道程 番外編 その後

 

これは確か、SNSでキリ番リクエストで書いたものです。

 

是非、道程のその後が見たいです、と。

 

ウキウキして書いたのを覚えています。

 

何故か話が長くなるタチなので、一話なのですが長いです。

 

お時間が許すときにでも読んでくださいませ。 

 

 

 

 

 

 

***************

 

 

 

 

「ゆーりん・・・。」

 

王宮に王の寂しそうな声が響いた____。

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

「夕鈴!」

 

黎翔が産所に駆け付けた時、夕鈴は既に宝物を産み落していた。

 

「間に合わなかった・・・。」

「そんなに落ち込まなくても・・・。黎翔様は尊き御身です。本当ならこんな所に来れないんですよ?」

 

子を産む場所は穢れとされ、王が立ち会うなどもってのほか。

それどころか通常入ることも禁じられている。

 

「だって・・・。折角皆と同じように産むのならば、傍に居たかったんだ・・・。」

 

耳を垂れ尻尾をしょぼんと垂らした幻が見え夕鈴は苦笑いする。

 

「もう!黎翔様はどこまでも私を甘やかして!子を産むのは女の仕事です!信じてないのですか?」

 

口を尖らせて横になったまま見上げてくるお嫁さんが可愛くて、黎翔はそっと額に口付けを落とした。

 

「信じてるよ?でも・・・心配なんだ。」

「もう!・・・あり、がとうござい、ます。」

 

どちらからともなく手を繋ぎ指を絡ませてぎゅっと握り合い微笑む。

夕鈴の規則的に上下する胸の上で幸せそうに眠る子を、暫く二人で見つめ続けた。

 

 

 

 

 

「夕鈴。ありがとう。」

「え?」

「僕に家族をくれて。」

「・・・。」

「うーん、なんか違うな。えっと幸せな日々をくれて、かな?」

「黎翔様・・・。」

「警備は増やしてあるけど、心配だし寂しいから、早く帰って来てね?」

「はいっ!わ、わたし、も、・・・寂しい、です。」

 

最後は口ごもって小さな声になってしまっていたけど、頬を紅く染めて嬉しそうに微笑んでいる彼女は相変わらず破壊的に可愛い。

子を今さっき産んだというのに相変わらず初々しくて清らかさはそのままで。

だけども慈愛に満ちた瞳にはどうやっても勝てそうにないくらいの威力がある。

彼女にこれからも翻弄されるだろう未来を思って1人溜息をついたのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

生まれた子は男の御子だった。

世継ぎが生まれたことは、夕鈴とそのお腹の御子を守り続けた下町にあっという間に伝え広がり次から次へと言祝ぎが届けられた。

老師があまりもの嬉しさから小躍りしてまた腰を痛めたのはまた別の話。

 

黎翔譲りの漆黒の髪に王族の証しである紅く輝く瞳。

名を章翔と名付けられた。

夕鈴が生まれ育ち、また守ってくれた優しい皆がいる場所である章安区。

そこで生まれた王族である息子に、素晴らしい民が付いていることを覚えていて欲しい。

民がいてこその王族であることを忘れないで欲しい。

その想いから二人で相談して授けた名であった。

 

下町の住民は夕鈴が自宅に戻ってからも精を付けろと毎日何か食べ物が届けられ、夜泣きが酷いと少しの時間でも寝れるようにと御子を預かってくれた。

時には浩大がちょっとアクロバティックにあやしたりして夕鈴に雷を落とされることもあったのは御愛嬌だ。

夕鈴は後宮にいる時並にのんびりできたし、章翔も皆の愛情に包まれすくすくと育った。

 

黎翔は相変わらず政務をするために王宮に通い、なるべく二人と共に過ごせるよう精力的に政務をこなしていた。

 

 

 

はずだった____。

 

 

 

 

 

***********

 

 

 

 

 

____数か月後。王都乾隴章安区。

 

「ゆーりん、まだ帰ってこないの?」

 

この国の王は難攻不落の正妃(予定)に手をこまねいていた。

 

「だって、私だって帰りたいんです!せ、正式に、黎翔様のお、お、お・・・。」

「お?」

「お、・・ふぅ。お、奥さんにな、りた、い・・・です。」

 

顔を真っ赤にして涙を瞳に湛える夕鈴に嗜虐心が湧く。

思い通りにならない彼女をどうしてやろうかと瞬時に憂い想いが頭をもたげ彼女の腰を攫い何時もの様に膝の上に誘い腕で囲い込んだ。

 

「れ、れ、黎翔様~~~~~?」

 

目をぐるぐる回して必死に手で囲いを破ろうと押してくるけど構わない。

逃がす気などないのだから。

そのまま旋毛に口付けて、驚いた拍子に上げた顔にも口付けを落とす。

片方の色付く頬に逃げられないように手を寄せて、震えるまつ毛に何度も口付けを落とす。

恥ずかしそうに真っ赤に染まった鼻にもちゅっと吸い付く。

 

「やっ!」

 

拒絶するような言葉を発した柔らかく色付く唇は塞いでしまうに限るだろう。

彼女が身を捩って逃げようとするのを押さえつけ、頭の後ろを手で押さえて固定すると拒絶する言葉ごと絡め取るように唇を重ねた。

角度を変え何度も何度も、わざと音が鳴るように口付ける。

何か言いたそうにもごもごしている唇の隙間から舌を挿し入れ、僕しか知らない彼女の内側に侵入する。

長い間触れていない場所を彷彿とさせて身体の中心が疼きだす。

 

____欲しい。

 

彼女を思うままに蹂躙し味わい尽くし啼かせたい。

止めてと艶を帯びた熱い目で懇願されそれでもやめてやれないだろう自分が容易に想像できて笑みが零れる。

 

____おぎゃー!ふぎゃー!

 

聞こえた瞬間それまで蕩ける様な顔で僕に身を預けていた君の瞳が見開かれ、ドンっと胸を強くおして膝の上から飛びのいた。

 

「ゆ、夕鈴・・・。」

「あ、や、う、・・・。うわーん。」

 

真っ赤な顔で口元を両手で押さえると正に脱兎のごとく章翔の元へ去って行ってしまった。

 

「ゆ、ゆーりん・・・。」

 

孤独な狼は柔らかく温かい兎を寸でのところで逃がしてしまい、息子にまで悋気を抑えきれない自分を持て余していた。

 

 

 

 

 

***********

 

 

 

 

 

「陛下。この案件は?」

「ああ、急ぎ取り掛かれ!もう待てん!」

「・・・これを、急ぎで?」

「ああ。」

「・・・。」

「方淵と水月にさせよ。他の案件は一切回すな!」

「・・・はぁ~。御意。」

 

黎翔の鬼気迫る様に側近の李順ですら意見をいう事が憚れ、と言うか、馬に蹴られてなんとやらになるのも面倒くさいと思い補佐官にそのまま投げることにした。

 

 

 

 

 

そして今日も王は下町の愛しい妻の元に通う。

 

「夕鈴、ただいま!」

「だからね、なんでそうなるの?」

「・・・。ゆーりん・・・。」

「どうして泣き寝入りするのよ!付けあがらせるだけだわ!私が行って・・・。」

「我が妻は愛しい夫をほったらかしにしてどこへ行くと言うのだ?」

「へ?あ、れい、李翔さん!すみません、気が付かなくて・・・。」

 

勇ましく握り拳を作って掲げた彼女の前には見たことのない少女がいた。

僕の存在に気が付かず雄弁に語っていた夕鈴の表情から赤みが消えたと同時に、その女の子も俯き青ざめ震えだした。

ここでは一応温厚な李翔で通しているが、当たり前に皆が黎翔を狼陛下だという事を知っている。

 

「あの、その、申し訳ございません。相談に乗っていたもので、つい・・・。」

「・・・。」

 

言い訳を始めた夕鈴に何も言わず近付くと腰を攫い腕の中に閉じ込め有無も言わさず唇を奪う。

一度重ねると歯止めが利かず腕の中で可愛い抵抗を試みる夕鈴を更に強く抱きしめ薄く開いた唇の間から侵入する。

歯列をなぞり舌先を尖らせて上顎をすっと撫でると夕鈴の腰が揺れ出した。

その様に煽られ唾液を全てなぞり取るように咥内を舌で蹂躙し吸い尽くす。

隠れて密かに震えている夕鈴の舌を見つけ出し己の舌で絡めとり吸い付き撫でると夕鈴がかくっと膝から崩れ落ちた。

唇をそっと離すと美味しそうに色づく頬に口付けを贈り抱きかかえた。

突然の刺激に気をやっている彼女をいいことに抱き上げ、先程まで相談に乗っていたと言う少女に目をやると口をあんぐりと開け真っ赤になって固まっていた。

まだどちらのかわからない唾液が口元に残っていたのを思い出しペロリと舐めると努めて優しい笑みを作った。

 

「ごめんね。また明日来てくれる?」

「っ、す、・・も、申し訳ございませんでした~~~~~~~~!!!!!」

 

少女が出て行ったのを確認してから長椅子に座り彼女を膝の上に下ろしてその温もりを確かめながら棒茶に輝く髪を指で梳いた。

 

「へ~か~、ちょっとやりすぎじゃネ?」

「・・・うるさい!」

「正妃ちゃん(予定)が相手してくれないからってさぁ。」

 

言い終わるのが早いか否か浩大の耳元すれすれに小刀が飛んでくる。

 

「・・・死にたいか?」

「いいえ!」

「わかればよい。警戒は怠るなよ。」

「リョーカイ!」

 

相変わらず一言多い隠密は狼の冷気に晒され早々に気配を消して闇にまぎれた。

 

 

 

 

 

黎翔の機嫌は最悪だった。

王宮ではブリザードが吹き荒れ、例の件を任された水月と方淵は魂が抜ける一歩手前でどうにか踏みとどまっている状態であった。

それと言うのも、二人が急ぎその案件を纏めない限り自らの安寧も訪れないと分かっている官吏達は全員が一丸となってその案件に協力していたために倒れずに済んでいるという綱渡りの状態であったのだが。

先の粛清の件で狼の唯一が王宮に現れなくなってからの黎翔の機嫌は下降の一途を辿り、今やお小言を言うのが仕事の李順ですら何も言えないほどとなっていた。

下町で安全に守られ、日々黎翔は通っていると伝え聞いているのに黒いオーラは一向に減ることなく増え続ける。

それを危惧した官吏達により補佐官2人は支えられ、通常にない速さで草案を仕上げた。

 

「陛下、これを。」

 

目の下に真っ黒に隈を貼り付けた人身御供となった方淵と水月が青ざめながら精魂込めた書簡を差し出す。

黎翔はゆっくりとそれを受け取るとばさっと卓に広げいつも以上に真剣な面持ちでそれを読み進めた。

黎翔が時折眉間に皺を寄せるたびに補佐官2人の背に嫌な汗が流れ、様子を伺う官吏達は震えあがる。

 

いつにない緊張を強いられる時間は静かに流れた。

 

 

 

 

 

「ふむ。悪くない。」

 

黎翔の満足げな声に2人は顔を上げた。

 

「この短期間でよくここまで仕上げた。ご苦労であった。では急ぎ発布、そして施行の準備に移れ。施行までは最短期間で行け。」

「「御意!」」

「それから、いつでも追加、訂正ができるようにしておけ。まだ手探りの案だからな。より良いものにしていくぞ。」

「「はっ!!」」

 

その時黎翔の顔には久しぶりに笑みが浮かび、王宮の温度は大分上がったと言う。

外に控える官吏達も安堵し歓声が上がる。

2人に対し、次々に労いの言葉や感嘆の声が上がる。

 

政務室が1つになった記念すべき日となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____数か月後。

 

其れほど時を待たずして二人の仕上げた法案が施行された。

それは白陽国初の民法であった。

民同士の諍いを法的に判断しようとしたもので、相談所をはじめとし、調停する場を設ける等、誰の目から見ても判断理由を明確にし、感情を介在させない、客観的に判断する場を作り上げた。

一から作り上げたそれは、新しい諍いが起こると協議が持たれ、新しく法を付けたし整備する成長する法律であった。

 

それが整備されるにつれ、商売上でも善悪が明確化されたことにより、白陽での商売はやりやすいと評判になり物流が盛んになる。

売買契約や婚姻等、今までならば泣き寝入りしていたところにも幅広く対応した法律は人の流入も促した。

元より、庶民出の正妃、しかも唯一と王が宣言する国であったため、次第に身分制度の廃止へと動いていく。

広く開かれた王室を自然に作り上げたため、他国からの視察も多く、交流も盛んであった。

 

こうして、冷酷非情と揶揄され、一人孤独に生きていた狼陛下の世は、温かく慈悲にあふれた施政を行ったとして、後世広く賢王として慕われ続けることになる。

また、その隣でいつも慈愛に満ちた表情で王を支える正妃の数々の元気すぎる逸話も数多く残される。

 

 

 

 

 

その全ての始まりが、王の悋気から始まっているなどとは誰も知らない。

 

 

 

 

 

夕鈴がその人の好さから下町で巻き起こる問題のあれこれに首を突っ込み次々と解決に導く様に、次から次へと相談がひっきりなしに来て後宮に戻れないことから始まった立案。

 

「ふぅ、これで名実ともに我が妻だ。」

 

1人胸を撫で下ろした王がいたことは歴史には残されていない。

 

 

 

 

**************** 

  

 

 

こうして陛下はかけがえのない人をその腕に取り戻し、温かな国政を執り行い素晴らしい賢王になったのでした。

  

夕鈴がいないとだめだと思うの。

 

いなくてもきっと夕鈴を思っていろいろ決めると思うけど。

 

そんなもやもや陛下も見てみた気もしますね(●´ω`●)←いぢわる

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道程 番外編 初夜

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道程29

 

さぁ!最終回ですよ!

