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柔らかく優しく甘く⑦

我慢のできない狼さんが大好きです!

 

いってらっしゃいませ! 

 

 

 

 

 

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あれから・・・。

 

気を失う様にして眠りについた翌日・・・。

 

「あら、お妃様。寵愛の印ですわ。素敵ですね。陛下のおっしゃられた通り、とても仲睦まじくいらして、私たちも嬉しいですわ。」

 

いつも支度を手伝ってくれている侍女さんがほぅっと頬を染め嬉しそうに一点を見つめていた。

 

「え?なにを・・・?」

 

鏡越しに彼女が見つめる先は首の付け根辺りで。

じっと見つめているそこに目をやると、ほんのりと赤くなっていた。

季節はまだ涼しいのに虫に刺されたのだろうか、と不思議に思っていると。

 

「あの後ゆっくりと過ごされたのですね?こうして印を刻むとは、陛下もお妃様の事を大事に想っているという事を皆に知らしているのですわ。昨日は紅珠様がいらして、その後お妃様が体調を崩されたことを私共も心配していたのです。陛下もきっとそうですわ。」

「む、虫刺されじゃないかと・・・。」

「いいえ!違いますわ!それは御寵愛の証でございます!見間違えるわけが御座いません!陛下はお妃様の事を大層大事にされているのでございますわ。」

 

瞳を潤せ頬を染め両手を胸の前で握りしめて恍惚と語られる。

 

_____つまり、陛下への悋気のあまり私が体調を崩し、陛下が私を気遣って跡を残した、とそういう事?

 

居た堪れない・・・。

と言うか、本当に口付けの跡なのか?

経験のない私にはわからないものの、妃として此処にいるのだから絶対違うと反論するのもおかしな話で。

 

「あ、ありがとう、御座い、ます・・・。」

 

よくわからないけど、侍女さん達の気遣いに感謝だけはした。

悋気を起こしたと言えばそうなので、心配をかけたなら悪いことをしたなと反省した。

偽物の妃が悋気を起こすなんておかしいのに。

侍女さんたちは私が偽物だとは知らないから。

ましてや私は後から来た者で、紅珠様の入宮はずっと前からの決まり事だ。

陛下のお嫁さんになることは、いや、王様にならなかったとしても、彼のお嫁さんになることは昔からの決定事項だ。

後宮に来るからには、皆寵愛を競う事は当たり前で、悋気がどうとかいう問題でもないだろう。

特に紅珠様は御正妃様になられるのだから、入宮してくる妃全てを統べなければならない。

悋気など御して生きていかなければならない世界だろうと思う。

やっぱり私にはよくわからない世界だな、と一人心の中で呟いた。

 

「今日の御支度は整いました。いかがですか?お妃様。」

 

1人思案の底に沈んでいると侍女さんに声を掛けられた。

 

「はい。今日もありがとうございます。」

 

李順様仕込みの妃演技用の優雅な笑みを浮かべお礼をいう事には慣れたけど。

 

 

 

 

 

いつもは一人で食べる朝餉、といっても給仕してくださる侍女さんたちに見守られながらの緊張する時間ではあったのだけど。

珍しく陛下から共にとの言付けがあり、気を取り直して侍女さんたちと準備をして待っていた。

 

「妃よ、おはよう。昨日はよく眠れたか?」

「はい、おはようございます。早々に床に就いてしまい碌にお相手も出来なくて申し訳ございませんでした。」

「いや、私がまた無理をさせてしまったからな。それよりも、もっと近くでその花のような笑顔を見せておくれ。」

 

朝っぱらから甘い狼陛下全開で手を伸ばしてきた陛下はあっさりと私を腕の中に捕えると、顎に指を掛け上を向かせる。

またか?と思いつつも、反射的に目を閉じると昨日感じたものと同じ感触が唇を辿る。

 

軽く触れ離れる。

 

「ふっ、そんなに目を閉じて、朝から私を誘っているのか?可愛いいことだ。」

 

背筋がゾクっとすると同時にまた唇を塞がれ舐められた。

 

「や、いや・・・。」

 

どうにか口にできた反論の言葉はとても小さなもので。

唇から熱が離れると、ギュッと抱きしめられながら耳元で囁かれる。

 

「ならば、私の目を見ろ。そうすればやめてやる。」

 

陛下の恐ろしく残酷な言葉もまた私にだけ聞こえるくらい小さなものだった。

 

それからはもうなんだか訳がわからない日々を過ごした。

 

陛下は政務の間に少しでも休憩が取れると私を呼び出した。

その度に腰を攫われ膝上に囲われては口付けを与えられた。

後宮の四阿だったり、私の居室だったりならまだ良かったけれど。

いや、良くはないんだけど。

時には王宮側の四阿だったこともあった。

まさか臣下のいる所ではと油断した私を嘲笑うかのように、更に甘く激しく施される口付けに気が付けば溺れそうになる自分がいた。

 

その度に耳元に落とされる声。

 

「早く私の顔を見つめておくれ。」

 

寂しそうに聞こえるのは私の耳が壊れているのか、心が勝手にそう聞こえて欲しいからなのか。

口付けた後に愛しそうに私の頬を辿る指先が心地よいと思ってしまうのは、もっと触れて欲しいと思ってしまうのは・・・。

離れていく熱を寂しく思ってしまうのは、縋りついてしまいたいと思うのは・・・。

 

顔を見てしまったら、きっと最後。

恋心は抑えられなくなってしまう。

今ですら甘い束縛と抱擁に溺れてしまいそうなのに。

 

でも・・・。

顔を見れば、もう口付けはされずに済む。

 

違う・・・。

口付けされなくなるのが、嫌、なんだ。

 

どっちをとっても自分にとっては困ったことになる。

顔を見れば口付けをされずに済む。

それは愛しいと思う人に嘘でも触れてもらえなくなるという事。

顔を見なければずっとこのまま口付けられるのだろう。

それはそれで気持ちが溢れ出してしまいそうだった。

いつかは帰らなければいけないのに、戻れなくなりそうな自分が嫌だった。

 

どっちに転んでも、自分は陛下が好きで仕方がなくなることに違いはなかった。

 

もう限界だった。

 

取り敢えず、ここを少し離れよう。

少し気持ちを落ち着かせれば、気のせいだったと思えるかもしれない。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

「李順様!お願いがあります!!」

 

お妃教育の時間が終わり、皆で老師の部屋で軽い食事を楽しんでいた時。

夕鈴は思い切って休暇をお願いしてみた。

 

「弟も気がかりですし、少し、お休みを頂きたいんです!!」

「ああ、そういえば、貴女には官吏を目指す弟がいましたね。」

「そうなんです!この肉饅頭も弟の好物です!」

「りんりんちゃん、これうめぇよ。」

「ありがとう!!大ちゃんはいつもいい食べっぷりで嬉しいわ。」

「私にはちょっと塩っ辛いですがね。」

「掃除娘!年寄りにはもう少し優しい味付けにせんかい!」

「・・・姑、小姑。」

「何かおっしゃりましたか?休みを頂きたくなくなったと?」

「いえ!何でもありません!次はもう少し薄くします!!」

 

最初は掃除だけを空いている時間にやっていた夕鈴だったが、最近では戻った時に料理の腕が落ちていると困る、と言うのと、陛下に合わせると食事の時間が無くなると言う李順の為というのでお妃教育のある日は老師の部屋で軽く食べられる料理を作ることが常態化していた。

李順の時間が少しでも空けば妃教育がなされるので、ほぼ毎日といってよかった。

その為毎日共に軽食を取る中で気心も知れ、授業さえ終わってしまえば気の抜けるお気楽な会合でもあった。

と言っても食べ方一つとっても妃として食べる様に言われめんどくさいことではあったけど。

 

「ふむ。そうですね。囮として何件かもう役に立っていただいてますし、一度宿下がりとして休暇を取っていただいても構わないと思います。まぁ、一応妃なので、陛下の決済が必要ですが、問題ないでしょう。その間、紅珠様に来ていただけば、氾の顔も立つでしょうしね。」

 

居ない間に紅珠様が陛下をご訪問される・・・。

 

震える両手を握りしめて言った。

 

「ありがとうございます!休暇楽しみです!」

 

 

 

 

***************** 

 

 

 

つづく 

 

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柔らかく優しく甘く⑥

そして、こちらも!!

