわけにはいかないだろう。

 

いつもより遅い夕餉を取り、彼女が入れてくれたお茶を飲みながら思案していた。

 

「黎翔様?」

「ん?」

「あの・・・、何かありましたか?」

「なんで?」

「先程から考え込んでらっしゃるので・・・。あの、私でよろしければ、お話していただけませんか?あっ、でも、っ、お役には立てないかもしれませんが・・・。」

 

心配そうな顔をしていたかと思うと青ざめて俯いてしまった。

コロコロ変わる君の表情を見ているだけで、僕がどれほど癒されているか君は知らないんだろうな。

腕を引っ張り膝の上へと誘うとお腹に気を付けて腕を回して抱き締め息を吸い込む。

 

「はあ~。ゆーりん、いい匂い。」

「や、なに?かがないでく~だ~さ~い~。」

 

涙目で後ろを向いて睨み付けてくるその仕草が愛おしくて顔中に口付けを落とす。

本当は真綿で包んで何も見せたくはないけれど、それはきっと君を傷つけるだろうから、意を決して話を切り出した。

 

「あのね、桜華の事なんだけど。」

「・・・はい。」

 

桜華の名を出した途端身体が強張る君が切なくて。

 

でも、決めたんだ。

 

共に。

 

だから、これ以上不安に思わなくて済むように手を強く握ると、君は力を抜いて身体を預けてきた。

 

「それで、今日遅くなっちゃったんだけど。」

「はい、それは・・・浩大から御正妃様の件で遅くなるってだけ聞きました。」

「えっとね、それで・・・。」

 

どう言っても誤解されそうで何と話せばよいか言葉に詰まってしまう。

本当に夕鈴にかかると狼陛下も形無しだな、なんて思う。

 

「う~ん、桜華がね、倒れたんだよね。」

「え?大丈夫ですか?」

 

素直に心配してくる君が可愛い反面、面白くないと感じてしまうことは黙っておこう。

 

「うん。貧血なんだって・・・懐妊からくる・・・。」

 

言ってしまった。

夕鈴の目が見開かれて明らかに驚いていることが見て取れる。

やっぱり誤解させてしまったかと、どう説明しようかと落ち込んでしまった。

 

「懐妊?・・・誰の御子ですか?誰かと不義密通とか言うやつですか?え?いつの間に?そんな事できるんですかね?黎翔様、大丈夫ですか?」

 

全く疑う事もなく、まっすぐな瞳で僕を見つめ返してくれる。

 

「黎翔様・・・?」

 

不思議そうに小首を傾げて僕を覗き込んでくる態はあまりにも可愛くて。

 

「ああ、これだから、君には全く勝てる気がしない。」

 

降参するしかない。

この全幅の信頼に応えなければ王でいる資格もないとすら思う。

 

「なんですか?それ?」

「ふふ、夕鈴って本当に僕のこと好きだよねって話。」

「なんですかそれ~!そんな話はしていません!!」

「うん、わかってる!僕も君が大好きだよ。」

「そ、そ、そんな事~~~~~。わ、私だってわかってます。信じています。」

 

じーっと見つめてくるうるうるとした瞳。

 

____囚われているのは私の方だな。

 

ふっ、と笑うと唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「____、という事なんだよ。」

「はぁ~、それは・・・。陛下、大変ですね。」

「陛下になってる・・・。」

「あ!す、すいません!つい・・・。王宮の話でしたので。」

「ま、いいけどね。」

 

事の次第を話すと夕鈴は静かにじっと聞いていた。

時に目に涙を溜めて何かを言いたそうに唇を動かしていたけど、最後まで何も言わずに聞いていた。

優しい彼女の事だから、きっと桜華にも同情したのだろう。

でもそれを口にしないと彼女が決めたのならば、僕はそれを受け入れ、彼女がこれ以上苦しまないように頑張ろうと思う。

それが彼女の決意の表れだろうから。

 