 

 

 

***************

 

 

「駄目ですったら駄目です!!もったいないです!!」

「で、でも夕鈴!!!」

「でも、も何もありません!兎に角駄目です!」

「・・・」

 

ああ垂れた耳と尻尾が見える気がする・・・。

でもここで私が折れたら国庫が怖い、と言うか李順さんが怖い、気がする。

 

「と、兎に角!私は下町で出産します!大袈裟です!産所とかいりませんからね!最初からその予定ですし。」

「でも、やっと皆に認めさせたし、夕鈴の居場所を取り戻したんだよ?」

 

尻尾をぶんぶん振って褒めて、褒めてと上目遣いで覗き込まれる。

でも、でも、でも・・・。

 

「それについては、ありがとうございます。とても、本当にとても嬉しいです。陛下の御傍に居られるなんて、幸せすぎます。ですが、陛下・・・。」

「・・・陛下・・・。」

「あ、いえ、黎翔様。」

「なぁに?夕鈴。」

「後宮を全て解体して建て直す、と言うのは贅沢すぎます。」

「そうかなぁ。他の妃なんか娶らないという意思表示にもなっていいと思うんだけど?」

「それは・・・そうですが、あの、必要箇所だけ残して壊すことは出来ないでしょうか?それか、何か他に使うとかですね。建物自体は素晴らしいのですからもったいないです!!」

「ふ~ん。じゃあ何かないか考えてみるよ。で、夕鈴は帰ってこないの?」

「こちらだと王宮にいらっしゃる侍医の方しかおりません。産婆さんを連れてくるにも、下町にも妊婦さんはいっぱいいらっしゃいますし、私の為に独り占めすることは出来ません。」

「一国の正妃だぞ。何よりも大切にされるべきだ!国母になるんだよ。」

「いえ、正妃だから、です。大切な民であり、これからの白陽を担う者を生むかもしれない女性の皆さんが安心して出産できないなんて、私、嫌なんです!」

「・・・夕鈴。」

「我儘なのはわかっています。黎翔様が心を砕いてくださっているのもわかってるんです。貴方の傍に居たい。でも・・・。」

 

本当はいつも黎翔様の傍に、近くに居たい。

でも、お世話になった下町の皆の為にできることはしたい。

黎翔様が少しでも悪く言われるようなことはしたくない。

私が陛下のお嫁さんに無事になれる様応援してくれた皆に御子を見せてあげたい。

黎翔様に無事に御子を抱かせてあげたい。

 

色々な気持ちが溢れて考えが纏まらずに涙が溢れだすと黎翔様がギュッと抱きしめてきた。

そのまま頭のてっぺんに口付けされる。

顔を上げて恐る恐る目を合わせると鮮やかに笑う貴方がいた。

 

「わかったよ。君は今まで通り、下町で出産に備えてくれて良い。但し、出産後は落ち着いたらすぐに戻ってきてね。」

「へ、陛下~~~~あ、ありがとうございます。」

「もう、僕ってどんだけ君に甘いのかな。でも、我が民も心優しい后を持って幸せと言うものだな。だからこそ君だ。」

「~~~~~。」

「ほら、もう泣かないで。僕もこれまでと同じように君のところに帰るよ。出産までもう少しだし、ね。」

「す、すみません。ご負担をおかけしてしまって。」

「ん~。でも僕、君に振り回されるの結構好きなんだよね。」

「な、なんですか?それ。私がいつも振り回されていると思います!!」

「君ほんとわかってないよね。」

「それはそっくりそのまま黎翔様に返します!」

 

そう言うと二人で笑って、優しく黎翔様の腕に囚われて胸に顔をうずめる。

 

「黎翔様、大好きです。」

「うん。夕鈴、愛してるよ。」

「わ、私も、あ、あ、愛してます・・・。」

 

耳まで熱を持ったかのように熱く感じる。

 

____カプッ。

 

「へ、陛下~~~~。」

「だって、美味しそうに色づいてたから。」

「だからって、耳、耳、~~~~~。」

「あははは。」

 

やっぱり陛下には適わない。惚れた弱みってやつかしら。

でも、これでいいと思う自分もいて。

一生お互い振り回し、振り回されていくのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして私は下町に戻った。

 

私の出自を明らかにしたのに、紅珠は是非会いたいと下町までやってきた。

私を見るなり抱き付いて来て、泣きながら会えて嬉しいと何度も言って、二人で泣き笑いした。

身分なんか関係ない、私が私であればそれでいいと、黎翔様のようなことを言ってきた紅珠の話を聞いて、後で黎翔様がやきもちを焼いたことは彼女には内緒だ。

 

出産まで何度も訪ねてきた紅珠が妄想を爆発させ、『ある王国の王と正妃の出会いの物語』なるものを執筆し貴族の子女の間で爆発的な人気を博したのはまた別な話。

 

でもそれの影響か、下町に来る貴族子女が増え、それを狙った貴族の子息もやって来て下町はとても賑わいだした。

身分の違う者同士の交流が少しずつ増えて、中には恋仲になっている者たちもいると言う。

 

そうなってくると今度は基本的な教養を下町の女性に教える所も出て来て、下町には学問ブームのようなものまでできた。

 

「黎翔様、あの、ちょっと友達に・・・。」

「ん?」

「女性の為の学問所があったらいいねって、その、陛下にお話しできないかと頼まれまして・・・。あの、すみません!やっぱりいいです!聞かなかったことにしてください!」

「ああ、大丈夫だよ。最近の下町の動向は僕の耳にも入ってきている。僕は官吏の道を全ての民に開いたのは、ゆくゆくは民全体に学ぶ機会を与えたかったからだ。既に女性にも最低限の学を修める環境を整えるべく指示してある。・・・でね、夕鈴。」

「はい?」

「前、言っていたでしょう?後宮の要らない所を何かの役にって。」

「はい・・・あ!」

「うん、後宮は女性しか入れないからね。女性専用の学問所を作ろうと思うんだ。そして、後宮で働きながらであれば無料で授業が受けられるようにしようと思ってる。そうすれば身分や収入に関わらず沢山の民が学べるだろう?」

「わぁ!陛下!すごいです!!それは素敵です!!皆喜びます!!」

「うん、そうだといいな。君にも喜んでもらえたようだし。」

「はい!!」

 

そんなこんなで民の間にいろいろな変化をもたらした二人の成婚はすっかり国民に支持される様になって、古狸どもは寄る年波には適わず、変化に付いていけずにすっかり隅に追いやられてしまう事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして____。

 

 

 

「おぎゃー、おぎゃー。」

「はっ、はっ、はぁーーー。」

「よく頑張ったね、夕鈴ちゃん。ほら、見事な御子じゃよ。」

「あ、おばさん、ありが・・・あ、男の子。」

 

生まれたての御子を産婆さんが夕鈴に見せると夕鈴は涙をつーっと一筋零して綺麗な笑みを浮かべた。

 

長かった。

 

臨時花嫁となって、恋を知り。

無理やり身体を繋げられ、それでも愛しくて大切で護りたかった人と心を通わせることができた奇跡。

そして今、大切な宝物をこの手に抱くことができた。

 

道程は遠く、間違えたかもしれないけれど、これから先は間違えない。

 

ずっと共に____。

 

馬の駆けてくる音が響く。徐々に産所に近づいてくる。

 

愛しいあの人がやって来る。

 

「夕鈴!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

道程 完

 

 

 

************

 

 

おしまいっ!

 

長編にお付き合いくださりありがとうございました!!

 

番外編と、本当の初夜話もあるんですけど読みますか?

 

読まないって言われても近日公開予定!!(#^.^#)

道程28

よしっ!

 

この調子で最後まで一気に上げようと思います! 

 

あと少しです。

 

お付き合いくださるとうれしいです(*‘ω‘ *) 

 

 

 

 

***************

 

 

 

 

桜華の懐妊が裏付けられたその日_____。

 

黎翔は王宮から夕鈴の自宅がある章安区への家路を急いでいた。

今日は夕鈴が肉汁たっぷりの饅頭を作って待っていてくれる約束だったが、桜華の件があり打ち合わせやなんやらでいつもより大分遅い帰りになってしまった。

夕鈴の事だから、懐妊しているといえども必ず起きて待っているだろう。

愛しい娘を想い自然と笑みが零れ足取りも早くなっていく。

 

「ただいま!!」

 

急いで家の門をくぐると嬉しそうに台所から顔を覗かせて夕鈴が出てきた。

 

「お帰りなさいませ!」

「うん、ただいま!!ごめんね、遅くなって。」

 

両腕に夕鈴を閉じ込めながら額に頬に口付けを落とす。

 

「れ、黎翔様!もう、恥ずかしいです・・・。」

 

子も成したし、身体を繋げてから長く歳月がたっているのに、未だにこんなことで恥じらい赤くなる夕鈴は本当に可愛い。

嬉しくて愛しくて頬と頬を合わせてすりすりしていると彼女にやんわりと胸を押し返された。

 

「だ、駄目です。今、肉饅頭を蒸してるんです。浩大がそろそろ来るよって教えてくれたから出来立てを頂いて欲しくて・・・。」

 

此方を見上げながら口を尖らせて離してくれるよう懇願する彼女はやっぱり破壊的に可愛くて、もう一度だけ腕に閉じ込め頭に口付けを落としてから解放すると大人しく卓に座って出てくるのを待った。

本当は付いて行ってずっとくっついていたいけど、

 

「お疲れになっているんですからお座りになってお待ちください!」

 

と可愛く叱られるとそれ以上我儘を言う気になれない。

どこまで夕鈴に溺れてるのかと自嘲してしまうが、それも悪くないと日々を過ごすうちに受け入れられるようになった。

元々彼女への気持ちが定まらず、見ない振りをしていた頃に比べると箍が外れたせいかどんどん好きになっている気がする。

こんな幸せが自分に用意されていたのならば、過去の色々な暗い闇はバランスを考えると仕方のないことかもしれないとまで思う。

それくらいに夕鈴という存在は自身の中で光り輝く存在であり、そういう者と出会えた奇跡に本当に感謝している。

だが同時に、これから先を共に手を取り歩んでいくためには、この闇を彼女に隠し続けるわけにはいかないだろう。

 

いつもより遅い夕餉を取り、彼女が入れてくれたお茶を飲みながら思案していた。

 

「黎翔様?」

「ん?」

「あの・・・、何かありましたか?」

「なんで?」

「先程から考え込んでらっしゃるので・・・。あの、私でよろしければ、お話していただけませんか?あっ、でも、っ、お役には立てないかもしれませんが・・・。」

 

心配そうな顔をしていたかと思うと青ざめて俯いてしまった。

コロコロ変わる君の表情を見ているだけで、僕がどれほど癒されているか君は知らないんだろうな。

腕を引っ張り膝の上へと誘うとお腹に気を付けて腕を回して抱き締め息を吸い込む。

 

「はあ~。ゆーりん、いい匂い。」

「や、なに?かがないでく~だ~さ~い~。」

 

涙目で後ろを向いて睨み付けてくるその仕草が愛おしくて顔中に口付けを落とす。

本当は真綿で包んで何も見せたくはないけれど、それはきっと君を傷つけるだろうから、意を決して話を切り出した。

 

「あのね、桜華の事なんだけど。」

「・・・はい。」

 

桜華の名を出した途端身体が強張る君が切なくて。

 

でも、決めたんだ。

 

共に。

 

だから、これ以上不安に思わなくて済むように手を強く握ると、君は力を抜いて身体を預けてきた。

 

「それで、今日遅くなっちゃったんだけど。」

「はい、それは・・・浩大から御正妃様の件で遅くなるってだけ聞きました。」

「えっとね、それで・・・。」

 

どう言っても誤解されそうで何と話せばよいか言葉に詰まってしまう。

本当に夕鈴にかかると狼陛下も形無しだな、なんて思う。

 

「う~ん、桜華がね、倒れたんだよね。」

「え?大丈夫ですか?」

 

素直に心配してくる君が可愛い反面、面白くないと感じてしまうことは黙っておこう。

 