酷い陛下ですねぇ。

いっつも酷い陛下書いてますが、私、陛下大好きですから~(#^^#)←大事

 

では、いってらっしゃいませ!

 

 

 

******************* 

 

 

 

 

「妃よ、今戻った。」

 

女官の先導も、先触れもないままに陛下は夕鈴の居室に現れた。

 

夕刻、様子を見に来てくれた紅珠様とのお茶会をそろそろお開きにしようと思った時に四阿にやってきた陛下。

その陛下の紅珠様への接し方を見て、自分の心が陛下に囚われつつあることに気が付き、二人の様子を見ることが出来ずに逃げるように自分の部屋に帰ってきた。

あの時間から紅珠様と過ごされるのであれば今日はいらっしゃらないだろう。

その方が此方にとっても都合が良い、と夕餉も取らず早々に寝台に潜り込もうとしていた時・・・。

 

陛下はいつものようにやって来た。

いつものように、と言うには早い時間に。

 

「あ、も、申し訳ございません。出迎えが遅れまして・・・。お、帰り、なさい、ま、せ・・・。」

「ああ。夕餉も取らずに早々に休むからと侍女たちも下げてしまったと聞いたのでな。大事ないか?」

「は、い。御心配をおかけして申し訳ございません。少し疲れが出た気がしたので早めに休ませていただこうと・・・。陛下は遅くまで御政務に励まれていらっしゃるのに申し訳ないとは思ったのですが。」

 

後から追いついてき侍女さんたちの手前、偽りの夫婦演技をしなければならない自分の立場が辛かった。

それを知ってか知らずか陛下はいつも通り甘く囁いてくる。

 

「いや、気を遣うな。君を毎日疲れさせているのは私だからな。その分私は日々癒されている。」

 

なんてことをこの人はサラッと言ってくるのだろう。

いくら私が色恋に疎いとはいえ、房事を仄めかしていることぐらいはわかる。

現に顔を伏せて控えている侍女さんたちの頬が私に負けない位赤く染まっている。

 

「陛下のお役に立てているのでしたらこの疲れも嬉しいものですわ。」

 

日々の甘い言葉攻めで実際疲弊しているので嘘ではない。役に立って嬉しいのは陛下の為ではなく、あの愛らしく微笑む紅珠様の為だけど。

 

とそこまで考えて、ツキンと胸が少し痛んだ。

紅珠様の役に立ちたい。

青慎の為に高給であるこのバイトをすることに異議はない。

けれど・・・。

この幻に囚われそうになっている自分が辛い。

さっき、逃げるようにして四阿を去った後、遠くの回廊から二人が過ごしている方を眺めていた。

遠くからだったから、二人の表情は見えなかったけど。

そこから醸し出される雰囲気は紛れもなく王と王妃のそれだった。

高貴な者だけが持つ煌びやかで尊い、目には見えないもの。

2人が並んだ時にまざまざと見せつけられたそれに、そんな権利もないのに傷ついている自分がいた。

 

物思いに耽って俯いていると、陛下の足元が傍まで近づいていることに気が付いた。

と同時に手首を握られもう片方の手で腰を引き寄せられ腕の中に閉じ込められた。

訳が分からず目をまわしていると顎に指が添えられ上を向かせられる。

顔を見てはいけないと反射的に目をギュッとつぶると大きな溜息が聞こえた。

何かものものすごく怒らせてしまっている気がして怖くて身体が自然に震える。

離して欲しいのに、いつまでたっても顎を捕えたまま吐息のかかる距離に陛下がいることが感じられ、目を開けることも出来ずに腕に閉じ込められたまま固まってしまった。

 

「私は妃の瞳が見たいのだが・・・。」

 

いつもは私の視界になるべく顔が入らないよう考えてくれるようだったのに、その時は違っていた。

いつまでたっても話してくれず、食い入るような視線が外れる様子もない。

 

「わ、私には恐れ多くて・・・。陛下のこの温もりだけで十分でございます。」

「ほう・・・。そうか。では、もっと私を欲しがってもらえるよう頑張らねばなるまい。」

 

背筋がゾクっとするようなことを耳元で囁かれたと思った瞬間、腰をぐっと引き寄せられ、唇を生暖かく柔らかいものが覆った。

 

な、に・・・?

 

考える間もなく、その温もりは離れてはまた与えられ、また離れてはついばむように触れてくる。

 

ちょ、ちょっと、待って・・・。

まさか・・・。

 

自分の思考に心が付いていかず、苦しくて口を開けると生温かいものが隙間から入ってきて咥内を余すところなく蹂躙していく。

縦横無尽に腔内を貪ると夕鈴の舌に絡みついてきて吸い付かれる。

やっとのことで震える腕で胸を押し返すも彼の人にとってはなんの抵抗にも感じないようで咥内での動きが止むことも、後頭部を抑える手を緩めることもない。

その間にも歯列をなぞられ唇を啄まれ抵抗する意識をも奪われていく。

 

そのまま夕鈴の意識は闇に沈んだ_____。

 

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

気が付いたとき、夕鈴は後宮に与えられた自室の寝台の上だった。

窓から外を見やると空が白みかけていることに気が付き、早朝なのだろうと思った。

 

いつ寝たんだろう?記憶が曖昧だ。

眠り過ぎたのかなんだか身体が怠い。

 

昨日は確か紅珠様とお茶会をして・・・、そう、陛下がいらっしゃって。

ふふ、わたしったら、しても仕方のない嫉妬をしてしまったんだわ。

それで居た堪れなくて逃げて、早めに寝ようと・・・。

寝ようと・・・?

 

_____はっ!!!

 

お、思い出した!

寝ようとしたら陛下が来て、それで、なんだかわかんないけど・・・。

わかんないけど!!

多分、く、口付けされた・・・のよね?

何で?

えーっと、確か瞳が見たいとか言って。

じゃあ、あれは顔を見ない私への嫌がらせ?

口付けすれば驚いて目を開けるんじゃないかって?

はぁ?どういう事よ。

いくら王様だからって人の初めての口付けを奪うなんて許せない!!

ムカつく!酷い!!

 

でも、老師が言う後宮ってところはそういう所、なのよね?

陛下は王様で、王様が妃に何をしようが、寵を与えようが、たとえ見向きもしなかろうが、誰も何も文句は言えなくて。

王様が言う事が全てで、皆は寵を得るために必死になる。

私は偽物だから、それに当てはまらないけど。

私がこのことに関して文句を言うのはきっと良くないんじゃないか。

第一、目を閉じていて見ていないから想像の域を出ないし。

途中で気を失ったのか目を覚ましたのは寝台の上で一人きりだった。

って、途中って?途中って?何の?

 

もう、いや~~~~~!!!!!