「でさ、明日なんだけど、迎えを寄越すから、几鍔たちと一緒に王宮に来て欲しいんだ。」

「え?だって明日は桜華様の件でお忙しいのでは?」

「うん。それはそれ。でね、夕鈴が来ないと駄目なことがあってさ。お願い。ね?」

 

彼女がお願いに弱いことは知っているので殊更弱った顔をして両手を合わせ拝む。

 

「わ、わ、黎翔様。王様がやめてください!行きます!行きますから!!」

 

ふふふ、やっぱり夕鈴は可愛いなぁ。焦った顔も可愛い。

 

「じゃあ、う~んと、克右を寄越すよ。明日も忙しいし、今日はもう寝よう。」

 

そう言って、夕鈴を抱きかかえて寝台へ向かう。

 

「もう、歩けるって言ってますのに。」

 

誰も見るわけでもないのに顔を真っ赤にして毎日同じように反論してくるのも可愛い。

 

「僕が抱き締めたいだけだからいいでしょ?」

「~~~~~。」

 

真っ赤な顔を僕の胸に埋めて首の後ろに両腕を回してくる君に温かなものが心に広がる。

寝台にゆっくり下ろして共に掛け布に入るとお腹に当たらないように後ろから抱きしめた。

 

「お休み、僕のお嫁さん。」

「お休みなさいませ。旦那様。」

 

悪戯っ子の様に笑いあって、優しい眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

桜華が引き摺られる様に出て行った謁見の間は沈黙が流れていた。

桜華の奇声とも狂声とも取れる叫び声が遠くなり消え去ってもなお沈黙を守る陛下の次の言の葉を臣下は息を飲んで待ち続けていた。

 

重い空気に耐えかねて臣下の一人が口を開けた。

 

「陛下、僭越ながら、此度の件、これで収拾したという事でよろしいかと存じますが・・・。」

「・・・」

「後宮はまた妃の居らぬ張りぼてになってしまいました。もしよろしければ、いえ、是非に、後宮を整える役を私に担わせていただきたいと存じます。」

 

前回の後宮入りの期を逃した高官はこれ幸いとばかりに先手に出ようと勇み出た。

 

「・・・まぁ、待て。お前たちは今日の予定が何だったか覚えていないのか?」

 

黎翔は相変わらず玉座にゆったりと座り大きく足を組んで酷薄な笑みを浮かべ皆を見まわした。

 

桜華が出て行った後を追う様に退席していた李順が戻ってきて黎翔に耳打ちをすると、黎翔は今まで不機嫌全開で難しい顔をしていたのを瞬時王の威厳を纏った酷薄な笑顔へと変化させた。

黎翔がその場で立ち上がり手を上げると、太鼓が鳴り響き外へと続く扉が開け放たれた。

と同時に、太陽の光が部屋に広がり玉座に向かって一筋の光を作り出す。

 

その光景を見ていた大臣、高官たちは声高に話し出した。

 

「・・・こ、これは・・・!!」

「太陽神の祝福を授けられたという事か?」

「・・・っ」

 

今日は4年に一度、謁見の間の玉座に光が差す日であり、この日に光が差さなかった王の時代は長くは続かないと言い伝えられている大事な行事の日であった。

またそれは正妃を伴って行う行事であり、光が差さない場合は正妃の責任を取らされ斬首刑になった者もいると言うあまり目出度くもない歴史もあるものであった。

 

「陛下、此度祝福を授けられたこと誠に目出度きこと。言祝ぎを申し上げます。」

 

皆がざわつく中柳、氾両大臣が先んじて拱手し頭を垂れて祝いの言葉を紡ぐと、呆然と立ち尽くしていた臣下達も我に返り次々と言祝ぎを申し出た。

 

「しかし、何やら騒がしくはないか?」

「この目出度き時に何事であるか?」

 

謁見の間に居並ぶ臣下達は自分たちの言祝ぎが終わってもなおざわついている気配に何事かと顔を見合わせる。

 

再び太鼓が鳴り響くと、先程まで真っ直ぐに玉座を照らしていた光線に一筋の影が差した。

 