「うん。貧血なんだって・・・懐妊からくる・・・。」

 

言ってしまった。

夕鈴の目が見開かれて明らかに驚いていることが見て取れる。

やっぱり誤解させてしまったかと、どう説明しようかと落ち込んでしまった。

 

「懐妊?・・・誰の御子ですか?誰かと不義密通とか言うやつですか?え?いつの間に?そんな事できるんですかね?黎翔様、大丈夫ですか?」

 

全く疑う事もなく、まっすぐな瞳で僕を見つめ返してくれる。

 

「黎翔様・・・?」

 

不思議そうに小首を傾げて僕を覗き込んでくる態はあまりにも可愛くて。

 

「ああ、これだから、君には全く勝てる気がしない。」

 

降参するしかない。

この全幅の信頼に応えなければ王でいる資格もないとすら思う。

 

「なんですか?それ?」

「ふふ、夕鈴って本当に僕のこと好きだよねって話。」

「なんですかそれ~!そんな話はしていません!!」

「うん、わかってる!僕も君が大好きだよ。」

「そ、そ、そんな事~~~~~。わ、私だってわかってます。信じています。」

 

じーっと見つめてくるうるうるとした瞳。

 

____囚われているのは私の方だな。

 

ふっ、と笑うと唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「____、という事なんだよ。」

「はぁ~、それは・・・。陛下、大変ですね。」

「陛下になってる・・・。」

「あ!す、すいません!つい・・・。王宮の話でしたので。」

「ま、いいけどね。」

 

事の次第を話すと夕鈴は静かにじっと聞いていた。

時に目に涙を溜めて何かを言いたそうに唇を動かしていたけど、最後まで何も言わずに聞いていた。

優しい彼女の事だから、きっと桜華にも同情したのだろう。

でもそれを口にしないと彼女が決めたのならば、僕はそれを受け入れ、彼女がこれ以上苦しまないように頑張ろうと思う。

それが彼女の決意の表れだろうから。

 

「でさ、明日なんだけど、迎えを寄越すから、几鍔たちと一緒に王宮に来て欲しいんだ。」

「え?だって明日は桜華様の件でお忙しいのでは?」

「うん。それはそれ。でね、夕鈴が来ないと駄目なことがあってさ。お願い。ね?」

 

彼女がお願いに弱いことは知っているので殊更弱った顔をして両手を合わせ拝む。

 

「わ、わ、黎翔様。王様がやめてください!行きます!行きますから!!」

 

ふふふ、やっぱり夕鈴は可愛いなぁ。焦った顔も可愛い。

 

「じゃあ、う~んと、克右を寄越すよ。明日も忙しいし、今日はもう寝よう。」

 

そう言って、夕鈴を抱きかかえて寝台へ向かう。

 

「もう、歩けるって言ってますのに。」

 

誰も見るわけでもないのに顔を真っ赤にして毎日同じように反論してくるのも可愛い。

 

「僕が抱き締めたいだけだからいいでしょ?」

「~~~~~。」

 

真っ赤な顔を僕の胸に埋めて首の後ろに両腕を回してくる君に温かなものが心に広がる。

寝台にゆっくり下ろして共に掛け布に入るとお腹に当たらないように後ろから抱きしめた。

 

「お休み、僕のお嫁さん。」

「お休みなさいませ。旦那様。」

 

悪戯っ子の様に笑いあって、優しい眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

桜華が引き摺られる様に出て行った謁見の間は沈黙が流れていた。

桜華の奇声とも狂声とも取れる叫び声が遠くなり消え去ってもなお沈黙を守る陛下の次の言の葉を臣下は息を飲んで待ち続けていた。

 

重い空気に耐えかねて臣下の一人が口を開けた。

 

「陛下、僭越ながら、此度の件、これで収拾したという事でよろしいかと存じますが・・・。」

「・・・」

「後宮はまた妃の居らぬ張りぼてになってしまいました。もしよろしければ、いえ、是非に、後宮を整える役を私に担わせていただきたいと存じます。」

 

前回の後宮入りの期を逃した高官はこれ幸いとばかりに先手に出ようと勇み出た。

 

「・・・まぁ、待て。お前たちは今日の予定が何だったか覚えていないのか?」

 

黎翔は相変わらず玉座にゆったりと座り大きく足を組んで酷薄な笑みを浮かべ皆を見まわした。

 

桜華が出て行った後を追う様に退席していた李順が戻ってきて黎翔に耳打ちをすると、黎翔は今まで不機嫌全開で難しい顔をしていたのを瞬時王の威厳を纏った酷薄な笑顔へと変化させた。

黎翔がその場で立ち上がり手を上げると、太鼓が鳴り響き外へと続く扉が開け放たれた。

と同時に、太陽の光が部屋に広がり玉座に向かって一筋の光を作り出す。

 

その光景を見ていた大臣、高官たちは声高に話し出した。

 

「・・・こ、これは・・・!!」

「太陽神の祝福を授けられたという事か?」

「・・・っ」

 

今日は4年に一度、謁見の間の玉座に光が差す日であり、この日に光が差さなかった王の時代は長くは続かないと言い伝えられている大事な行事の日であった。

またそれは正妃を伴って行う行事であり、光が差さない場合は正妃の責任を取らされ斬首刑になった者もいると言うあまり目出度くもない歴史もあるものであった。

 

「陛下、此度祝福を授けられたこと誠に目出度きこと。言祝ぎを申し上げます。」

 

皆がざわつく中柳、氾両大臣が先んじて拱手し頭を垂れて祝いの言葉を紡ぐと、呆然と立ち尽くしていた臣下達も我に返り次々と言祝ぎを申し出た。

 

「しかし、何やら騒がしくはないか?」

「この目出度き時に何事であるか?」

 

謁見の間に居並ぶ臣下達は自分たちの言祝ぎが終わってもなおざわついている気配に何事かと顔を見合わせる。

 

再び太鼓が鳴り響くと、先程まで真っ直ぐに玉座を照らしていた光線に一筋の影が差した。

 

皆の視線が扉の方へ向けられると太陽を背に美しく着飾った一人の女性が侍女に手を引かれ入ってきた。

 

「あ、あれは!!」

「っ、・・・自ら退宮した妃ではないか!」

「何故大切な行事であるこの場に!!」

「たかが元寵妃が臨席してよいものではない!早急に退室されよ!!」

 

久しぶりに現れた元寵妃に臣下達の多くは侮蔑の言葉を送り、下がるよう進言した。

 

「今、何と申した?わが后を愚弄したものは誰だ?」

 

黎翔の冷たく凍るような声が響き渡ると臣下の多くは口を閉ざし青ざめて俯くことしか出来ない。

 

「陛下、后・・・、と申されましたか?」

 

やはりここでも常に落ち着き払った態度である氾大臣が口を開いた。

 

「ああ。我が唯一だ。后以外あり得まい。」

「そうであられましたか。本日の行事は御正妃さまと執り行うのが常ですから少々心配しておりましたが・・・。」

「大事ない。・・・夕鈴、ここへ。」

 

黎翔が手を差し出すと夕鈴は久しぶりの妃然とした笑顔を引きつりながらも湛え、手を重ね一段高い所へ上った。

見ると玉座の傍に明らかに新しい正妃の座が整えられており、これはもう決定事項であることを皆に見せつけていた。

 

「し、しかしながら、陛下。この方を妃に迎えられ寵愛するのは構いませんが、何も持たない女性が一国の正妃になど到底認められるものではありません!」

 

先程後宮を整える役を買って出ようと申し出た高官が食い下がる。

 

「何も持たぬ、と?」

 

黎翔は夕鈴への甘い笑みをすっと変化させ獲物を見据えるかのような目付きでその高官を睨み付けるが高官も自分の家を反映させるために必死である。

 

「はっ!その娘、庶民の出だと言うではありませんか!そんな陛下の為にならぬ妃など今まで通り下位の妃として留め置き、陛下の為、国の為となる素晴らしい姫を娶るべきかと存じ上げます。」

「ふむ。お前の言う事も尤もではあるな。がしかし、私は此度の後宮での諍い事にとても心を痛めておるのだ。あの様な事が起こることは私の本意ではない。無駄に命を散らす必要などないのだ。桜華はともかく、他の者は皆我が白陽の大事な民であった。二度とあの様な事が起こらぬよう、私は妃は一人でよいと思うに至ったというわけだ。妃の腹には私の子が居る。彼女が国母だ。にも拘らず正妃にしない、と言うのは道理に適わぬだろう?」

 

黎翔の言葉を聞いて部屋にいる全ての者の目が夕鈴のお腹に注がれた。

お腹が目立たぬようゆったりした衣装に身を包んでいた上に、急に現れた元寵妃に驚いたこともあり、お腹の膨らみに気が付かなかったのだ。

愛おしげに夕鈴の腹に目をやり甘い笑顔を向ける黎翔を見て臣下達は諦めざるを得ないことをやっと悟ったのである。

元より、前回の後宮での件で釘を刺されていた柳、氾両大臣が何も言わず恭順の意を表していることにこれ以上否を唱えることも利口ではないと判断した様であった。

 

「それでは、皆様、夕鈴様を白陽国王、珀黎翔陛下の御正妃様にお迎えする、という事でよろしいですね。」

 

畳みかけるように李順が臣下たちに問うと

 

「「「「「「御意!!陛下、御正妃様、おめでとうございます!!」」」」」」

 

何十人もの声が重なり恭順の意を示した。

すると急に扉の向こうから地を這うような声が響いてきた。

 

「やった~!」

「おめでとう!!」

「陛下、夕鈴ばんざ~い!!」

「幸せになれよ!!」

 

多くの言祝ぎの言葉が次から次へと聞こえてくる。

 

「ふふ、困りましたね。民の心を此処までつかんでしまうとは。」

 

氾大臣が不敵な笑みを浮かべて言うと、

 

「何も持たぬのだ。これくらいはして貰わねばな。」

 

柳大臣は苦虫を噛み潰したように言葉を零した。

 

 

 

 

 

そうして夕鈴は後宮へ戻った。

 

 

 

 

 

____わけではなかった。

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

つづく

 

簡単には帰らなかったりして( *´艸`)

道程27

 

今日は少し時間があるので今のうちに!

 

最後まで転載できるかな?←何に挑戦だ? 

 

 

 

 

 

************** 

 

 

___なんで?何?どうなってるの?陛下~~~~~~。___

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、白陽国正妃である桜華は朝から落ち着きがなかった。

やっと本当に愛しい人である、と気が付いた黎翔と会えるのではあるが、場所が謁見の間。

しかも時間も知らされず、兎に角呼ばれたら来るようにとの言伝である。

正妃の殿入口並びに周囲には護衛兵と呼ばれる兵が常駐しており、抜け出すことも、また誰も入り込むこともできず、母国から連れてきた数名の侍女と共に殿に半ば軟禁状態であった。

 

その為、後宮の片隅がいつもより騒がしかったことも気が付かず、侍女たちのいつもにはない弾むような声を聞くこともなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「陛下。そろそろ良いかと思います。」

 

李順は眼鏡を光らせて黎翔に拱手し頷いた。

 

「ふっ。やっとここまで来たか。」

「はい。全く、使わなくてもよい時間を無駄に使ってしまった気はしますが。」

「言うな。仕方あるまい。わかっている。」

 

黎翔は苦笑いを浮かべつつ、愛しい娘との出会いから今までを思い浮かべ知らず優しい笑みを浮かべた。

 

「陛下。その顔はいけません。隠してください。」

 

先程まで拱手していたが、態を崩した黎翔に口元を歪ませて注意を促す。

 

「わかっている。お前はうるさいな。」

「これが私の仕事ですから。」

 

しれっと言われては何も言い返せず、黎翔は狼陛下そのものの表情に戻した。

 

「では、参る。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「国王陛下の御成りです。」

 

先導を務める侍官の声が謁見の間に鳴り響くと同時に黎翔が国王の正装を身に纏った姿で現れ悠然とした動きで玉座に座った。

その姿を見て、何も知らされず謁見の間に呼ばれていた大臣、高官らは目を見張った。

国王の正装は国賓が来た時や宴、儀式の時くらいのものである。

特に黎翔の代になってからは華美を嫌う傾向にあるため、正装といって略装も多かったのだ。

 

一体これからこの部屋で何が行われるのか。

皆は小声で囁き始めた。

 

「御正妃様の御成りです。」

 

黎翔が謁見の間に来て暫くすると正妃付きの侍女の声が響き、正妃である桜華が謁見の間に姿を現した。

こちらも正装ではないものの、常より着飾られており、黎翔に久しぶりに会えるという喜びを表していると言えなくもなかった。

がしかし、桜華の心中はそれどころではなく、少し目立ち始めた腹を幾重にも重ねた衣で隠し、肌色の悪さを隠すために濃い目の化粧を施し、装飾品で飾り付けることで皆の目線を眩ますことに侍女が躍起になった、その成果であっただけである。