 

か、考えるのは止めよう。

きっと気のせいだ。

あれは口付けなんてものではなく、きっとからかって何かを唇に当てたんだ。

口の中に入ってきたのも、きっと指かなんかに違いない。

そうだ。

庶民の子娘なんかに王様が口付けするわけはない。

大体、老師が言っていた。

王族は余程信頼していない限り、口付けはしないって。

毒を盛られたり、舌を噛み切られたらいけないからって。

わ、忘れよう。

忘れなきゃ演技なんてできそうにもない。

それにあの人は私が好きになってもいい人じゃない。

何があっても、何を言われても、何をされても。

兎に角心を奪われてはいけない相手だ。

それに紅珠様だって・・・いるもの。

いずれ正妃として此処に来られるあの可愛らしいお姫様。

彼女の為の囮である自分。

 

私は偽物。

陛下の言葉も態度も温もりも、全ては幻。

 

夜がすっかり明けるまで、自分に何度も言い聞かせた。

頬に流れ落ちる雫には気が付かない振りをして・・・。

 

 

 

 

 

***************** 

 

 

切ないよ・・・(>_<)

 

 

(SS)除夜の鐘に想う

こんばんは!

まんまるこです!!

実は去年、某国で年末SSを書いてまして。

 

せっかくなので持ってきました!

せっかくなので路地裏付きのロングバージョンです!!←オイッ

 

今年はブログをはじめて、上京してまでの初めてのオフ会参加! 

とても楽しい一年でした。

まぁ、辛いこともありましたが、いつも仲良くしてくれる方々に沢山お話を聞いてもらって、励ましてもらって、本当に友達って大切!って思いました!

 

心当たりのあるそこの皆さま!

今後とも、まんまるこ、書けよ、おいっ!っと叱咤激励をよろしくお願いします。

そして、交流はないけれども、こちらを訪れてくださる方々!

こんな気まぐれブログに来てくれて、本当にありがとうございます!!

来年はもう少し頑張りたいと思います!!

皆様の足跡にとても元気づけられています(●^o^●)

 

では、お話の方・・・

いってらっしゃいませ!

 

 

【本誌沿い】

【本物夫婦】

【最後に路地裏への扉を設置】←R18です若いお嬢様は回れ右ですわよ。

 

 

 

****************** 

 

 

 

 

 

 

ふと目が覚めた____。

 

常夜灯のおかげでどうにか自室にいることがわかる。

シンと冷えた空気に、夢で見た光景がよみがえる。

隣にあったはずの温もりが冷えて、さぁっと血の気が引く音がする。

鼓動が早くなって、息が苦しくなって、目がチカチカしてきた。

苦しい、辛い、寂しい・・・。

負の感情が全てを支配して、闇に飲み込まれる。

 

____ごーん・・・。

 

少し遠くから響いてきた鐘の音にぎゅうっとなった心臓が命をふきかえした。

 

そうだった____。

 

陛下は除夜の鐘の最後の一打を打つ為に1人向かわれたことを思い出す。

 

「ごめんね。これは正妃以外の妃とは出来なくて・・・。」

 

そう言って本当に申し訳なさそうに何度も謝る陛下の背を押したのは数刻前。

本物の妃になって、陛下は以前よりも色々な事を隠さずに教えてくれていると思う。

その一つがどれだけあるのか分からないほど沢山の行事だ。

偽物だった時は殆ど声を掛けられなかったのだというくらいに多い。

その中でも、私が陛下と共に行えるのはほんの一握りで、殆どは御正妃様の仕事らしかった。

正妃不在の場合はその時の王が指名する妃でも良い、とされる簡素な物だけだ。

本物の夫婦になって寝食を共にするようになってから、陛下は包み隠さずに一日の予定を教えてくれる。

変な誤解をされて、家出されたら今度は生きていられないと思うから、なんて良く分からないことを言いながら。

でも、正妃でなければ参加できない行事の時は、今日の様に何度も謝って来るから、正直困ってしまうのだ。

 

寂しいことは寂しい。

いつか来るだろう御正妃様の影に背筋がゾクっとすることも一度や二度じゃない。

けれども、何より気になるのは陛下に謝らせてしまっている自分自身だ。

正妃になれないのは私の問題であって陛下のせいじゃない。

私にはまだまだ足りないことが沢山あることもわかっている。

納得して、覚悟してここに居るのに、優しあの人はいつもごめんねって言ってくれる。

嬉しいけど、甘えたいけど、私は陛下の味方でいたいのであって、陛下の与えてくれる物に浸かってぼけーっと過ごしたいわけではないのだ。

 

昔の記憶に囚われてる場合じゃないわ!

 

そう思い直し、寝台の上で握り拳を振り上げた時だった____。

 

「夕鈴、まだ起きていたの?」

 

優しい声が暗闇の向こうから降って来た。

 

「っ!へ、陛下!お帰りなさいませ!」

「うん、ただいま!どうしたの?先に寝ててって言ったのに。」

「いえ、今さっき起きちゃったんです。偶然陛下をお迎え出来て良かった。」

 

そう言って寝台から下りようとしたら、陛下が大股で歩いて来て、ギュッと強く抱きしめられた。

抱き締めてきた腕から冷えた空気が伝わって来て、外が相当寒かったことに気が付く。

 

「陛下、すんごく冷たいですよ?お茶でも入れましょうか?」

 

そう言ったのに、陛下は私を抱きしめたまま黙って首を左右に振るだけで。

だから、私も少しでも温まるといいと思って背中に手を回す。

 

「陛下、お疲れ様でした。除夜の鐘の音、ここまで聞こえましたよ。心が澄んでいくような、不思議な感覚ですね。」

「ああ、そうだな。だが、煩悩とはそう簡単に無くなる物ではない。」

「・・・そりゃまぁ、そうかもしれませんけど。108個は流石に無いでしょう?」

「・・・。」

「・・・え?陛下?」

「・・・ある。」

「ええ!陛下108個もあるんですか?」

「あるにはある。」

「ええ~。凄いですね。もしお疲れじゃなければ教えてください。」

「夕鈴眠いんじゃないの?」

「いいえ!さっきまで寝てましたから。変な時間に起きてしまって逆に目が冴えてしまいましたよ。」

「そう?じゃあ話すけど。夕鈴煩悩をなくすために協力してくれる?」

「私が、ですか?」

「うん!夕鈴じゃないと恥ずかしくて無理だよ。駄目?」

 

寝起きに子犬はやめて欲しい。

さっきまで暗い感情に支配されていたから尚更心の柔らかい場所に踏み込まれてしまう。

 

「駄目じゃありません!協力します。」

「そう?じゃあ言うね。」

 

そう言って笑った陛下の瞳はいつもよりも紅く光り輝いていたのだが、抱きしめられていた夕鈴は気が付かなかった。

それよりも、言うために寝台に向かい合わせに座った陛下の熱が離れたことの方に気を取られていた。

 

 

 

 

 

 

 

「では、どうぞ?」

 

寝台の上で背筋を伸ばし真剣な眼差しで促す夕鈴を黎翔は内心かかったとほくそ笑んでいた。

 

「じゃあ、まず一つ目ね。たまには夕鈴から抱きしめられたい。」

「え?ええ?そ、それは・・・」

「駄目?」

 

夕鈴が弱いと知っている子犬を強調してお強請りしてみる。

あと107個もあるんだから、最初が肝心だ。

目線を右往左往させて本当に可愛いし、今すぐに齧りつきたいが、ここは我慢だ。

 

「だ、駄目じゃない・・・です。」

 

そう言うとすっと近づいて来てぎゅうっと抱き付いてきた。

ああ、可愛い。温かい。

夕鈴の匂いに理性がグラつくがやっぱり我慢だ。

 

「ふふ。ありがとう。嬉しいな。じゃあ二つ目ね。二つ目は、たまには夕鈴におでこにちゅうされたいな。」

「へ?また私ですか?な、な、な、なんで?」

「なんで?って僕の煩悩なんて夕鈴のこと以外ないに決まってるでしょう?君の事ならば際限があるわけもない。」

「いや、あの、意味が良く・・・?」

「で、してくれる?」

「え?でも、これは、その。」

「約束、したよね?夕鈴約束破るの?」

 

殊更『約束』を強調する。

実直がモットーの彼女ならばここまで言われたらできないとは言わないと分かっていて。

 