皆の視線が扉の方へ向けられると太陽を背に美しく着飾った一人の女性が侍女に手を引かれ入ってきた。

 

「あ、あれは!!」

「っ、・・・自ら退宮した妃ではないか!」

「何故大切な行事であるこの場に!!」

「たかが元寵妃が臨席してよいものではない!早急に退室されよ!!」

 

久しぶりに現れた元寵妃に臣下達の多くは侮蔑の言葉を送り、下がるよう進言した。

 

「今、何と申した?わが后を愚弄したものは誰だ?」

 

黎翔の冷たく凍るような声が響き渡ると臣下の多くは口を閉ざし青ざめて俯くことしか出来ない。

 

「陛下、后・・・、と申されましたか?」

 

やはりここでも常に落ち着き払った態度である氾大臣が口を開いた。

 

「ああ。我が唯一だ。后以外あり得まい。」

「そうであられましたか。本日の行事は御正妃さまと執り行うのが常ですから少々心配しておりましたが・・・。」

「大事ない。・・・夕鈴、ここへ。」

 

黎翔が手を差し出すと夕鈴は久しぶりの妃然とした笑顔を引きつりながらも湛え、手を重ね一段高い所へ上った。

見ると玉座の傍に明らかに新しい正妃の座が整えられており、これはもう決定事項であることを皆に見せつけていた。

 

「し、しかしながら、陛下。この方を妃に迎えられ寵愛するのは構いませんが、何も持たない女性が一国の正妃になど到底認められるものではありません!」

 

先程後宮を整える役を買って出ようと申し出た高官が食い下がる。

 

「何も持たぬ、と?」

 

黎翔は夕鈴への甘い笑みをすっと変化させ獲物を見据えるかのような目付きでその高官を睨み付けるが高官も自分の家を反映させるために必死である。

 

「はっ!その娘、庶民の出だと言うではありませんか!そんな陛下の為にならぬ妃など今まで通り下位の妃として留め置き、陛下の為、国の為となる素晴らしい姫を娶るべきかと存じ上げます。」

「ふむ。お前の言う事も尤もではあるな。がしかし、私は此度の後宮での諍い事にとても心を痛めておるのだ。あの様な事が起こることは私の本意ではない。無駄に命を散らす必要などないのだ。桜華はともかく、他の者は皆我が白陽の大事な民であった。二度とあの様な事が起こらぬよう、私は妃は一人でよいと思うに至ったというわけだ。妃の腹には私の子が居る。彼女が国母だ。にも拘らず正妃にしない、と言うのは道理に適わぬだろう?」

 

黎翔の言葉を聞いて部屋にいる全ての者の目が夕鈴のお腹に注がれた。

お腹が目立たぬようゆったりした衣装に身を包んでいた上に、急に現れた元寵妃に驚いたこともあり、お腹の膨らみに気が付かなかったのだ。

愛おしげに夕鈴の腹に目をやり甘い笑顔を向ける黎翔を見て臣下達は諦めざるを得ないことをやっと悟ったのである。

元より、前回の後宮での件で釘を刺されていた柳、氾両大臣が何も言わず恭順の意を表していることにこれ以上否を唱えることも利口ではないと判断した様であった。

 

「それでは、皆様、夕鈴様を白陽国王、珀黎翔陛下の御正妃様にお迎えする、という事でよろしいですね。」

 

畳みかけるように李順が臣下たちに問うと

 

「「「「「「御意!!陛下、御正妃様、おめでとうございます!!」」」」」」

 

何十人もの声が重なり恭順の意を示した。

すると急に扉の向こうから地を這うような声が響いてきた。

 

「やった~!」

「おめでとう!!」

「陛下、夕鈴ばんざ~い!!」

「幸せになれよ!!」

 

多くの言祝ぎの言葉が次から次へと聞こえてくる。

 

「ふふ、困りましたね。民の心を此処までつかんでしまうとは。」

 

氾大臣が不敵な笑みを浮かべて言うと、

 

「何も持たぬのだ。これくらいはして貰わねばな。」

 

柳大臣は苦虫を噛み潰したように言葉を零した。

 

 

 

 

 

そうして夕鈴は後宮へ戻った。

 

 

 

 

 

____わけではなかった。

 

 

 

 

 

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つづく

 

簡単には帰らなかったりして( *´艸`)

道程27

 

今日は少し時間があるので今のうちに!