 

桜華は居並ぶ大臣達の間を真っ直ぐに先導されたまま黎翔の足元まで進むと拱手し頭を垂れて黎翔の言葉を待った。

本来ならば桜華は正妃である。

黎翔に拱手をする必要はなく、玉座の傍にある正妃の座に座れる立場にあるはずである。

しかし今日はそこには正妃の座はなかった。

それに気が付いた大臣達はまたもやざわめき始めた。

 

____正装で迎えた相手は自国の正妃であるにも拘らず正妃の座がないというのは・・・。

 

ヒソヒソと小声で囁かれている内容ははっきりとは聞こえないものの、桜華を貶めるであろう内容であろう事は間違いないであろう。

桜華は全身が震えるのを口元を噛み締めて我慢しようとしたが叶わない。

拱手したままふらついた桜華を両側から侍女が支えた。

 

「その場で座って良いぞ。身体に障るであろう。なぁ、桜華?」

 

ふらついた桜華に、言葉は優しいものの冷たい氷のような響きで口を開いたのは黎翔であった。

 

「・・・申し訳ございません。座らせていただきますことお許しくださいましてありがとうございます。」

 

いつにない桜華の黎翔への丁寧すぎる物言いに白陽国の臣下は驚きを隠せない。

桜華の黎翔に対する態度は不敬に当たるのではないかと思うものも多かったのだ。

それが許されるくらいに黎翔の寵愛を受けているのだと皆に奢り誇っていた桜華の態度の変化。

 

____只事ではない・・・。

 

桜華と同様、謁見の間に居並ぶ臣下達もまた、口を引き結び、事の成り行きを黙って見守っていた。

 

「して、我が正妃・・・いや、桜華よ。誰の子だ?それは?」

 

黎翔は玉座に座ったまま、脚を大きく組み、酷薄な笑みを浮かべながら言った。

 

「・・・。」

 

対する桜華の震えはどんどん大きなものになっていく。

 

「答えられぬ、か?」

「・・・。」

「良かろう。では、お前たちに問おう。我が白陽の民である臣下よ、正妃の腹に居るべきなのは誰の子だ?」

「勿論、陛下の子であるべき、で御座います。」

 

間髪入れずに柳大臣が立ち上がって答えた。

 

「ふむ。では、桜華。もう一度問おうぞ。その腹の子は誰の子だ?」

「・・・れ、・・陛下の御子でございます。」

「では、氾大臣に問おう。私は桜華が戻ってきてから正妃殿に通ったか?」

「・・・。」

「氾、答えよ。」

 

暗に氾が正妃の殿を監視していたことを知っているという事を示唆した問いに顔を強張らせながらもいつもの飄飄とした笑みを湛えたまま答えた。

 

「・・・通ってはおりません。裏は取れて御座います。」

「ふっ。役に立ってよかったな、氾。」

「・・・御意。」

 

妃放逐後、今度こそ紅珠を後宮入りさせるため期を伺っていたが、これで釘を刺された形になり頭を垂れたまま口元を歪ますことしかできない。

柳大臣がこれぞ好機とばかりに追及を始めた。

 

「では、御正妃様は懐妊なさってはいるが御子は陛下の御子ではない、ということで間違いないわけですな。」

「そういう事になろうかと。」

 

幾分気を取り直して氾大臣が答える。

両大臣のやり取りを聞いて他の大臣、高官たちの目が桜華の腹に向けられた。

 

____腹は出てないぞ。

いや、誤魔化しているのではないか?

中には産み月まで目立たぬ者もいると言うぞ。

ならば誰の子だ?

陛下の御子ではないようだぞ。

誰ぞ後宮に引き入れたのか?

いや、相手は白陽の者ではないかもしれぬぞ。

そうだ、暫くお国に帰られておられた。

 

臣下達は思う思うに考えを口にし、謁見の間はさながら井戸端会議の様相を見せていた。

 

「~~~お、御子は陛下の御子です!」

「見苦しい。お前も王族だろう。身の振りを考えよ。」

「わ、私は陛下を真に想っております!その私が他の者の子なぞ宿すわけが御座いません!陛下!お判りでしょう?」

「お前の想いなど煩わしいだけだ。よくも我が国を謀ってくれたものだ。軽く見られたものよ。なぁ、柳よ。」

「とは、どういう意味でしょうか?陛下。」

 

後宮を本来の姿に整える様再三進言した柳大臣は臣下の礼を取って次の言葉を待った。

 

「・・・。」

 

謁見の間に沈黙が流れた。

 

カツンッ!

 

玉座に座る黎翔の顔の横ぎりぎりを通り後ろの壁に矢が刺さった。

 

「何者ぞ!」

「陛下を狙うとは、不届き者を捕え!」

 

臣下は我先に手柄を立てんと立ち上がった。

 

「皆の者、大事ない。これは我が手による物だ。しばし待て。」

 

よく見ると刺さった矢には文が縛り付けられていた。

傍に控えていた李順が弓ごと黎翔に渡すと文を解き読み進めた黎翔に酷薄な笑みが浮かぶ。

 

「これはお前の祖国、輝蘭国へやった者からの文だ。と言っても、文を書いたのは其方の父王だがな。」

「えっ?な、なんと・・・。」

「ふむ、聞きたいか?ならば仕方ない。読んでやろう。ここにはこう書いてある。皇女桜華は亡くなった、とな。」

「はっ?それはどういう・・・、そんな、馬鹿な!!」

「お前はもう自国の皇女でも何でもないそうだ。」

「ま、まさか、父上がそんなことを言うはずなない!私には父上の子が居るというのに!!っ!!」

「・・・という事だ、柳。お前だったな。輝蘭との縁談を強く勧めていたのは。」

 

黎翔の声が冷たく謁見の間隅々にまで響く。

機会を見て再び縁の者を後宮に入れたかった柳もまた氾同様釘を刺された形になった。

 

「・・・はっ。」

 

そのやり取りを聞いていた桜華の侍女たちは崩れ落ち、青ざめ気を失うものもいた。

謁見の間に立ち並ぶ臣下は輝蘭国の暴挙に陛下がどうするのか考えて青ざめ口を引き結ぶことしかできない。

 

「よくも我が国を謀ってくれたな。まぁ、良い。これは良い機会だ。なぁ、柳、氾両大臣よ。急ぎ収拾に当たれ。我が白陽の為全力で仕えよ。良い知らせを待つ。」

「「御意!!」」

 

「さて、桜華。お前はどうする?輝蘭はもうお前は要らぬらしい。戻りたいと言うなら戻っても良いぞ。」

 

今日初めて黎翔は狼陛下の甘く優しい笑みを浮かべ問うた。

 

「・・・れ、陛下。私は貴方を嘘偽りなく愛しています。どうか、御傍においていただけないでしょうか?」

 

黎翔の笑みに幾分緊張が解けた桜華が頬を赤らめて見上げながら言った。

 

「降格をしてもか?」

「・・・。はい。貴方の傍に居られるならば。お願いします。御慈悲を。」

「祖国に戻った方が幸せではないか?」

「いいえ!いいえ!この地に居たいのです!!」

「・・・ほう。この白陽にか?」

 

父王が自分を死んだというのなら、戻ったとしても間違いなく命はない。

それならば、愛しい人のいる国に残りたいと思った。

受け入れられそうな気配を読み、桜華の顔に希望の光が浮かんだ。

 

「はい!」

「ふむ。なれば、妃位は剥奪、輿入れした事実は抹消の上処遇が決まるまで王宮で待機せよ。」

「は、はい!ありがとうございます!!」

 

黎翔は酷薄な笑みを浮かべると頷いた。

 

「衛兵!!この女を連れて行け!!」

「はっ!!」

「え?衛兵?なんですって?どうして私が!!王宮待機と仰ったではないですか?」

「ああ、王宮、と言ったのだ。我が臣下でも民でもないものが王宮待機と言ったら牢に決まっておろう?」

「だ、騙したな!!」

「騙してなど居らぬ。其方が勝手に思い違いしたのだろう。私がその子を腹に宿した其方を許すと本気で思ったか?甘く見られたものだ。・・・連れて行け。」

「いや~~~~!!!!!黎翔~~~!!!」

「二度と私の名をその口で紡ぐな。次は頭と胴が離れると思え。」

「~~~っ!!」

 

錯乱状態に陥った桜華は両脇を衛兵に抱えられ引きずられるように謁見の間を後にした。

そして、輝蘭国から桜華と共にやってきた侍女たちもまた衛兵に引き連れられていった。

 

 

 

*************

 

 

 つづく

道程26

台風の影響で風が強いです。

 

意外にも強くて、街路樹がわっさわっさ揺れて、折れているところも。

 

強風域でも侮れない、今回の台風は来なくてよかった。 

 

雨がガーっと降るのでそれが嫌だなぁ。

 

綺麗に一日中晴れって全国的にも少なさそうですよね?

 

晴れないかなぁ。

 

晴れたらまた今度は日焼けするからやだっていうくせにね!(●´ω`●)

 

さて、場面は王宮に戻ります。 

 

********** 

 

 

 

 

 

王宮の回廊を正妃付きの侍女がらしからぬ急ぎ足で息を切らして駆けてきた。

 

「申し訳ございません。陛下はいらっしゃいますでしょうか?」

 

青ざめながら政務室の入口で入室の許可を伺ってくる。

 

「何事でございましょうか?陛下は御政務中であられますよ。」

 

李順が顔色を変えずに問い返すと侍女は青ざめながらも話し出した。

 

「あの、申し訳ございません。御正妃様がお倒れになりましたのでお伝えに参った次第でございます。」

「ああ、また・・・。そうですか。わかりました。もう下がってよろしいですよ。」

 

李順は何事もなかったかのように書簡に目を戻す。

 

「あ、あの・・・。」

「はい。まだ何か御用ですか?」

「お倒れになったことを陛下にお伝えしていただけますか?」

「ええ、御政務が終わり次第お伝えします。」

 

書簡から目を逸らさず答える。

 

同じ部屋にいるのだから黎翔にも聞こえているのに、まるでそこには居ないかのように、聞こえていないかのように振る舞っているの李順がおかしくて、黎翔は笑いをこらえることに必死だ。

 

「あの、すぐにお伝えしなくてもよろしいのでしょうか?」

「ええ、大丈夫です。陛下の御意志ですので後で何か貴女に咎が行くことはありません。ご安心して御下がりください。それから、今回は侍医を呼んでしっかりと診てもらってください。」

 

めったに女に笑みなどやらない李順が微笑んで答えると侍女は頬を赤く染めて下がっていった。

 

「お前の笑顔も役に立つもんだな。」

「こんなもの役に立たないならしませんよ。めんどくさい。変な勘違いをしないといいのですが。」

「はは、いいんじゃないのか?たまには女と戯れても。」

「何をおっしゃるんです!!まだやらなければならないことが山積みなんですよ!誰のせいだと思ってらっしゃるのですか!そんな戯言をおっしゃる暇があるのでしたら早く署名を済まされてください!どうせまたあちらへ行くのでしょう?」

「ふむ。それもそうだな。桜華はほっておけ。私の寵愛は全くもって失われたと印象付ける良い機会だ。顔を見に行く気にもならん。変な噂を立てられても困るからな。」

「左様ですね。後宮には渡られない方がよろしいと思います。恐らく・・・。」

「・・・だろうな。ふっ。待ちくたびれたぞ。」

「仕方御座いません。一応隣国の皇女であられるのですから、あちらがどういう思惑であろうとも事を荒立てるのは得策では御座いません。それに隣国への貸しができると思えば多少の時間は致し方ないかと・・・。」

「わかっている。その辺は任す。うまくやれよ。」

「御意。」

「さて、今日も早く帰らなくちゃな。今日の夕餉は肉饅頭なんだって!楽しみだな。」

 

先程までの冷たい気配はすっかり霧散して下町の愛しい娘に思いを馳せ子犬になる黎翔に目頭をつい押さえてしまった李順であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで終わりだな?李順。」

「はい、お疲れ様でした。下町に下りられるようになってから政務が捗って大変喜ばしいことです。」

「じゃあ、夕鈴に特別手当出すって言っとくね!」

「何をおっしゃるのです?彼女は今宿下がり中の妃。臨時花嫁の契約はもうありませんよ。」

「え~、夕鈴喜ぶと思ったのにな。」

「ふぅ。陛下、彼女は既に貴方の正式な妃ではありませんか。金銭のやり取りがあった方が良いとおっしゃるのであればそうしますが・・・。」

「いや、それで良い。いくら彼女が喜ぶと言っても、いつまでもそうだと寂しくなる・・・。」

「陛下・・・。早く行かないと肉饅頭が冷めますよ。」

「あ!そうだった!じゃあ、行ってくる。後は頼んだぞ・・・っ!はぁ~。」

「陛下?」

 