「や、や、や、やりますよ!やりますとも!!やり遂げて見せます!!」

 

鼻息荒くそう宣言する様はちっとも艶っぽくなんかないけど、それもまた可愛いんだから仕方ない。

大体艶めかしくするのは僕の仕事で、僕の前だけでいい。

理性が飛んでとろんとした瞳で僕を見つめる夕鈴を想像しただけである場所がドクンと熱を持つ。

 

ちゅっ____。

 

そんなことを考えている間に夕鈴が近づいて来て、口付けられた。

ああ、そんなに真っ赤に染まって、全身が桃色で僕を誘っていることを知らない。

 

「次行きましょう!次!!」

「三つめは、夕鈴に瞼に口付けられたい。」

「いいですよ!口付けならどんな場所でもどんとこいです!」

 

胸をドンと叩いて肩に手をのせて近付いてくるから瞳を閉じて待ち受ける。

瞼の裏には夕鈴の痴態が色鮮やかに浮かび上がって辛い。

彼女は今言った言葉が後でどうなるか分かってないのだろう。

伝えた時の驚きの表情と、それをして貰った時の快感を想像するとイキそうだ。

 

「四つ目は鼻で、五つ目は頬ね?」

「はい!」

 

ちゅっ、ちゅっ____。

 

慣れて来たのか連続で頼んでもすんなりしてくれた。

こうして麻痺させているのに気が付かない所が本当に可愛くて仕方ない。

でも危なっかしくてほっておけない。

 

「六つ目は・・・口。」

「く、く、く、・・・。はい・・・。」

 

桃色だった肌を更に紅くして、震えながら近づいてくる可愛らしい唇に、噛みつきたいのを堪えて待った。

 

 

 

 

**************** 

 

 

続きはこちら! → 

 

 

 

柔らかく優しく甘く⑤

二人が一緒の場面を早く書きたくて、むきになって続きを書いていたのを思い出しました(#^^#)

 

あ、注意書きに書いたかな?

 

もちろんハッピーエンドですから!!←今更

 

さぁ!殿も回復したので仕事だ~((+_+))

 

今日も一日がんばりましょう!!(●^o^●)

 

 

 

 

 

*************** 

 

 

 

それからの日々はめまぐるしく過ぎていった。

 

日中は李順様のお妃教育があった。

所作は仕方ないとして、貴族と庶民では礼儀作法一つとっても違いがあるらしく、学の無さにため息をつきながらも根気強く教えてくださった。

眼鏡が光るととても怖い人だったが、思ったことをズバズバ言ってくるのでかえって気持ちいいくらいだった。

恐ろしく細かく、貴族の子女の高スキルを何故身に付けているのかは疑問だけど。

 

老師はというと、後宮の歴史とか在り方とか、陛下にとってのお妃様の位置づけとか。

まぁ兎に角、後宮の話で知らないことはないんだそうだ。

李順様に許可を貰い掃除をしていると必ずやって来て、そんな事よりも陛下を癒して差し上げろ、とか、どうやって誘惑するか、とか、おおよそ李順様が聞いたらメデューサ化しそうなことばかりを声高に叫んで邪魔をしてきた。

でも、私が偽物だとわかっている分軽口が叩ける相手だったので気が楽と言えば楽だった。

 

隠密だという大ちゃんは、囮である私の護衛らしかった。

紅珠様の為とはいえ、大切な民の命を危険にさらすわけにはいかないと、陛下直々の命だそうだ。

陛下の陰で暗躍する優秀な隠密さんらしい。本人が言うには・・・。

いつもニコニコ笑顔で私にいろいろと老師同様構ってくるけど、既に何度かお茶や食事に盛られていた毒を見つけて守ってくれたから、見た目とは違って本当に優秀なんだろうと思う。

 

こんな庶民にもちゃんと気を配って下さって、やっぱり狼陛下は怖いだけではなく、民思いの素晴らしい王様なんだなと少しほっとした。

かと言って陛下の顔を見ることは相変わらず怖くて・・・。

 

休憩を共にと四阿に呼ばれてもずっと口元を見て過ごした。

優しく囁かれる甘い言葉も、肩を寄せられた時の温もりも、全て仮初めの物ならば、顔を見ない方が逆に情もわかなくていい気がした。

 

陛下の方は、おそらく私が顔を見ていないことは気が付いているようだったけど、特に咎めるような事もなく。

寧ろ上手に私の視界に入らないですむように振る舞ってくれているようだった。

俯けば「初々しいことだ。」と甘く囁き、顔を背けると「君の見るもの全ては私であって欲しいものだ。」と腕の中に閉じ込められた。

 

一体どんな育ち方をしたらこんなに妃を甘やかすことが出来るようになるのかと感心する。

陛下の口で紡がれる妃への甘言は下町で耳にするそれのどれとも違っていて。

どこまでも甘く、底なしに紡がれる。

 

仕事だからと気を引き締めなければ、引きずり込まれて溺れてしまいそうだった。

 

そんな私の心中を知ってか知らずか、ほぼ毎日行われる妃教育の時間の中。

李順様は事あるごとに釘を刺してきた。

 

勘違いはするな、と。

 

あくまで演技のうちであること、を。

 

そして後宮のあちらこちらを掃除しながら、綺麗になっていく様を喜ぶ自分に気が付いてまた思う。

 

庶民丸出しの自分が何を想うと言うのだろう、と。

 

気を抜けば底なしの温かい泥沼に沈みこみそうな自分を見て見ぬ振りをした。

 

そうやって日々をどうにかやり過ごす中で少しずつ関係も変わってきて。

いつからか、陛下と共に過ごすときは侍女ではなく私がお茶を入れることが当たり前になった。

と言うのも、お茶に毒が入っていたことがあったため、侍女任せにせず自分で入れた方が安全だろうと言う李順様のお考えからだったのだけど。

宮中流のお茶の入れ方、作法から、お茶の種類、選び方、果ては毒が混入されているかどうかの確認の仕方まで、さすが李順様だわと感心せずにはいられない位、指導は細かく多岐にわたった。

自宅で適当に沸かしたお湯を入れ蒸らす時間も適当に飲んでいた時とは雲泥の差の事で、色々大変なんですねぇ、と言うと、これが普通です。と冷たく言われて冷や汗をかいた。

そんなこんなで、私がお茶を自分で入れていると聞きつけた陛下が、いちゃいちゃ演技の一環として妃の入れたお茶でなければ飲みたくない、などと言いだし今に至っていた。

美味しく入れられた時はお褒めの言葉と共に謝辞までいただくこともあった。

王様にお礼を言われるのも変な感じがして一度お断りをしたのだけど、やってもらったことが嬉しかったらお礼を言うのは当然だと言われ、それ以来、お言葉を頂くことにした。

 

お茶を飲んだ後一瞬だけど、雰囲気が和らぐのが嬉しいことは内緒にしておいた。

近くに居て感じたけど、朝早く後宮から出て行って、夜遅くにしか帰ってこない。

帰って来ても妃の部屋でずっと書簡と睨めっこをしていて雰囲気が和らぐことがない。

狼だからと言われてしまえばそれまでだったけど、ずっとこうなのかと思うとなんだか可哀想にも思えた。

私は仮初めで、本物ではないけれど、いつかこの人を癒してくれる人が来るといい。

いや、紅珠様が早く安心して此処に来れたらいいと思う。

此処が、陛下が気を抜くことが出来る場所になれるようお手伝いが出来ればと思う。

その為にも囮であることを頑張って、早く紅珠様を迎えられるようにしなければ。

 

胸の中にある小さな痛みに気が付かない振りをして決意を新たに日々を過ごした。

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

「夕鈴!お久しぶりですわ!お元気にしてますの?」

 