 

最後まで転載できるかな?←何に挑戦だ? 

 

 

 

 

 

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___なんで?何?どうなってるの?陛下~~~~~~。___

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、白陽国正妃である桜華は朝から落ち着きがなかった。

やっと本当に愛しい人である、と気が付いた黎翔と会えるのではあるが、場所が謁見の間。

しかも時間も知らされず、兎に角呼ばれたら来るようにとの言伝である。

正妃の殿入口並びに周囲には護衛兵と呼ばれる兵が常駐しており、抜け出すことも、また誰も入り込むこともできず、母国から連れてきた数名の侍女と共に殿に半ば軟禁状態であった。

 

その為、後宮の片隅がいつもより騒がしかったことも気が付かず、侍女たちのいつもにはない弾むような声を聞くこともなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「陛下。そろそろ良いかと思います。」

 

李順は眼鏡を光らせて黎翔に拱手し頷いた。

 

「ふっ。やっとここまで来たか。」

「はい。全く、使わなくてもよい時間を無駄に使ってしまった気はしますが。」

「言うな。仕方あるまい。わかっている。」

 

黎翔は苦笑いを浮かべつつ、愛しい娘との出会いから今までを思い浮かべ知らず優しい笑みを浮かべた。

 

「陛下。その顔はいけません。隠してください。」

 

先程まで拱手していたが、態を崩した黎翔に口元を歪ませて注意を促す。

 

「わかっている。お前はうるさいな。」

「これが私の仕事ですから。」

 

しれっと言われては何も言い返せず、黎翔は狼陛下そのものの表情に戻した。

 

「では、参る。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「国王陛下の御成りです。」

 

先導を務める侍官の声が謁見の間に鳴り響くと同時に黎翔が国王の正装を身に纏った姿で現れ悠然とした動きで玉座に座った。

その姿を見て、何も知らされず謁見の間に呼ばれていた大臣、高官らは目を見張った。

国王の正装は国賓が来た時や宴、儀式の時くらいのものである。

特に黎翔の代になってからは華美を嫌う傾向にあるため、正装といって略装も多かったのだ。

 

一体これからこの部屋で何が行われるのか。

皆は小声で囁き始めた。

 

「御正妃様の御成りです。」

 

黎翔が謁見の間に来て暫くすると正妃付きの侍女の声が響き、正妃である桜華が謁見の間に姿を現した。

こちらも正装ではないものの、常より着飾られており、黎翔に久しぶりに会えるという喜びを表していると言えなくもなかった。

がしかし、桜華の心中はそれどころではなく、少し目立ち始めた腹を幾重にも重ねた衣で隠し、肌色の悪さを隠すために濃い目の化粧を施し、装飾品で飾り付けることで皆の目線を眩ますことに侍女が躍起になった、その成果であっただけである。

 

桜華は居並ぶ大臣達の間を真っ直ぐに先導されたまま黎翔の足元まで進むと拱手し頭を垂れて黎翔の言葉を待った。

本来ならば桜華は正妃である。

黎翔に拱手をする必要はなく、玉座の傍にある正妃の座に座れる立場にあるはずである。

しかし今日はそこには正妃の座はなかった。

それに気が付いた大臣達はまたもやざわめき始めた。

 

____正装で迎えた相手は自国の正妃であるにも拘らず正妃の座がないというのは・・・。

 

ヒソヒソと小声で囁かれている内容ははっきりとは聞こえないものの、桜華を貶めるであろう内容であろう事は間違いないであろう。

桜華は全身が震えるのを口元を噛み締めて我慢しようとしたが叶わない。

拱手したままふらついた桜華を両側から侍女が支えた。

 