意気揚々と下町に向かおうとした黎翔の不機嫌すぎるため息に李順も部屋の出入り口を振り向く。

 

「陛下、申し訳ございませんが、侍医が此方へ参っております。陛下への謁見を申し出ておりますがいかがいたしましょう。」

 

黎翔の常以上の冷気に当てられた侍官が震えながらも彼の進路を塞いでいた。

 

「・・・急ぎか?」

「はっ、御正妃様の事でいらしたようですが。急ぎ御耳に入れたいことがあると申しております。」

「ふむ。では通せ。」

「行きそびれましたね?」

 

李順は笑いを押し殺して黎翔に気の毒そうな目を向けると、黎翔は舌打ちをする。

 

「全く!なんで今なんだ。はぁ、あと少し早く終わらせてれば。明日はもっと書簡の量を減らせ。」

「何をおっしゃるんです?たかが肉饅頭が冷めるだけではないですか!」

「たかがではない!大体夕鈴に会えない時間は地獄で過ごしているのと同じだ。私に死ねと言ってるのか?」

「はい、はい。では夕鈴殿が早くお戻りになれるように頑張ってくださいね。」

 

優秀な側近は黎翔の不機嫌などどこ吹く風で発破をかける。

兎に角正妃を穏便に追い出さなければ始まらないのだ。

 

「失礼いたします。」

 

侍医と元夕鈴付きであった、現在は正妃付きの侍女が入室し頭を垂れて拱手した。

 

「なんだ。」

 

下町に行きそびれたことで機嫌の悪い黎翔の気に当てられ二人は青ざめていく。

 

「陛下に申し上げます。御正妃様は御懐妊しております。そこからくる貧血でお倒れになられたと思われます。」

「ほう、懐妊と?」

「~~~はっ。」

 

正妃が白陽で療養中は閨を共に過ごさないよう黎翔に伝えていた侍医は脂汗が出るのを止めることができなかった。

自国で療養して戻ってきた後、正妃の殿へ黎翔が一度もわたっていないことは周知の事実になっていたこともあり、どう考えても懐妊はおかしい。

 

「あ、あの陛下・・・。」

 

部屋の静寂を破ったのは何故か侍医と共に来ていた侍女だった。

 

「なんだ?」

「御正妃様は、この事は陛下には言わないで欲しい、と何度も侍医に詰め寄っておりました。」

「そうか・・・。お前がここに来たことがばれたら困るのではないか?」

「あの、私は陛下と、・・・お妃様に仕えております。私は信じております。お妃様に再び会えると・・・。陛下、何かお役に立てることは御座いませんか?」

 

まさか臣下からそう言われることがあるとは思ってもみなかった黎翔と李順は目を合わせほくそ笑む。

これこそが知らない間に人を魅了してしまう夕鈴ならではのことだろう。

黎翔は胸に温かいものが満ち溢れていくような感覚に表情が緩む。

 

「では、侍医は私に報告をしていないふりをせよ。その者は正妃の侍女として今まで通り勤めよ。わが妃が戻った時其方が居れば心強いだろう。変な気は起こさぬよう。」

「有難きお言葉・・・。」

 

侍女は瞳いっぱいに涙をため何度も頷きながら低頭して出ていった。

 

「して、侍医よ。其方の目立てでは正妃はどんな感じだ。」

「恐らく6か月に入っているのではないかと思います。お腹も膨らんできております故。」

「・・・。」

「恐らくは自国へ里帰りしていた時、と思われます。」

 

侍医は青ざめたまま、それでも恐らくは陛下が欲しているだろうと思われる情報を正しく伝える。

 

「確実、だな?」

「はい、時期的に確実にそうだと申し上げられます。」

「そうか、わかった。ではもう下がれ。先程申し付けたことを忘れるな。」

「御意。」

 

ほっと息を吐き侍医は足早に退出していった。

 

「・・・しかし陛下、先程の侍女は・・・?」

「ああ、夕鈴付きだった者だ。よく仕えてくれているようだったが、あれほど夕鈴に好意を持っていたとはな。」

「夕鈴殿は後宮の主であった、という事でしょうね。」

「そうだな。彼女らの為にも夕鈴を此処に取り戻さねばな。」

「御意。」

「さて、じゃあ僕は夕鈴のとこに行ってくるね~。」

「これから御行きに成られるので?もう門も閉まっていると思いますが。」

「あー、うん。大丈夫。門番ももう僕が毎日通ってるの気が付いてるし。すぐに通してくれるんだ。思ったよりも味方が多くてびっくりだよね~。」

「はぁ、そうですか。もう面は割れてるのですか・・・。もう何を言っても無駄でしょうし、仕方ないんでしょうね。」

 

優秀な側近は遠い目をしつつも笑みを浮かべ、いそいそと嬉しそうに下町に向かった主を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッシャーン、バリバリ。

 

後宮にものすごい音が鳴り響いていた。

 

女の金切声と共に。

 

「何故!何故黎翔は来ないのだ!!私が行けば来るなと言うのに、倒れても様子を見にも来ぬとはどういうことだ!お前!ちゃんと陛下に伝えたのか!!」

 

正妃は白陽側の侍女の襟元を掴み詰み寄る。

 

「は、はい。確かに伝えました。ですが、陛下は政務がお忙しいとのことで・・・。」

「政務だと?私の方が大事ではないのか?やはり・・・そうであるのか。」

 

力なく侍女を掴んでいた手を緩める。

 

黎翔が後宮に渡って来なくなり、此方から行けば戻れと言われ、仕方なく大人しく待っていたら唯一の存在を隠しているという噂があると聞いた。

 

その時に気が付いた。

 

もう既に心は黎翔に囚われていたのだと。

 

自国の駒としての生に否はないものの、できれば本当に愛した人の子を身籠りたかった。

それが望めぬというのであれば、せめて子だけは愛する人の子として産み落としたいと願った。

それならば、一度でもいいから閨を共にせねば、と画策するも全て叶わず。

倒れても臥せっても黎翔が此方に訪れることはなかった。

それどころか食事も共に取ることはなく、お茶を共にすることもない。

顔を見ることも叶わず、只々日々は流れていった。

だからといって時が待ってくれるわけもなく、お腹は少しずつ膨らみを増してきている。

焦って下町に居ると言われている唯一に刺客を送るも何の知らせもなく。

かと言って黎翔から叱責を受けることもなくただ焦りだけが濃くなっていくだけの毎日。

父王からの書簡では次代の白陽の王が自分の血を継ぐ者になることへの嬉意が綴られており、黎翔への侮蔑の言葉が書き連ねられている。

黎翔への想いに気が付いた今となっては、父王への憤りのない怒りに身が焼かれるようで日々鬱々として過ごしていた。

そして今日、侍医が遣われ、いつ黎翔の耳に懐妊が届いてもおかしくはなくなってしまった。

ばれてもいい、愛しい人の傍に居続けることを許してもらえるならば、最近ではそう思うようになっていた。

 

物思いに耽っていると侍女が息を切らしてやってきた。

 

「御正妃様、王宮より遣いの者がいらしまして、明日陛下が謁見の間にてお待ちしているとのことです。」

 

 

 

 

*************

 

 

つづく

 

 

道程25

  

 

あちこち場面がせわしなく移動して読みにくいかもですね・・・。

 

 

でもあとは女狐退治ですから!!

 

 

 

***************

 

 

 

______章安区

 

「おっ、李翔さん!今帰りかい?」

「ああ。」

「夕鈴ちゃん、もうすぐだなぁ。そうだ!これ持って行きな!」

「えっ?いいの?」

「おうよ!夕鈴ちゃんの子はみんなの子だ!体力付けて元気な子を産んでもらわんとな!」

 

そう言うと屋台の男はホカホカの肉まんを包んで差し出した。

 

「ありがとう。夕鈴も喜ぶよ。」

「おう!あんたも頑張れよ!」

「ふふ、ありがとう。じゃ、夕鈴が待ってるから。」

 

暖かな肉まんに心まで温かくなった黎翔は夕鈴の家までの道を急いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

懐妊が判明した夕鈴を護るため、当初王宮の隠密を軸に几鍔ら下町の若者らが常に警戒態勢で当たっていた。

しかし王宮の隠密といえども数は知れており、更に信用のおけるものとなると数が限られていた。

几鍔らも頑張ってはいたが、どうしても素人。徐々に疲れが見えてきていた。

 

そんな時_____。

 

 

 

「狼陛下は後宮の悪女と呼ばれた唯一をどこかに隠してしまったらしい。」

 

 

 

王宮で囁かれていた噂話が下町まで聞こえてきた。

飯店や屋台の店先で、もしかしたら下町に居たりして、なんて笑いながら話す声があちらこちらで聞こえるようになる。

 

 

 

 

 

黎翔は女狐退治が始まると言ってはいたが、相変わらず汀家に帰ってきて汀家から政務に向かっていた。

そんな黎翔に美味しいご飯を食べてもらうことくらいしか思いつかない夕鈴は、毎日自分の持てる限りのではあるが温かい料理を嬉々として作っていた。

なんだかんだとほぼ毎日ご飯の時間になると顔を出す大食漢の隠密の為にも物凄い量をこさえることになっていたのは余談ではあるが。

故に日々の買い物は欠かせず、夕鈴と出来うる限り共に居たいと願う黎翔はほぼ毎日買い物について回っていた。

 

 

 

その日も政務を早々に切り上げ戻ってきた黎翔は夕鈴と共に食材の買い出しに市場を歩いていた。

毎日頑張っている黎翔の為にと以前下町に居た頃の買い物に比べると随分豪華な買い出しで黎翔の両手はいっぱいだった。

良い食材を手に入れてホクホク顔の夕鈴を見つめ、自然黎翔も笑みをこぼす。

どこから見ても新婚にしか見えない二人は買い物を終え家路を急いでいた。

 

が、にこにこ笑っていた黎翔が急に黙り込み、ふぅ、と溜息をつく。

 

「ごめん、夕鈴。少し下がっていてくれる?」

 

黎翔は買ったものが無駄にならないよう端に置くと、夕鈴を背に庇い抜刀した。

 

「・・・っ、へ、陛下!」

「大丈夫。あと、陛下じゃないから!」

 

後ろに庇った夕鈴を振り返り悪戯な目を向ける。

 

「そ、それどころじゃないです!」

 

ふふふ、と笑うと黎翔は黒い影に振り返った。

 

「無粋な奴らだな。新婚夫婦の邪魔をするとは。馬に蹴られてみるか?」

「貴様に用はない!後ろの娘を此方に渡してもらおう。」

「・・・渡すと思うか?」

「・・っ!渡してもらえねば奪うまで!」

 

賊が刀を揺らめかせ黎翔に襲い掛かってきた。

剣先をうまく受け流しながら夕鈴のいる場所から離れていく。

 

「貴様ら、私が誰だかわかっていての所業か?」

「・・・」

「うわ~、ごっめ~ん。」

 

能天気な声と共に自称有能な隠密が落ちてきながら鞭で賊を薙ぎ払いあっという間に捕縛していく。

全てが終わると捕縛した賊を背に浩大は黎翔に拱手して頭を下げた。

 

「陛下、すまない。護衛の交代の隙間を狙われた。この罰は如何様にも。」

「そんなことより体系を見直せ。穴が開いてはいくら優秀なものとはいえ何の意味も成さぬ。」

「御意。すぐに取り掛かります。」

 

護衛の隙を突かれ章安区に賊の侵入を許してしまったことに責任を感じ、浩大は急いで対応策の為に去っていった。

 

「ごめん、夕鈴、大丈夫だった?」

 

黎翔は背後に庇っていた夕鈴に振り向いた。

 

と、目を見開く。

そこには商店街の皆が夕鈴の周りを取り囲むように立っていた。

 

「えっ?え~っとぉ~・・・」

「へ、李、李翔さん~。」

 

どうしたらいいかわからない夕鈴は黎翔に助けを求める視線をよこしてくるが黎翔とてどうすればよいのか考えあぐねていた。

賊を切ることはなかったものの、黎翔は抜刀したままであったし、夕鈴を庇っているところを見ると恐らく賊とやりあっているところも見られてしまっただろう。

 

 

 

どれくらいの間だったろう。しばらく商店街の皆と黎翔が睨み合い動けずにいた。

 

 

 

「なぁ、李翔さんよ。・・・じゃ、ねぇよな?あんた、狼陛下、じゃねぇのか?」

「お、おじさん!まさかそんなわけないじゃない。」

「じゃあ、なんで夕鈴ちゃんが賊に狙われるんだ?夕鈴ちゃんはずっと下町育ちだ。そんなことに巻き込まれるような子じゃないことは皆知ってる。」

「・・・」

「それに・・・、それに、李翔さん、あんたは陛下に似てる・・・。似てる、似てると話してはいたが、今のは・・・。そうなんだろう?だから夕鈴ちゃんが狙われたんだろ?なぁ、夕鈴ちゃん。あんたは後宮の悪女だったっていうのかい?」