こっちへ来て2週間ほどたった頃、紅珠様が『お妃様へのご機嫌伺い』と称して様子を見に来て下さった。

 

「はい!紅珠様!とても良くしていただいています。ご飯もとんでもなく美味しくて、まあいつも冷たいのは仕方ないんですが、お菓子も見たことのないものばかりですし、作ってみたくてうずうずしてしまいます。」

「ふふ、夕鈴はお料理上手ですものね。私も夕鈴のお料理が食べれなくなって寂しいですわ。」

「そんな、嬉しいお言葉を言っていただけて光栄です。でも、此方に居る間に腕が落ちないか心配なんです。お掃除だけはさせていただいてるのですが・・・。」

「え?お掃除されてるんですの?」

「はい。後宮は今まで使われていなかったせいか結構埃が溜まっているようだったので、李順様に頼んで時間のある時にさせていただいてるんです。」

「ふふ、夕鈴らしいわね。それで綺麗になって?」

「はい!とっても!って自分で言うのもなんですが。綺麗な装飾がされた机や棚なんか、もうぴっかぴかで気持ちいいです。紅珠様がいついらしても大丈夫なように頑張りますね!」

「ありがとう。頑張ってね、夕鈴。」

「任せてください!」

 

2人目を合わせて笑いあう。

やっぱり紅珠様はとても可愛らしいお方だなぁと思う。

陛下の御顔は見れてないけど、きっとお似合いの二人なんだろう。

 

久しぶりに見る彼女の愛らしい姿に癒されると同時に、自分の事を知っている女の子との気兼ねしなくてもいい会話が嬉しくて、気が付くと時間が随分と過ぎていた。

 

「紅珠様、そろそろ日も落ちてまいりましたし風も冷たくなってきました。」

「そうね、とても楽しかったけど、そろそろお暇しなければ。」

「ではお送りいたします。」

 

そう言って立ち上がった瞬間だった。

向かい合った紅珠様の目が見開かれ一点に注がれた。

一瞬にして瞳が潤みだし、頬が赤く染まったのが分かる。

両手は胸の前で握りしめられ、口元は何か言いたげにわずかに開いた。

背後からざっざっと聞きなれた足音が近づいてくる。

背中の方からすっと手が伸びて来て、反射的に目を閉じた。

 

「~~~~~~、?」

 

何も起きない・・・

そっと目を開けると、伸びてきた手は紅珠様の頬に優しく触れていた。

 

「久しぶりだな、紅珠。今日来るとは聞いていたが、時間が合わないから会えないと思っていた。随分話が盛り上がったようだな。」

「はい。夕鈴と久しぶりでしたので、色々お話することがあって、つい長居してしまいましたの。」

「ふっ、おかげで会うことが出来たのだな。夕鈴、礼を言うぞ。」

「あ、ありが、とうございます・・・。」

 

お礼を言われることでもない。

ただ紅珠様と過ごす時間が楽しかっただけで、決して陛下の為ではなかった。

そんな私の憂い気持ちなど関係ないように会話は続いていた。

 

「もう帰るのか?」

「そのつもりでしたが・・・。」

「せっかく会えたのだから、少し私に時間をくれぬか?」

「こ、紅珠様!私お茶をお入れさせていただきます。是非陛下と共に過ごされてください。」

「そう?折角だしそうしようかしら?黎翔様、お時間頂いてよろしいですか?」

「構わぬが、なんだ。彼女が勧めたから私と共に過ごす気になったのか?妬けるな。」

「ち、違います!そんな事あるわけないではないですか。私だって黎翔様と一緒に居たいです。」

 

居た堪れない____。

 

声色も甘ければ言っていることも甘い。

勿論態度も甘々だ。

私が陛下と演技をしている時、きっと侍女さんや近くにいる官吏の方々もこんな気持ちなのかもしれない。

 

いや、違う・・・。

 

きっとそれとは違う。

 

さっき、陛下の手が伸びてきたとき、私は完全に自分があの腕に囚われるか触れられるものだと思ってしまった。

それが当たり前になってしまっていたのだと、とっさにそう勘違いしてしまうほど陛下に慣らされてしまっている。

しかも仕事とはいえ自分はそれを甘受してしまっていた。

あの柔らかく優しく甘い檻に囚われることが当たり前になってしまっていた。

そこが自分の為の場所ではないとわかっていたはずなのに。

溺れないように気を付けていたはずだったのに、既に囚われていることに気が付いてしまった。

 

そう。これは嫉妬だ。

 

恥ずかしい。

顔も見たことのない相手に。

決して恋をしてはいけない相手に。

なのに言葉と温もりに囚われてしまった。

 

「そ、それでは、私は下がらせていただきますのでごゆっくりお過ごしくださいませ!」

 

お茶を入れるとすぐ逃げるように自室へ向かった。

何か後ろで紅珠様が言ったようだったが聞こえないふりをして一目散に逃げた。

 

兎に角、本物の夫婦になるであろう二人の幸せな空間に居ることが溜まらなかった。

 

 

 

 

**************

 

 

 

つづく

柔らかく優しく甘く④

おはようございます!

 

自分が先を読みたくなっちゃって・・・←おいっ

続きを持ってきました。

 

年末の大掃除の合間の息抜きにでも読んで頂けたら嬉しいです!

 

では、続きです~。 

 

 

 

 

 

***************

 

 

右を向いても左を向いても見たこともないような豪華で繊細な装飾が施された回廊。

確かに豪華だけれどあまり手入れがされていないようにも見え、夕鈴は李順の後ろを歩きながらも主婦魂がうずうずとして落ち着かなかった。

 

「夕鈴殿、お入りなさい。」

 

陛下の側近という李順様に連れられて来た後宮と思われる場所の一室に入ると人影があった。

 

「こちらが貴女が妃として過ごすことを知っている者たちになります。何かある際はこの2人をまず探しなさい。」

「はい。えっと~。」

「こちらのちんちくりんなおじいさんが後宮管理人の張元老師、あっちの窓際に居る者は陛下の隠密の浩大です。」

「あ、管理人さんと隠密さん、ですか。あの、私は汀夕鈴と申します。どうぞよろしくお願いします。」

「なんじゃい!折角偽物といっても妃が来ると言うから楽しみにしとったのに、色恋も知らなさそうな生娘ではないか!もう少し陛下をその気にさせるような妖艶な女子はおらんのか!」

「その気になられては困ります。あくまでも臨時花嫁です。あなたも老師の口車に乗せられないよう、重々気を付けてくださいよ。・・・っふ、と言っても、貴女なら心配する必要もなさそうで良かったですが。」

 

何気に酷いことをさらっと言われた気がする。

そりゃあ嫁ぎ遅れだけど酷い!