「その場で座って良いぞ。身体に障るであろう。なぁ、桜華?」

 

ふらついた桜華に、言葉は優しいものの冷たい氷のような響きで口を開いたのは黎翔であった。

 

「・・・申し訳ございません。座らせていただきますことお許しくださいましてありがとうございます。」

 

いつにない桜華の黎翔への丁寧すぎる物言いに白陽国の臣下は驚きを隠せない。

桜華の黎翔に対する態度は不敬に当たるのではないかと思うものも多かったのだ。

それが許されるくらいに黎翔の寵愛を受けているのだと皆に奢り誇っていた桜華の態度の変化。

 

____只事ではない・・・。

 

桜華と同様、謁見の間に居並ぶ臣下達もまた、口を引き結び、事の成り行きを黙って見守っていた。

 

「して、我が正妃・・・いや、桜華よ。誰の子だ?それは?」

 

黎翔は玉座に座ったまま、脚を大きく組み、酷薄な笑みを浮かべながら言った。

 

「・・・。」

 

対する桜華の震えはどんどん大きなものになっていく。

 

「答えられぬ、か?」

「・・・。」

「良かろう。では、お前たちに問おう。我が白陽の民である臣下よ、正妃の腹に居るべきなのは誰の子だ?」

「勿論、陛下の子であるべき、で御座います。」

 

間髪入れずに柳大臣が立ち上がって答えた。

 

「ふむ。では、桜華。もう一度問おうぞ。その腹の子は誰の子だ?」

「・・・れ、・・陛下の御子でございます。」

「では、氾大臣に問おう。私は桜華が戻ってきてから正妃殿に通ったか?」

「・・・。」

「氾、答えよ。」

 

暗に氾が正妃の殿を監視していたことを知っているという事を示唆した問いに顔を強張らせながらもいつもの飄飄とした笑みを湛えたまま答えた。

 

「・・・通ってはおりません。裏は取れて御座います。」

「ふっ。役に立ってよかったな、氾。」

「・・・御意。」

 

妃放逐後、今度こそ紅珠を後宮入りさせるため期を伺っていたが、これで釘を刺された形になり頭を垂れたまま口元を歪ますことしかできない。

柳大臣がこれぞ好機とばかりに追及を始めた。

 

「では、御正妃様は懐妊なさってはいるが御子は陛下の御子ではない、ということで間違いないわけですな。」

「そういう事になろうかと。」

 

幾分気を取り直して氾大臣が答える。

両大臣のやり取りを聞いて他の大臣、高官たちの目が桜華の腹に向けられた。

 

____腹は出てないぞ。

いや、誤魔化しているのではないか?

中には産み月まで目立たぬ者もいると言うぞ。

ならば誰の子だ?

陛下の御子ではないようだぞ。

誰ぞ後宮に引き入れたのか?

いや、相手は白陽の者ではないかもしれぬぞ。

そうだ、暫くお国に帰られておられた。

 

臣下達は思う思うに考えを口にし、謁見の間はさながら井戸端会議の様相を見せていた。

 

「~~~お、御子は陛下の御子です!」

「見苦しい。お前も王族だろう。身の振りを考えよ。」

「わ、私は陛下を真に想っております!その私が他の者の子なぞ宿すわけが御座いません!陛下!お判りでしょう?」

「お前の想いなど煩わしいだけだ。よくも我が国を謀ってくれたものだ。軽く見られたものよ。なぁ、柳よ。」

「とは、どういう意味でしょうか?陛下。」

 

後宮を本来の姿に整える様再三進言した柳大臣は臣下の礼を取って次の言葉を待った。

 

「・・・。」

 

謁見の間に沈黙が流れた。

 

カツンッ!