「あ、あの、いえ、その・・・。」

 

商店街の皆の真剣な目に何と答えたらいいのかわからずに俯いてしまった。

何と答えようと真意は伝わらないように思えたから。

 

「夕鈴・・・。」

 

本当のことを言いたくて、でも言えなくて、皆から目を逸らした私に陛下が手を差し伸べる。

 

「だ、駄目だ!夕鈴ちゃんは渡せねぇ。あんたは信用ならねぇ。」

「な、何言ってるんです?陛下は立派なお方です!!」

 

陛下を罵る言葉に思わず叫んでしまった。

 

「あ・・・。」

 

さぁっと頭から血の気が引くのがわかる。

自分で爆弾発言をしたことに震えがきて足元ががくがくしていると陛下が人垣を掻き分けて私の腰を攫い胸の中に囲われた。

その表情は狼とも子犬ともとれる顔で。ちょっと苦笑いしながら私の額に唇を寄せた。

 

「ちょ、陛下!皆が見てます!」

「え?僕気にならないけど。」

「私が!皆が気にします!」

 

驚いて周りを見渡すと皆が揃いも揃って目を大きく見開き口をあんぐり開けてこちらを見ていた。

その様にため息をつくが陛下はどこ吹く風だ。

これが彼の通常仕様なのだから仕方ないのだろう、と思うことにする。

すると私を抱き寄せる腕の力が強まった。

 

「ふぅ~。そうか、やはり気が付いていたか。我が民は優秀で喜ばしいことだ。なぁ、夕鈴。」

「やはりって、陛下・・・。」

「うん?だって、僕、離宮からの帰り道、顔を隠してなかったし、産婆さんもすぐにわかったでしょう?」

「それは、そうですが・・・。」

「だから、想定範囲内だよ。というか、むしろそれでいいんだ。」

「あ、あの、それはいいとしてですね、さっきからコロコロと入れ替わってますが・・・。」

「ああ、それも良い。彼らは君の為に私の前に立ちはだかった。真摯に君を思っての事。そんな素晴らしい民を欺く必要はあるまい。」

「・・・」

「皆の者、その通りだ。李翔とは此方に来た時に使っている名。私の本当の名は珀黎翔。この国の王だ。」

 

陛下の言葉に私たちのやり取りを黙って聞いていた商店街の皆はざわつきだした。

 

「じゃ、じゃあ、夕鈴ちゃんは・・・。」

「その通りだ。夕鈴はわが唯一の愛しい妃だ。」

「で、でも、陛下には御正妃様が!」

「ああいるな。」

「なら何で・・・。」

「ふむ・・・。」

 

そこまで話すと陛下は顎に手を当てて口を閉ざしてしまった。

よくよく見ると商店街の皆の膝はガタガタと震えていて顔も青ざめている。

それでも陛下を詰問するのをやめない皆がありがたくて涙が出てきた。

陛下は私の瞳から零れ落ちた涙を親指で拭うと笑みを浮かべて皆に向き直った。

 

「皆を巻き込むのは本意ではない。夕鈴にはいずれ正妃になり立后して貰う。詳しくは言えないが、正妃は近々退くことになる。夕鈴は国母になる大事な身体。我が唯一であるのに違いない。」

「じゃ、じゃあ今のは・・・?」

「恐らく正妃の手の者ではないかと思う。確証はまだないが。戻り次第子細を聞く。」

「夕鈴ちゃんが狙われているってことだよな?」

「不甲斐ないがそういう事だ。」

「だからいつも几鍔たちが共に行動しているのか・・・。」

「・・・。」

 

何も言わない陛下に答えを是と得た皆は丸くなってぼそぼそと話をしだした。

時折、でも、とか、それなら、とか、だが、とか声が漏れてくるが何を話しているのかはよく聞こえない。

どうしたらいいのかわからずに相も変わらず陛下の腕の中に囲われたまま項垂れていた。

 

でも・・・。

でも、誰かを傷つけても、誰かの犠牲の上に成り立っている幸せだとしても、それは私が望んだことで、陛下一人が責任を背負うのは違う。

私は、私の意志で陛下と共に、永に過ごしたいと思ったのだ。

彼の隣で胸を張って前をしっかり向いて共に歩いていきたい、と。

 

「あの、あの、陛下。御手を離してください。私にも、お話しさせてください。」

 

陛下は抱きしめる力を弱めて顔を覗き込んできた。

目をしっかり開いて陛下を見つめ返すと、ふぅ、とため息をついて解放してくれた。

 

「本当にわが妃は思い通りにならぬな。」

 

苦笑いしながらも嬉しそうな声だった。

 

「申し訳ございません。ですが、皆さんが誤解しているのであれば、それを正しとう御座います。お許しくださいませ。」

 

李順さん仕込みの妃然とした所作で礼を取り笑みを浮かべると、黎翔様は目を見開き酷薄な笑みを浮かべ狼陛下で答えた。

 

「ふっ、さすがわが妃。願いを叶えよう。」

 

私の手を取り甲に唇を寄せながら妖艶に笑う陛下に腰が抜けそうになるのを踏ん張って、陛下の束縛から離れ皆の前に立つ。

 

「いろいろ、お話しできないことがあるのは事実です。事実ですが、陛下は素晴らしい方です。私は、陛下と出会って幸せをいっぱいもらいました。陛下が政務に励まれ、本当にこの国の為、私たち民の為に身を粉にして頑張ってくださっていることを知りました。・・・確かに、皆も知っている通り、辛い、ことも、ありましたが・・・。でも、でも、それでも、私がいい、と言ってくれる陛下と共に歩みたいのです。陛下は、私に無理強いはしていません。それだけは、誓って違います!私の意志で陛下と共に居ることを信じて欲しいのです。そしてこの御子の誕生を私たちは心から待ちわびています。ですから、大丈夫です。だから、だから、どうか秘密にしてもらえませんか?」

 

最後の方は涙声になっていたから皆に聞こえていたのかはわからなかったけれど自分の思いを言い切った。

陛下はまた私を抱き寄せて、頭の上に唇を寄せてくれた。

 

「秘密に、は聞けねぇな。」

「な、おじちゃん!」

「誤解すんな、夕鈴ちゃん。俺らは陛下の御世になってとても暮らしやすくなっていることを知ってる。商売もしやすくなった。物価も安定してるし、破落戸もだいぶ減った。それもこれも皆そこにいる陛下のおかげだ。」

「・・・」

「俺たちは、夕鈴ちゃんに幸せになってもらいてぇ。そして、狼陛下の御世には満足している。・・・つまり、だ。」

「つまり・・・?」

「区全体で護ればいいじゃねぇのか?ってことだ。」

「え?」

「だから、皆に言っちまった方が早いってことだ。」

「皆にって・・・。」

「ふっ、そんな手があるのか?」

 

今まで黙って聞いていた陛下が口を開いた。

 

「ああ。几鍔たちだけでは荷が重いだろう。皆で背負えば大した重さじゃねぇ。護る手も目も多い方がいいに決まってる。違うか?」

「・・・違わないな。ふぅ。全く、思いがけず味方が増えたってところか。」

「へ、いか~~~~っ。」

 

嬉しくて涙が溢れる。陛下のやってきたことはこんなに下町で受け入れられていたのだ。

 

「だから陛下じゃないって。」

「は、はい!黎翔様!」

「はは、本当に仲がいいのな。いろいろ考えるところはあるけど、いつも二人でいるところを見ているからな。疑う余地はない。あんたらはどこからどう見ても新婚さんだよ。」

 

商店街の皆もほっとして笑いあい、みんなで顔を合わせ頷き合った。

 

 

 

 

 

 

 

そして今に至る。

陛下は下町に居る時は穏やかな李翔として振る舞い、皆も特別扱いはしない。

普通に声をかけ、普通に商売相手をする。

ただ違うのは、いつも優しく見守っていてくれること。

とにかく気にかけてくれて、いろいろ差し入れをくれたり初産の私の相談にのってくれたりしてくれる。

それがとてもありがたくて、陛下と共にこの国の民の為にがんばろう、と最近よく話すようになった。

取り敢えずは僕たちが幸せにならなきゃね。と陛下がいたずらっ子の様に笑うから、そうですね。って笑顔で返して陛下に手を伸ばす。

 

 

 

この幸せが溢れて皆に届きますように。

 

 

 

 

***************

 

 

つづく

 

 

 

道程24

 

わたしね、狼陛下、大好きなんだなって思うんです。

 

こういうシーン書くの、とっても疲れるけれど、陛下、かっこいいなっていつも思うんですよ。

 

たまりません!

 

同じ趣味の方いますか?← 

 

 

 

 

************* 

 

 

 

 

 

「陛下、後半刻程で御正妃様が此方に御着きになられるそうです。」

 

侍官から先触れがもたらされる。

 

「うむ、では謁見の間で大臣らと共に迎えるとしよう。その様に。」

「御意。」

 

黎翔の醸し出す冷たい気配に青ざめ拱手し侍官が足早に出ていく。

 

「いよいよだなぁ、李順。」

「はい。なるべく穏便に、早期に解決するよう祈っております。」

「ふん。祈ってどうする。尽くせ。」

「御意。」

 

黎翔は正に狼陛下と恐れられるに足る冷酷な笑みを浮かべ私室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「長旅ご苦労であった。」

 

主だった大臣、高官らが控える中、正妃が拱手し黎翔の言の葉を待つ。

 

「長期の不在申し訳ございませんでした。」

「いや、そなたの身体と心の為だ。ゆっくり養生できたか?」

「はい、陛下の御心のおかげで回復いたしました。心を尽くしてくださりありがとうございます。」

「では、疲れたであろう。後宮に下がってゆっくりするがよい。」

 

黎翔は冷たく周りを見渡し、足早に謁見の間を去っていった。

 

 

 

 

 

黎翔が部屋を後にすると、謁見の間はざわつき始める。

白陽を立つ前は、正妃は誰の目から見ても陛下の寵愛を受け、急に姿を消した唯一に変わり、新たな唯一になったのだと認識されていた。

 

それがこれである。

 

先の唯一の時は片時も離れたくないと、妃が一人であったときは政務室にも呼び、時間があれば共に四阿で過ごし、庭園では仲睦まじく手を繋ぎ散策を楽しんでいた。

時には足元が心配だと言って抱き上げて歩む姿を王宮の多くの人間が目撃している。

先の妃に変わり唯一となったのであれば、常時の黎翔であれば馬車寄せまで出迎えに行くであろうし、更には疲れているだろうからと抱き上げ、自ら後宮へ連れ去ってもおかしくはない。

 

大臣、高官らもその辺りの見解は一致していた。

 

それくらいに黎翔の唯一の妃への寵愛は過去の王宮では見られなかった特異なことで、特異であるがゆえに皆の記憶に濃く刻まれ、理解はされずとも認識はされていた。

余りにも先の唯一であった妃への寵愛とは違う、今となっては唯一になったはずの正妃への対応に臣下達はあの噂話は本当なのかと囁きあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは正妃が母国へと帰国したその日から始まった。

陛下付きの女官、侍官らが政務を終えたはずの陛下が自室に戻られない、と。

側近である李順に確認をするも「いるはずです」の一点張りで中に入ることも許されない。

朝も自室に寄った様子は見られないにもかかわらず気が付くと政務に取り組まれている。

しかも、正妃が居た時よりも数段機嫌がよく、雰囲気も柔らかい。

 

まるで以前、唯一だけが後宮に居た頃のように。

 

どこに行きどこから来ているのか・・・。

いつからか侍官、女官達からひそひそと囁かれるようになった。

 

 

 

陛下は先の唯一を御隠しになっているのではないか____?