まぁ、あの狼陛下に食べられたら怖いから陛下の趣味じゃないなら一安心かもしれないけど。

 

「李順さん、それひっどくねぇ。陛下の趣味もわかんねぇよ。なぁ、りんりんちゃん!気にすんなよ!」

「り、りんりんちゃん?」

「うん!オレ大ちゃんね!陛下の優秀な隠密。よろしくな!」

「はぁ。よろしくお願いします。だ、いちゃん?」

「お!そうそう、大ちゃんね。あっちの老師はじっちゃん、でいいよね。」

「駄目じゃ!仮でも妃ならば老師と呼んでもらおうか。」

「えと、では、老師、と大ちゃん、よろしくお願いします。」

「おう!よろしくな!」

「少しはお色気を纏えるよう頑張るのじゃな。」

「だからそんな仕事じゃありません!!第一、怖くて顔も見てないし、演技だって言われても、できるかわかりませんよ。」

「顔?見てないの?」

「先程ご挨拶の時に拝顔されたのではないのですか?」

 

6つの目が夕鈴に注がれた。

どの目にも疑問の色が浮かんでいる。

 

「いえ、あの・・・。」

「はっきり仰い!!」

「は、はい~~~。あの、その、怖くて、ちゃんと見れなくてですね。その~。」

 

眼鏡の側近さんが睨んできて怖すぎてうまくしゃべれない~。

 

「まぁ、まぁ、李順サン、そんなに睨んだら話せないでしょ?りんりんちゃん、ゆっくりでいいよ。」

「は、はい!あの、それで、顔を拝見することは恐れ多かったので、口元を見ていました。」

「ああ、そういう事ですか。わかりました。別にお顔を見ずとも演技に支障は御座いませんでしょう。それで構いませんよ。」

「っ、あ、ありがとうございます!がんばってみます!」

「頑張ってみる、じゃありません。頑張ります!が正しいです。」

「はぁ、頑張ります・・・。」

「よろしい!それでは、後宮の事は老師に訪ねてください。私は政務に戻らせていただきますので。では老師、頼みましたよ。」

「おお、任せておけ。まずは房中術から・・・。」

「・・・老師?」

 

いくら釘を刺そうとも懲りることのない老師を李順は眼鏡を光らせて睨み付けた。

 

「う、うむ。わかっておる!冗談じゃ。」

「あ、ちょっと待ってください!李順様!!」

「なんです?仮にも妃なのですから、もう少しお淑やかに話していただきたいものですね。」

「それは、・・・済みません。それでですね、ここはお掃除とかはどうされているのですか?」

「どう、と申しますと?」

「こちらまでくる間、素晴らしい装飾が施された回廊を通ってきましたが、ちょっと、あの、なんて言うか・・・。」

「・・・貴女は私が先ほど言ったことをもうお忘れですか?その頭は飾りですか?」

「っ、す、すみません。」

「わかったらよろしい。仰い。」

「はい!失礼かとは思ったのですが、手入れが行き届いてないように感じました。」

「・・・で?」

「ですから、あの、その・・・。」

 

ひぃっ!怖い~。睨まないで~。

ちゃんと話すから!!

 

「ふぅ。あの!掃除!お掃除させてください!!」

「はぁ?」

「いつまでこのお仕事をしているかはわかりませんが、いずれ私は元の場所に戻る身です。得意な家事を生かして仕事をしていましたし、腕が鈍ると市井に戻った時に食いっぱぐれるかもしれません。なので、時間の調整ができるのでしたら、是非!是非!お掃除をさせていただきたいと思いまして。」

「ああ、そういう事ですか。・・・そうですね。それはいいかもしれません。考えておきます。」

「ありがとうございます!!」

「では、兎に角お妃仕事をまずは頑張るように。良いですね?」

「は、はい~~~。」

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

「お妃様、陛下のお越しです。」

「え?は、はい!」

 

眠る準備をしていると私付きだと紹介された侍女から先触れがもたらされた。

確かに妃かもしれないけど、夜着を着ただけの姿を結婚前に殿方に見せるなんて恥ずかしすぎる。

しかも相手は仮初めの夫で、その上この国の王様だ。

みっともなくて御前に立てる気がしない。

 

「妃よ。今戻った。何も困ったことはなかったか?」

 

色々思案していると、陛下が入ってきた。

唖然として何もいう事が出来ずにただ俯いて立ち尽くしていると陛下が此方に近づいてくるのが分かる。

逃げ出したい!

ただその一心だった。

 

フワッ。

 

何か温かいものに包まれた。

とてもいい匂い、柔らかくて優しくて、それから甘い。

 

目を瞑っていい香りに身を任せていると頭上から声がした。

 

「もう下がって良い。二人きりにせよ。」

 

驚いて目を開けると飛び込んできたのは誰かの衣で。

いい香りだと思っていたのはその人物の匂いだった。

 

後宮で、仮でも妃を抱きしめる腕を持ち、侍女を下げることができる人物は、私が知る限り只一人しかいない。

 

状況に気が付き腕の中から逃げ出そうとあたふたするも、なぜか陛下がぎゅうぎゅうと抱きしめて来て、動けば動くほど拘束する力が強くなっていく。

抜け出すことを諦めかけた時、ふっと腕の力が弱まり拘束から抜け出せた。

 

「君は・・・私の妃であろう?」

 

冷たい声色で問われ、脚が震える。

涙が零れ落ちそうで、唇を強く噛み締めた。

 

「は、い・・・。」

「囮だと言ったはず。君は私の寵愛を受ける妃だ。わかるか?」

「・・・い、いえ。」

 

明らかに身に纏う雰囲気が変化した。

察しの悪い私に苛立ったのだろう。

一般庶民には王族の事など分かりませんよと言ってやりたいのは山々だったけど、恐ろしさにうまく喋ることもできそうにない。

 

「ふぅ。つまり、私の愛情表現をただ受け入れるふりをすればよいのだ。今の様に逃げ出すような素振りは許さぬ。」

「・・・。」

「わかったか?」

「は、い。申し訳、御座いませんでした。」

「仲の良い振りをしなければ囮には成らぬ。見た限り、そういう事には不慣れであろうが・・・。励め。」

「は、い。」

「寵愛を見せつけるために、時間のある時は此方へ来る。と言っても、案ずることはない。私も忙しい身だ。此方では政務をするだけだ。君も好きにするが良い。」

「わかりました。ではあの、寝所の方に居ますので、必要な時は呼んでください。失礼いたします。」

 

頭を下げ拱手すると逃げるように寝所に向かった。

 

李順様から妃教育用にと沢山の書簡を持たされていたから、今日はそれを読んで時間をつぶそう。

同じ部屋にさえいなければ何とかなるかもしれない。

兎に角、青慎の為にも、紅珠様の為にも、何としてもこの仕事をやり遂げると決めたのだ。

やると決めたからには狼が怖いなんていつまでも逃げてはいられない。

 

怖くて恐れ多いから顔を見ることは出来ないけれど、抱きしめられた時に感じたあの温もりは本物だと思うから。

偽りの温もりではあるけれど。

 

 

 

 

*****************

 

 

 

つづく

柔らかく優しく甘く③

ということで←どういうこと?

 

こちらも続きを持ってきました!

 

今度こそ寝ます!!

 

皆さまおやすみなさい!

 

 

 

 

****************** 

 

 

 

「陛下、今日は御呼び頂き、心から嬉しゅうございます。」

 

王宮の庭園に設えられた四阿で優雅に礼を取っているのは氾家長姫氾紅珠である。

お嬢様然とした麗しい笑顔で頬を赤く染め上げ、熱に浮かされたかのような瞳を黎翔に向けていた。

日々政務が忙しいことを理由に中々会えないという事にしてある黎翔から、珍しく声が掛かり、嬉しさが溢れ出ているのが遠目にも見て取れるくらいだ。

 

「いや、なに、今日は大切な話があったのでな。急に来てもらってすまない。」

 

普通王と言えば誰かに謝ったり、礼をのべる必要などない。

むしろそうなると王にとって特別な人物であるという事だ。

黎翔にとってはどうでもいい女である紅珠ではあったが、正妃として迎えるだろう姫であることから表立っては大事にしているように見える様他者とは違う対応をしていた。

 

なので、王宮の誰からも陛下の紅珠への対応は寵妃そのものであると受け取られていた。

 

「いえ、本日はお忙しい最中御呼びしていただき、約束通り琴をお聴かせすることができて、本当に嬉しゅうございます。あの、いかがでしたか?」

「ああ、君らしい可愛らしくも美しい音色であったな。これからも度々弾いて私の心を癒してくれ。」

「あ、ありがとうございます・・・。」

 

甘い褒め言葉に顔を赤らめて俯く紅珠を黎翔は甘い笑みを浮かべつつ心は冷静に見つめていた。

 

「して、紅珠。これはいかがした?」

 

黎翔が卓の上に用意されていた皿に目をやった。

 