 

玉座に座る黎翔の顔の横ぎりぎりを通り後ろの壁に矢が刺さった。

 

「何者ぞ!」

「陛下を狙うとは、不届き者を捕え!」

 

臣下は我先に手柄を立てんと立ち上がった。

 

「皆の者、大事ない。これは我が手による物だ。しばし待て。」

 

よく見ると刺さった矢には文が縛り付けられていた。

傍に控えていた李順が弓ごと黎翔に渡すと文を解き読み進めた黎翔に酷薄な笑みが浮かぶ。

 

「これはお前の祖国、輝蘭国へやった者からの文だ。と言っても、文を書いたのは其方の父王だがな。」

「えっ?な、なんと・・・。」

「ふむ、聞きたいか?ならば仕方ない。読んでやろう。ここにはこう書いてある。皇女桜華は亡くなった、とな。」

「はっ?それはどういう・・・、そんな、馬鹿な!!」

「お前はもう自国の皇女でも何でもないそうだ。」

「ま、まさか、父上がそんなことを言うはずなない!私には父上の子が居るというのに!!っ!!」

「・・・という事だ、柳。お前だったな。輝蘭との縁談を強く勧めていたのは。」

 

黎翔の声が冷たく謁見の間隅々にまで響く。

機会を見て再び縁の者を後宮に入れたかった柳もまた氾同様釘を刺された形になった。

 

「・・・はっ。」

 

そのやり取りを聞いていた桜華の侍女たちは崩れ落ち、青ざめ気を失うものもいた。

謁見の間に立ち並ぶ臣下は輝蘭国の暴挙に陛下がどうするのか考えて青ざめ口を引き結ぶことしかできない。

 

「よくも我が国を謀ってくれたな。まぁ、良い。これは良い機会だ。なぁ、柳、氾両大臣よ。急ぎ収拾に当たれ。我が白陽の為全力で仕えよ。良い知らせを待つ。」

「「御意!!」」

 

「さて、桜華。お前はどうする?輝蘭はもうお前は要らぬらしい。戻りたいと言うなら戻っても良いぞ。」

 

今日初めて黎翔は狼陛下の甘く優しい笑みを浮かべ問うた。

 

「・・・れ、陛下。私は貴方を嘘偽りなく愛しています。どうか、御傍においていただけないでしょうか?」

 

黎翔の笑みに幾分緊張が解けた桜華が頬を赤らめて見上げながら言った。

 

「降格をしてもか?」

「・・・。はい。貴方の傍に居られるならば。お願いします。御慈悲を。」

「祖国に戻った方が幸せではないか?」

「いいえ!いいえ!この地に居たいのです!!」

「・・・ほう。この白陽にか?」

 

父王が自分を死んだというのなら、戻ったとしても間違いなく命はない。

それならば、愛しい人のいる国に残りたいと思った。

受け入れられそうな気配を読み、桜華の顔に希望の光が浮かんだ。

 

「はい!」

「ふむ。なれば、妃位は剥奪、輿入れした事実は抹消の上処遇が決まるまで王宮で待機せよ。」

「は、はい!ありがとうございます!!」

 

黎翔は酷薄な笑みを浮かべると頷いた。

 

「衛兵!!この女を連れて行け!!」

「はっ!!」

「え?衛兵?なんですって?どうして私が!!王宮待機と仰ったではないですか?」

「ああ、王宮、と言ったのだ。我が臣下でも民でもないものが王宮待機と言ったら牢に決まっておろう?」

「だ、騙したな!!」

「騙してなど居らぬ。其方が勝手に思い違いしたのだろう。私がその子を腹に宿した其方を許すと本気で思ったか?甘く見られたものだ。・・・連れて行け。」

「いや~~~~!!!!!黎翔~~~!!!」

「二度と私の名をその口で紡ぐな。次は頭と胴が離れると思え。」

「~~~っ!!」

 

錯乱状態に陥った桜華は両脇を衛兵に抱えられ引きずられるように謁見の間を後にした。

そして、輝蘭国から桜華と共にやってきた侍女たちもまた衛兵に引き連れられていった。

 

 

 

*************

 

 

 つづく