 

 

 

そんな噂を知らない桜華は後宮に下がり黎翔を迎える準備をしていた。

 

____久しぶりの逢瀬。さっきは冷たかったが、きっと今夜は此方に来るはず。

 

自国の計略を遂行するため桜華は妖艶な衣装を身に纏い、媚薬を混ぜた香を焚き染め黎翔の訪れを今か今かと待っていた。

白陽を立つ前の寵愛を思い出し胸が高鳴るのに気が付かないようにして。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故!何故黎翔はこちらに来ないのだ?此方に来てどれほどの日にちがたったかわかるか?」

 

黎翔は謁見の間で正妃と面会して以降、一度も後宮に姿を見せることはなかった。

桜華が正妃付きの白陽側の侍女に詰め寄る。

桜華が白陽に嫁いできた際連れてきた侍女もいたが、それでは不便があるかもしれないからと白陽側からも侍女が付いていた。

 

「い、いえ、私どもは何も・・・。」

「知らぬ・・・か?では、直接参ろうぞ。以前妃が一人であった時は政務室にも行っていたと聞いておる。私が行っても構わぬだろう。のう?」

 

夕鈴付きを外された侍女に向かって問う。

問う、という形を取ってはいるが、決定権は正妃にあり侍女が口を出せることではない。

内心どう思っていようが頭を垂れ拱手して付き従うしかないのだ。

 

「先に参りまして陛下に御正妃様が政務室に訪れることをお伝えしてまいります。」

 

さっと向きを変え足早に王宮に向かった侍女を見やり大きく溜息をつくと、桜華は急いで身なりを整え黎翔が好むと言われる花を髪に差し自らも王宮へ向かった。

 

 

 

 

 

「陛下、失礼いたします。よろしいでしょうか?」

 

青ざめたまま先触れを伝えに来た侍女が入室の許可をもらおうと拱手して待つ。

 

「どうかされましたか?」

 

夕鈴が一人であった頃は日々此方を訪れていた侍女が青ざめている様に李順が答えた。

 

「あの、御正妃様が、此方にいらっしゃると・・・。」

「成らぬ!!」

 

黎翔の冷たく突き放すような声に侍女は足元が震えどうにか立つことがやっとだ。

 

「陛下・・・。貴女には何の責もありません。落ち着きなさい。それから、政務が詰まっておりますので御正妃様が此方に来られるのは御遠慮していただきたい、とお伝えください。よろしいですね。」

「は、はい・・・。失礼いたします。」

 

侍女が下がろうと急ぎ踵を返そうとすると後ろにはすでに正妃が立っていた。

 

「は、御正妃様・・・。」

「役立たずね。貴女は下がっていなさい。」

 

冷たく見下すような目線で王族らしい物言いに再び侍女は震えだし後ろへ後ずさった。

侍女が下がったのを確認すると頬を赤らめ目には涙を湛えて政務室に入っていく。

 

「黎翔、いつになったらあなたの顔をゆっくり見られるのですか?日々貴方が来るのを待ち焦がれ私の胸は張り裂けそうです。」

 

黎翔が冷たく睨み付けているのにも気が付かず腕に縋りつき胸を強調した衣装で言い募る。

 

「はあ~。」

 

黎翔は殊更大きく溜息をつくと腕から正妃を引き剥がしながら冷たく言い放った。

 

「その様な姿でこちらに来るのはやめてくれ。政務を滞らせることが正妃の仕事であったか?」

「いいえ。邪魔をしに来たのではありません。私は貴方の唯一になったはず。なれば此方に参ることも許されると思うのですが。」

「ふっ。君が唯一、と?誰かそう言ったか?私は言った覚えはないのだがな。」

「で、ですが、後宮には私一人ではありませぬか?以前の様に私と共に寛いでいただきたいだけでございます。」

「君が居らずとも、私は十分癒されておる。必要があるときは此方からそちらへ出向く故、今後後宮から出ることは許さぬ。これは決定事項だ。わかったら戻れ。」

「くっ・・・。わ、わかりました。後宮にてお待ちしております故、是非にお帰りくださいますようお願い申し上げます。失礼いたします。」

 

優雅に礼を取り美しく整った顔を少し歪ませた笑みを浮かべ怒りからか肩を震わせる正妃を官吏たちは見て見ぬフリをしていた。

 

「待て。」

 

黎翔は下がろうとした正妃を呼びとめると、すっと正妃へと手を伸ばした。

先程までの物言いとは打って変わり笑みまで浮かべている様に桜華は胸が高鳴り自然と笑顔になった。

 

「・・・これは、君には似合わぬ。」

 

そう言うと桜華が髪に挿していた花を抜き取り香りを楽しんだ後口付けた。

 

「この花を摘むことは認められない。わかったら後宮へ下がれ。」

 

それだけを言うともう興味はないとばかりに去っていった。

残された桜華は、只でさえ拒絶ともいえる態度を取られ憤慨していたところに甘い顔で寄ってきた黎翔に期待をしたのを冷たくあしらわれ、手が震えるのを抑えきれなかった。

ただ俯き顔を真っ赤にし口を引き結んですぐさま後宮へと下がることしかできなかった。

 

二人の会話から、あの噂は真実味を帯び、その日のうちには王宮中に伝わっていく。

 

 

 

陛下は唯一を隠している。

 

それも毎日通えるほど近くに____。

 

 

 

しかし元々出自不詳での入宮であった妃の行方を知る者はおらず。

また、以前の事件で身内を廃妃されていた柳、氾両大臣をはじめとする大臣、高官たちは御咎めがない代わりに陛下の御世に尽くすよう強く言われていたために率先して探し出そうとする者はいなかった。

 

 

 

 

 

そして、とうとう後宮に居る桜華の耳にもこの話は入ることになる。

自国から共に連れ立ってきた古参の侍女からの言葉に最初は意味が分からなかった。

 

 

 

____陛下は唯一を未だに想っていて隠されている。

 

 

 

「な、何を申す。黎翔はあんなに私に夢中であったではないか。夜毎此方に来て私を・・・。夕鈴なぞ、まるで目に入ってないかのように室にも訪れることはなかったはず・・・。何故・・・。」

 

桜華は考えもしていなかった元寵妃の存在を信じ切れず呆然と立ち尽くした。

 

確かに一度は寵愛を勝ち取ったはずであった。

自分が来てからというもの、唯一と共に過ごす時間はほとんど無いと思えるくらいに自分の所へ通ってきていたはず。

離宮から戻るとかの妃は退宮を申し出ていたと聞きほくそ笑んだ。

とそこまで考えて、そういえば、と思う。

黎翔が退宮を認めた、とは聞いていないことに気が付く。

 

「ま、まさか・・・。」

 

自分の考えが至ったところが間違いであって欲しいと、桜華は一気に血の気が引く気がし、そのまま意識を手放した。

  

 

 

***************** 

 

 

 つづく

 

 

道程23

 

一週間が始まりますね。

 

先週は休みが多かったから楽だったけれど、今週は休みがなくていやだな←通常だよ

 

それではお待たせいたしました←待ってない?

 

いってらっしゃいませ。 

 

 

***************

 

 

 

5か月に入ったってとこだね。」

「っ!」

 

お腹に本当に陛下の赤ちゃんがいる。

夢のようで一瞬で涙が溢れそうになる。

 

「・・・夕鈴ちゃん、結婚、まだだったよね?」

「あ・・・は、い・・・。」

 

そうだ。

ここは下町の、私たち兄弟も取り上げてくれた産婆さんの家で。

私たちの家族の事情も全てわかっている、つまりご近所さんだ。

まだ後宮には戻れないということで陛下と共にここに訪れたのだが、浮かれすぎて考えが至らなかった。

 

「夕鈴には私がいますので。」

 

どうしたらいいのか考えが纏まらず青ざめてしまった私の思考を遮るかのように優しく暖かな声が響く。

 

「あんた、以前ここに来た人だろ?探していたのはこの娘かい?」

「ああ。」

「えっ、おばちゃんこの人知ってるの?」

 

何故陛下が下町の産婆さんなんかと知り合いなのだろう?

どう考えても接点なんてなさそうだけど。

 

「ふぅ。半年ほど前だよ。突然来て、この辺りで未婚のまま子を成した娘がもし来たら王宮まで届け出るようにって、何度もしつこく念押しされてね。てっきり何か調査でもしてるのかと思ったが、夕鈴ちゃんの事だったとはね。」

「え?李翔さん・・・?」

「あ、だって、夕鈴にもし身籠ったままいなくなられたら嫌だなぁって・・・。」

 

えへっと言わんばかりにバツの悪そうな笑みを浮かべてこちらを見つめてくる。

その瞳にはごめんね、と書いてあるようで、やっぱり怒れないなぁなんて思ってしまう。

 

「もう!いいですよ!ホントに・・もう。」

 

最後の方は照れてしまって声が尻すぼみになってしまった。

こんなに私の事を想ってくれていたのかとちょっと嬉しくなってしまって、別の意味で涙が溢れそうになってしまった。

 

「でも、あんた、狼だろ?どうするつもりだい?」

 

産婆さんの容赦ない一言・・・

 

「な!何言ってるの、おばちゃんったら・・・。」

「夕鈴ちゃんは黙っとくれ!私はね、あんたたち姉弟には幸せになってもらいたいんだよ。どんなに苦労してきたか、私たちは皆知ってる。」

「・・・。」

「あんた、狼陛下だろ?こないだ凱旋で私も見たんだよ。雰囲気はだいぶ違ってるが・・・。その紅い瞳、漆黒の髪、陛下そのものじゃないか?違うか?」

「お、おばちゃん、そんな・・・!」

 

そんな言い方をしたら不敬罪で今すぐに首を切られてもおかしくない。

陛下は確かに優しい方だけれど、必要であればどれだけでも冷酷になれる人だ。

 

「ふぅ~。夕鈴、いいんだ。大丈夫だよ。」

 

陛下が繋いだ手をギュッと更に強く握って笑う。

 

「いいんだ、下町での味方は多い方がいい。ちゃんと話そう。そういう事もあるかと考えていたから大丈夫だ。」

 

そう言うと陛下は先ほどまでの李翔さんとガラッと雰囲気を変え、狼陛下になって話せる範囲でおばちゃんに説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~、そうかい。ふぅん。掃除婦だったのが見初められて・・・。夕鈴ちゃんが後宮の悪女だったわけかい。成程ねぇ。そりゃ逃げるね。私でも逃げるわ。わははは。」

 

全てを聞き終わるとおばちゃんは朗らかに笑った。

 

「で、片付いたら戻るんだろ?」

「うん、そのつもり・・・」

「つもりではない。必ず迎えに来る。私を信じていないのか?」

 

頬に手を添えて顔を近付けながら腰に手をまわされ抱きしめられる。

 

「~~~陛下!もうこんなところでやめてください!信じてます!必ず、ですよ?」

 

おばちゃんの前なのに激甘な陛下に照れながらも上目遣いでそう言うと満足したように頷いた。

 

「はは、狼も形無しだねぇ。そういう事なら、夕鈴ちゃんをあんたが迎えに来るまで皆で護るさ。必ず無事に出産まで辿りつかなきゃね。首と胴が離れるのは勘弁だよ。」

 

そう言うとおばちゃんは茶目っ気たっぷりに片目をつぶって笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~、青慎帰ってる~?」

「ね、姉さん、お、お客様・・・。」

「ゆ、夕鈴・・・一体これはどういう事だ?」

「あれ?父さんまで?こんな時間にどうしたのよ。まさか、さぼってきたんじゃ・・・。」

 

こんな時間にいるはずのない父に眉間のしわが寄るのを抑えきれず叱りつけようと思った時だった。

 

「ふぅ~、夕鈴殿・・・。御父上は私がお連れしました。」

「李、李順さん~~~~~。」

 

気配なく影から現れた李順さんに全身の血が逆流したような感覚に陥りふらつくと、逞しい腕に支えられた。

 

「李順、夕鈴を無闇に威嚇するなと何度言ったらわかる。」

「威嚇などしておりません。通常運転です。何か疚しいことがあるからびくびくされるんですよ。私のせいではございません。」

「す、すみません・・・。」

「夕鈴は悪くないよ。あのね、今日は夕鈴の御家族にちゃんとお話ししなければと思ってさ。子が居るのがはっきりしたら、そうしようと決めていたんだ。僕達の事、これまでの事、それからこれからの事。いろいろ話が込み入るから李順にも来てもらったんだ。御父上にも逃げられないように捕まえてきてもらったんだ。」

「ちょ、ちょっと待て。今、なんて言った?」

 

父さんが急に青ざめた顔で陛下の話を遮った。

 

「子が居るって言ったか?」

「ええ、言いました。夕鈴のお腹には私の子が居ます。」

「な、な、何を!嫁にもやっとらんのに、どういう事だ!大体そういう相手がいるとも聞いておらん!」

 

父さんは顔を真っ赤にして陛下の胸ぐらをつかみ今にも殴り掛かりそうだ。

 

「すみません。順序が逆になってしまったことは、本当に申し訳なかったと思ってます。ですが、私は夕鈴に傍にいて欲しい、一生を共にしたいのです。どうか許してくださいませんか?」

 

陛下が父さんに向かって頭を下げる。

 

「へ、陛下!やめてください!庶民なんかに頭を下げるなんて!李、李順さん!止めてください!」

「止めたって聞くわけがないでしょう。あなたは馬鹿ですか?陛下ですよ。」

「ちょ、ちょっと待て・・・。確認するが、今、陛下・・って言ったか?」

 

二人の話を聞いていた父さんが一瞬にしてさぁっと顔を真っ青にした。

 

「あっ!いや、父さんこれは・・・。」

「如何にも、私は白陽国国王 珀 黎翔 だが。」

「へ、陛下!」

「陛下ではない!名を呼んでくれ、夕鈴。」

 

こんな場面でも普段通りに甘いままの陛下に焦っているのがばからしくなった。

 

「ふふ、はい、黎翔様。」

 

そのまま差し出された手に自分の手を添えると腰に手が回り引き寄せられて、すっぽり腕の中に囲われる。

 