「あ!これはですね、肉饅頭、と言うのですわ!なんでも庶民の味なんだそうです。」

 

実は内緒でよく下町に下りている黎翔には馴染みのある食べ物ではあったがここでそれを言うわけにもいかない。

 

「ほう、庶民の・・・。しかし、それを何故君が持って来たのだ?」

「御父上の屋敷に伺った時に良い匂いがしていて。分けていただいたらとても美味しかったのですわ。庶民の味でもこんなにおいしいのかって、私感動いたしましたの!それで、黎翔様にも食べていただきたくて家の料理長に作らせたのですけど、何回作っても食べた味には劣るものですから。御父様の屋敷の下女に作らせたのですわ!お兄様もお味見して大丈夫と仰って下さいましたし!是非頂いてくださいませ。」

 

両手を合わせ胸元で握りしめながら早く口にして欲しそうに見つめてくる紅珠がおかしくて、吹き出しそうになるのを堪えながら肉饅頭に手を伸ばし一口齧った。

 

「優しい味だな。」

「そうですよね。彼女の優しさが入っているような、そんなお味ですの。」

「紅珠は、これを作った下女と話をしたことがあるのか?」

「ええ!もちろんですわ!」

「君が?普通接点はなかろう?」

「そうなのですけど・・・。あまり良い匂いでしたものですから、ついお声を掛けてしまったのですわ。それからも見かけるたびに少しずつお話して。下女ですけど、とても可愛らしくて頼れるお姉さんって感じですわ。」

「同性とは言え妬けるな。君に頼られるのはいつでも私であって欲しいものだ。」

「・・・黎翔様。勿論、黎翔様が一番ですわ。」

 

嬉しそうに微笑む紅珠を見ても心のどこにも響かない。

 

____はぁ、安いもんだな、私の言葉も。

____ただ表面だけを整えるために迎える姫に上っ面の言葉を紡いで中身がない。

____全く。この王宮と何ら変わりはしない。

 

そんなことを考えているとは微塵も感じさせないように振る舞うのも当たり前ではある。

が、面倒なことには変わりはなく。

さっさと本題を話すことにした。

 

「実はね、紅珠。父上から聞いていると思うが・・・」

「はい。あの件ですよね。伺っております。」

「それで、今人選を行っているのだが。」

「ええ。私、先ほどお話した下女を御父様に推薦しましたの。」

「・・・下女を、か?」

「はい。彼女なら私、信用も信頼もしております。安心して黎翔様の御側に仕えさせることができますもの。」

「そうか。要らぬ心労をかけるが君を想わない日はない。君が望むならばその娘を迎えよう。」

「よろしいのですか?そうだと安心です。とても可愛らしいんですのよ。ちょっと妬けちゃいますけど。あ!でも、そうですね。もし後宮に入ったとしても、お妃様は私1人というわけではありませんものね・・・。予行練習だと思って私も我慢いたしますわ。」

「頼もしいな。これからもよろしく頼む。」

「はい!」

 

「陛下、そろそろお時間です。」

 

話が終わったところでうまい具合に李順がやってきた。

 

「李順、聞いていたか?」

「はい。そのように。」

「李順様、夕鈴をよろしくお願いしますね。それでは、黎翔様、失礼いたします。」

 

そう言うと紅珠は優雅に礼を取り女官に付き従われ去って行った。

見えなくなるまで何度も何度も振り返り黎翔に目礼しながら。

 

「陛下、紅珠様のおっしゃられる方でよろしいんですか?」

「それで良い。彼女の望む様にさせろ。ただでさえ正妃候補の彼女が入る前に入れるんだ。」

「しかし、全くの庶民の様ですよ。」

「もう調べたのか?」

「ええ。既に氾大臣より打診がありましたから。汀夕鈴。下級役人の娘です。17才という事で、多少嫁ぎ遅れではありますが、実直で真面目な性格、勤務態度も良く、明るい性格で同僚からも好かれているようですね。後・・・。」

「後・・・?」

「官吏を目指している弟がいるそうです。その為に入用だと。」

「ふん。つまり金が必要という事か。都合がいいな。」

「はい。恐らく金につられて引き受けるのではないかと・・・。」

「しかし、金につられてくる娘など後でめんどくさいことになるのではないか?」

「そうなったらなったでいかようにもできましょう?」

「それもそうだな。」

「大体、囮ですよ。命があるかもわかりません。」

「ふっ。お前も大概だな。」

 

目的の為には手段を選ばない、まさに狼陛下とその側近の素顔がそこにあった。

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

うあああああ~~~~~~~。

確かに引き受けるとは言いましたよ!

言ったけど、こんなに怖いとは思わなかったのよ~~~。

 

玉座から見下ろす狼陛下は噂通り、いや、噂以上の威圧感でこちらを凝視している気がする。

頭を垂れているのでよくはわからないけど。

 

「今日から暫く、そうですね。目的が達成されるまで、ですが、陛下の寵妃として後宮で暮らしていただきます。」

「~~~は、い。」

「聞いてらっしゃるんですか!」

「は、はい!!」

 

玉座に座る陛下も怖いけど、さっきから眼鏡を光らせて厳しい言葉を投げてくる陛下の側近さんという方も怖い。

 

「なんで貴女が此処に来たかわかってますよね?」

「は、はい!お嬢様の代わりに、お嬢様に害をなすものを炙り出すための囮です!!」

「よろしい。では陛下に御挨拶なさい。」

「は、はい!拝顔叶いまして光栄でございます。私は汀・・・。」

 

しかし夕鈴が最後まで言う前に黎翔が遮った。

 

「名などよい。呼ぶことはないからな。君はただ私の寵妃である振りをすれば良い。人前で妃の名を呼ぶことはない。よって君の名は知らずともよい。わかったらもう下がれ。」

「~~~~~」

 

何なのよ!

王様だか狼だか知らないけど、挨拶くらいさせなさいってのよ。

こんなんで寵妃とか演じろとか無理っつーの。

 

悔しくて涙が零れそうになる。

青慎の為に少しでもお金を稼ぎたくて、それにいつも庶民の私なんかに優しく接してくださるお嬢様に懇願されたこともあってこの仕事を引き受けたがもう帰りたくなっていた。

 

「では夕鈴殿。貴女が後宮で過ごすにあたっての協力者を紹介しますのでついて来て下さい。」

 

帰りたいけれど、可愛い弟の顔が浮かぶ。

 

貴族ではない者が良い学問所に通い、必要な本等を揃えるのは本当に大変で。

青慎は古書等を使って勉強していた。

どうにかそうやって揃えられたとしても、ぼろぼろになった本はあちらこちら頁が欠けていたり字が薄くなっていたりして。

同じ学問所に通う貴族の子息に頭を下げて書き写させてもらっているようだった。

青慎は言ってはこないが、恐らく嫌味を言われたこともあるだろう。

それでも夕鈴が一生懸命働いてなんとか用足ししていることを知っているので必死になって勉強している可愛い弟。

その弟に、少しでも良い状態の書物を買ってあげたい。

心置きなく勉学に励んでもらいたい。

 

その為にはこの仕事はとても都合が良かった。

そうだ。自分で決めたのだ。

 

狼陛下は本当に怖い。

けれど、陛下のおかげで私のような娘が朝早くから夜暗くなるまで働いても安心して道を歩けるようになった。

食べ物にも贅沢さえしなければ毎日市には新鮮な食糧が並ぶ。

怖いのさえ我慢すれば、陛下は悪い人ではないはずだ。

 

そしてこれはどちらにとっても都合のよい契約だった。

 

「夕鈴殿!聞いてますか!」

「は、はい!今参ります!!」

 

夕鈴は決意も新たに歩みだした。

 

 

 

******************** 

 

 

つづく

(リレーSS)ドS陛下と野兎妃④

皆さま!お久しぶりです!!