「いちゃつくのは後にしてください。御父上と弟君が唖然としています。」

「・・・お前は。まぁよい。そうだな。きちんと話をせねばなるまい。」

 

「李、李翔さんは、やっぱり陛下なのですか?」

 

呆然と立ち尽くしていた青慎が震える声で疑惑を確信したとばかりに聞いてきた。

 

「そうだ。偽名を使い身分を隠していてすまなかった。」

「じゃ、じゃあ、陛下!陛下は御妃様が、いえ、今は御正妃様がいらっしゃいますよね?姉さんが後宮で耐えられるとは思えません!姉さんの事は遊びなのですか?あの、あの時僕に頭を下げたのは、あれは、嘘ですか?」

 

青慎が目に涙をいっぱいためて、手をぎゅっと握りしめたまま陛下を見つめている。

こんな時なのに、なんて姉想いの可愛い弟なのだろうと嬉しくなって涙が零れた。

 

「いや、君に話したことに嘘偽りはない。私には夕鈴が必要で、この命尽きる日まで共にと思っている。いや、そうする。詳しくは言えないが、今の正妃は廃妃になる。いずれ夕鈴には正妃になって立后して貰うつもりだ。」

「・・・本当、ですね?姉さんは幸せになれるんですよね?」

「ああ、安心してくれ。私には夕鈴さえいればいいのだ。他は要らぬ。」

 

陛下が青慎の肩に手を置いて見つめると、青慎は涙を拭って笑って頷いた。

 

「といういう事です、御父上。夕鈴との婚姻を認めてください。お願いします!」

 

再び陛下が父さんに頭を下げる。この人は・・・。

ただ一言召すように言えば皆が動き誰も逆らえない。

そういう立場にあるはずなのに、私の為に、普段は絶対に下げない、下げてはいけないであろう頭を下げてくれている。

 

「父さん、私も、お願い!辛いこともあるけど、ううん、今までも沢山辛かったしこれからも辛いこともあるかもしれないけど、でも、それでも、この人の傍に居たいの!お願いします!」

「私からも、お願い致します。陛下の幸せの為に、お二人の婚姻を認めていただけないでしょうか?不本意ではありますが、国の行く末を左右する案件だと考えざるをえません。どうかお許しいただきたい。」

 

気が付くと李順さんまで頭を下げている。

 

「お!オレっちも!」

 

久しぶりに響く人懐っこい声に振り向くと浩大が膝をつき拱手しながら同じように頭を垂れている。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺は頭を下げられるのは慣れてないんだ!勘弁してくれ!取り敢えず頭を上げてくれ。」

 

父さんの声に皆が頭を上げ全員の視線が父さんに向けられた。

 

「夕鈴。・・・それでお前は幸せになるんだな?」

「ええ、父さん。何があろうと、陛下の、黎翔様の傍に仕えることが私の幸せです。」

「ふぅ~、そう、か。お前には苦労かけた。陛下、娘をお願いします。」

「はい!ありがとうございます!大事にします!絶対に守り切って見せます!」

「ま、守り切って・・・?」

 

物騒なことを連想させる言葉に父さんが蒼白になった。

 

「あ!大丈夫っすヨ。オレっち達も皆で護りますから!お妃ちゃんは侍女たちにも好かれているし、味方はいっぱいいるっすヨ。」

 

急にどこからともなく現れて話に加わっていた浩大に怪訝な顔を向けた父さんに李順さんが説明を始めた。

 

「私は李順、と申します。陛下の側近をやっております。そちらの男は陛下の隠密の浩大です。夕鈴殿の警護を主にやっていただくことになろうかと思います。後、陛下はまだまだ敵の多い方ですので、夕鈴殿の実家であるこちらの警護の総括もこの浩大がやりますので覚えておいていただきたいと存じます。詳しいことは言えませんが、浩大が戻ってきたということは王宮での掃除が始まるということですので、暫くは落ち着くまで夕鈴殿は下町にて御子の出産に備えていただいた方が安全かと考えております。それ故、こちらにて普通にお過ごしください。王宮との連絡は浩大が請け負います。浩大以外の者を遣いにやることはありませんのでご注意ください。」

 

出来る側近らしく簡潔に全てを一息に説明すると、急に家の外へと続く扉が開いた。

 

「おい!今の話は本当なのか?」

「~~~~几、几鍔!!な、何立ち聞きしてんのよ!」

「うるせぇ、お前が産婆のばあさんとこから男と出てきたって聞いたから様子を見に来たんだ。・・・で、李翔さんよ?いや、陛下、か?本気か?」

「本気だよ、金貸し君。」

 

陛下の目が細められて顔には微笑が浮かぶ。

几鍔も陛下の冷たい気配に青ざめてはいるものの、一歩も引く気配はない。

 

「ふぅ~、わかったよ。なら汀家と夕鈴はもともと俺たちの仲間だ。俺たちも護ってやる。今の話からすると表立って警護することは出来ねぇんだろ?俺たちならこいつらと一緒に居ても怪しまれることはないしな。どうだ?」

「・・・そうだな。私が夕鈴と共に居れないのに金貸し君と一緒というのは面白くはないが、夕鈴を護る、という点については信用できるだろう。頼めるか?」

「ああ。」

「夕鈴に手は出すなよ。」

「ああ?アホぬかせ!こんなガキに誰が!そんな物好きはてめぇくらいだ!」

「え~、夕鈴は可愛いよ。」

「陛下になんて無礼な物言いを!」

 

その後は皆が入り乱れて訳がわかんなくなっちゃったけど、とにかく私は幸せで、今から来るであろう嵐の事なんてすっかり忘れていた。

 

 

 

 

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つづく 

 

道程22

今回は青慎目線をお送りします。

 

やっぱり青慎はいい子!

 

 

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姉さんが王宮から帰ってきた。

いつもは驚くくらい元気に帰ってくるのに、その日はなんだか違っていた。

目は赤く腫れていたし、目の下には隈までくっきりと出ていて。

 

「バイトが終了したから、やっと戻ってこれたわ。ごめんね、今まで青慎一人にお家の事任せちゃって。これからは私がやるから、勉強頑張るのよ!」

 

そう笑って言ってたけれど、どう見ても以前のような快活な姉さんではないような気がした。

僕の見えないところで声を押し殺して泣いていることもあったし、夜月を見上げて何かを呟きながら涙を零している時もあった。

 

几鍔さんは何か知っているのか、たまに家に顔を出してはいつもの調子で姉さんを少しからかいながら様子を見に来てくれていた。

何か言いたげに僕の事を見やることもあったけど、結局何も言わずに困った顔をして帰っていった。

 

僕の知るところで姉さんにこんな顔をさせるのはあの人しかいない気がする。

姉さんが何も言わないからこちらから聞けずにいたけれど、段々と体調を崩し日々空元気な笑みを顔に張り付けて頑張っている姉さんを見ていたら、真実がどこにあるのかは知らないけれど李翔さんに対して腹が立ってきた。

 

「姉さん・・・あの、李翔さんは?」

 

ある日意を決して姉さんに聞いてみた。

いつまでも姉さんだけが悲しんで暮らしているのだとしたら、何とかしてあげたかった。

 

「・・・何?」

「李翔さんは、来ないの?いつもくっついて来てたでしょう?」

「ふぅ。あの方はただの上司だっただけよ。バイトは終わったの。来るわけないじゃない。」

「本当に?ただの上司なだけだったの?姉さんは・・・」

「青慎!・・・あの方は部下に優しいだけよ。大体、結婚されて今は旅行中なの。」

「なっ、結婚?なんで?だってあの人・・・」

 

誰がどう見たって姉さんの事特別に大事に想ってくれてるみたいだったのに・・・。

 

二の句が継げずに黙り込んだ僕を姉さんが優しく抱きしめてくれた。

 

「青慎、ありがとう。ごめんね、心配させてるのね。・・・でも、大丈夫よ。姉さんはちゃんとわかってたもの。契約が終われば私は下町に帰るって。それはあの人もわかっていたことだし、私たちはなんでもなかったのよ。だから、また元気になるから、ね?」

「・・・姉さんがそれで良いのなら。じゃあ、僕、勉強頑張って官吏になっていつか李翔さんに会えたら、一発殴ってあげる!だから、それまでに元気になってね?僕が官吏になるのと姉さんが元気になるのと競争だよ?」

「青慎!なんていい子なの!でも、殴らなくてもいいわよ。あの人は何も悪くないわ。もしあの人に会えたら、その時は力になってあげてね。」

「「約束!」」

 

そう言って指切りをして二人で笑った。

 

その日から、姉さんは少しずつだけど元気になって、飯店でのバイトも見つけてきた。

相変わらず体調は悪そうであまり眠れてないようだったけど、少しずつ明るい表情もするようになった。

 

 

 

 

 

 

 

そんなある日。

 

僕はその日、なんだかとても眠くて、勉強を切り上げて早めに床に就いた。

 

 

 

 

 

朝目覚めて居間に出た時の衝撃を何と言ったらよいのか・・・。

 

「っ!李、李翔さん!?」

「おはよう、青慎君!久しぶりだね。」

 

久しぶりって、何普通にしてるんだろう、この人。

なんだか尻尾がぶんぶん振り切れんばかりにしているように見える。

姉さんが庇うからそれ以上言わなかったけど、僕、内心結構怒ってるんだよね・・・。

 

「なんで家にいらっしゃるんですか?御結婚されたと聞きましたが?」

「夕鈴がそう言っていたの?」

「はい・・・。」

「そう・・・。うーん。」

 

なんだかよくわからないけど困った顔をしてこちらの様子を伺っている。

そういえば、姉さんはどうしたんだろう。

いつもなら先に起きて元気に働いているのに。

部屋に確認に行こうとして李翔さんに止められた。

 

「あ!夕鈴まだ寝てるんだ。最近あまり体調がよくなかった様だし、まだ寝かしてあげて欲しい。」

「あの、姉は?」

「うん。昨日の夜遅くに来た僕と話し込んでしまって、眠ったの朝方なんだ。だから、ね。」

「わかりました。大事がないのならその方がいいですね。」

「ごめんね、青慎君。」

「・・・何がですか?僕、姉が貴方を悪く言わないので我慢してますけど、貴方のせいなんでしょう?姉さんがこんなになってるのは!」

 

つい声を荒げてしまう。姉さんの陽だまりのような笑顔をもう一度見たかった。

何もできない自分が悔しかった。

 

「・・・うん。そうだね。僕のせいだ。君の姉さんを苦しめてしまった。申し訳ない。」

「・・・」

「でも時間はもう少し掛かるけど、夕鈴を僕の妻に迎えたいんだ。」

「そんな!姉さんはそんな関係じゃないって!」

「・・・うん、そうだよね。そういう話だったんだ。だけど、僕がどうしても夕鈴が良くて。苦しめるのはわかってたから逃がしたかったけど、僕はもう決めた。だから夕鈴を迎えに来たんだ。納得できないのはわかるけど。」

「姉はなんて?」

「了承してくれたよ。待っていてくれると。本当に不甲斐ない男で済まないが、どうか許して欲しい。」

 

そういうと立ち上がり頭を下げた。

まだまだ子供の僕なんかに貴族が頭を下げるなんて考えられない。

どんなことがあろうとも、貴族の立場にある人が庶民にそんなことをするなんて聞いたこともない。

それなのに、黙り込んだ僕がまだまだ怒っていると思ったのか地面に手をついて許して欲しいと言ってきた。

 

「や、やめてください!わかりました!李翔さんの気持ちはわかりましたから!顔を上げてください。貴方にそんなことをさせたと姉が知ったら僕が怒られます。」

「でも君の大事な姉さんを苦しませたのは確かだし許せないと思うのも仕方ないと思っている。」

「もういいですよ。姉はあなたの申し出を受けたのでしょう?姉がまた心から笑って過ごせるなら、もうそれでいいです。姉には苦労を掛けています。幸せになってほしいです。どうか、姉がいつも笑っていられるようよろしくお願いします。」

 

今度は僕が頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、夕鈴、行ってくる。」

「はい、行ってらっしゃいませ、黎、っと李翔様、って李翔さん。」

 

あれから李翔さんはここから王宮に通っている。

 

「李翔さん、僕も途中までご一緒してもいいですか?」

「もちろん!」

「じゃあ姉さん、行ってきます。」

「青慎も頑張ってね。行ってらっしゃい。」

 

姉さんの花のような笑顔が戻った。

僕はとても嬉しくて、知らず知らずについ頬が緩んでしまう。

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ、黎翔様、っと李翔さん。」

「うん、ただいま!夕鈴!」

 

今日も李翔さんが嬉しそうに帰ってきて、それを姉は飛び切りの笑顔で迎える。

 

 

 

 

 

でもね、姉さん。

李翔さんの呼び方がいつもおかしいと思うんだ。

 

李翔さんって、もしかして・・・。

 

まさか、ね?

 

 

 

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つづく

 

 

流石の青慎!!

いいこ!!