放置っぷりも大概ですが、ご訪問感謝いたします。

年度末に向けて我が業界は鬼の忙しさに突入しております。

ついでにメインの業務が決算にかかわるので、正直やばいなぁと思いつつ←思うだけ

 

察しの良い貴方ならばお気づきでしょう!

そう!今日は殿が胃腸炎で仕事を休みました~(●^o^●)←オイッ

ということで、やっと書いたので、アップして寝ます!

 

リレーなのに待たせてしまってすみません!

しかも長い・・・

寝る前の睡眠導入にいかがですか?←チガウ

 

さり奈さん宅の③はこちら!! →  

 

では、行ってらっしゃいませ!

 

【原作寄り】
【陛下がドS】
【捏造いっぱい】
【いずれ甘くなる予定】 

 

 

 

 

その日も王宮政務室はいつも通り、国中から集まってくる陳情や報告の書簡が行き交い、狼陛下の指示のもと、官吏が冷や汗をかきながらも必死にこなしていた。

皆が陛下の指示に瞬時に反応できるよう、常に注意を払う。

陛下の様子を常に伺いながら動くことを要求される官吏達が、その日はしかし、なるべく陛下を気にしないようにしていた。

しかしその実はまた違って、注目をしていないふりをするのに躍起になっていた、というところが真実である。

いつも世話をさせるため近くに侍らせている陛下付きの女官に至っては、この珍事に壁際に立ち尽くし、顔を歪ませたまま身体を震わせていた。

中には啜り泣く声も聞こえる。

 

同じようで同じではない日常。

それは――――

 

「妃よ。」

 

冷たい狼の瞳に色気を漂わせ、熱く見つめるその先に、狼陛下唯一の寵妃(仮)夕鈴がいた。

 

「~~~な、なんでございましょうか、陛下。」

 

耳まで真っ赤に染め上げ、2つに結い上げた髪を震わせながら応える妃はまるで借りてきた兎のようで、知らぬふりを貫いているはずの官吏達の頬も染まる。

 

「折角来てくれたのに、こんな場所ですまぬな。」

「こ、こ、こんな場所とは、皆様が御国のために頑張ってくださっている場所、ということでしょうか?」

 

扇子で顔を隠し、必死に平静を装う夕鈴は黎翔の嗜虐心を擽る。

 

――――ああ、可愛いなぁ。

 

腰が疼くのを我慢して、黎翔はそっと夕鈴の耳元で囁いた。

 

「いや、私の膝の上、という意味だ。」

 

言葉とともに吐息まで吹きかけられて、夕鈴の身体は黎翔の膝の上でピクッと跳ねた。

それでいてぎゅうっと黎翔の胸元を握りしめる手に力を入れしがみつく夕鈴に黎翔の口角が知らず上がる。

 

「それでは落ちてしまう。可愛らしい君に例え一筋だとしても傷が付くのは耐えられない。」

 

そう言うと黎翔はとても美しい笑みを浮かべ夕鈴の腰をぎゅうっと抱き寄せた。

 

「ひゃわわっ。」

 

突然の抱擁に驚き妃らしからぬ声を上げた夕鈴の唇に、黎翔の指がそっと触れた。

 

「君のその愛らしい声は、閨で、私のみに聞かせて欲しい。」

 

『閨で』の部分を殊更強調するようにゆっくりと言葉を紡いだ黎翔は、妃に溺れていると見せつけるに十分な鮮やかな笑みを浮かべた。

只でさえ女性に甘い黎翔ではあったが、妃限定に紡がれる甘言とその熱のこもった視線に、側で控える女官たちは足元から崩れ落ち、官吏たちは前のめりになる。

 

「ああ、お前たち、ずっと立っていては辛かろう。暫し休憩とする。」

 

女官たちの腰が砕けているのに気が付かないかのように労いの言葉を掛けた黎翔に、悔しさをにじませた者たちが、それでも食い下がろうと必死に立ち上がり拱手して進上した。

 

「では、御茶を準備させて――――。」

「それには及ばぬ。私は今後、これの淹れたもののみを口にしたい。」

 

そういうと、黎翔は抱き寄せていた夕鈴が震えているのを確認しながら笑みを浮かべ旋毛に口付けた。

 

「で、ですが、お妃様はお茶など――――。」

「我が妃の淹れる茶は甘露のようだ。妃の全てが甘く私を誘惑する。これ以上私を夢中にさせてどうしようというのか。なぁ、夕鈴。」

 

黎翔は自分の胸に埋もれていた夕鈴の顔を覗き込むと、顎に指をやり上を向かせた。

酷薄な笑みに熱のこもった視線を間近で受け止めた夕鈴は頭から煙を出すと、全身から力を抜いた。

 

「くっくっく。何も言わずとも、君の望みは知っている。私は最愛の妻の望みを叶えられない夫ではない。」

 

黎翔は夕鈴の輝く髪を愛おし気に指で何度も梳くと、一房持ち上げ、そっと唇を寄せた。

 

「お前たちは下がって良い。呼ぶまで戻ってこないように。」

 

常ならば労いの言葉等少しは掛ける黎翔が、妃の髪を弄ぶのに夢中で一瞥すらしないことに女官たちは苛立ちざわめいた。

 

「・・・聞こえなかったか?私は妃と二人きりで過ごしたいのだが?」

 

出自不明の妃をいきなり娶ってからも、黎翔の女官たちへの甘い対応に変化はなかったことに安堵していた女官たちも、今までにない対応に青ざめ、唇を噛み締めながら退室していった。

 

 

 

 

 

「へ、陛下。あんな風に言うことはなかったのではないですか?」

 

二人きりになったことを確認して夕鈴が黎翔に詰め寄る。

 

「ん?じゃあ何か?君はあのままずっと皆の前で私に甘い言葉を囁かれ、口付けられ、熱い視線を送られたかった、と。そう言うのか?」

「そ、そ、そ、それは、その・・・も、無理。」

 

そう言って未だ黎翔の膝の上で青ざめながら耳を真っ赤に染めて俯く夕鈴は美味しそうだ。

 

「私は別に構わないのだが・・・」

 

笑みを浮かべ顔を近づけると、夕鈴は両手を前に出して黎翔の唇から自分を守った。

 

はずだった――――。

 

目を閉じたまま顔を真っ赤にして黎翔を食い止めようとする夕鈴のその姿こそが黎翔の心を打ちぬいていることに気が付かないまま。

 

――――ああ、堪らないな。

 

黎翔はニヤッと笑うと、夕鈴の手首を捕まえてペロッとを舐め上げた。

 

「のわぁ!!」

 

驚いたはずみでバランスを崩した夕鈴が黎翔から落っこちたのを庇うように黎翔も一緒に床に転がる。

 

「くっくっく。君は面白いな。」

「な、な、何がですか!!」

「そんなに私に虐められたいのか?」

「そんなわけないでしょう!!何がどうしたらそうなるんですか?」

 

今まで見たことのない鬼の形相で怒る夕鈴もなんとも魅力的に見えて、意地悪な顔の下でほくそ笑む。

 

「落っこちたついでに茶を淹れてくれ。」

「え?あれ本気だったんですか?」

「ん?ああ。無論だ。」

「でも私・・・」

「李順から習ったのだろう?聞いている。」

「それは、そうですが・・・。まだ及第点しかもらっていないので、陛下にお淹れするのは・・・。」

 

戸惑う夕鈴に黎翔は目線をいったん逸らしたあと、静かに話し出した。

 

「・・・李順からは何も聞いてない?」

「へ?何をですか?」

「女官の淹れる茶について。」

「・・・たまに?毒ではないけれど何か入ってることがあって政務に支障をきたすのでやめて欲しい、とはお聞きいたしましたが???」

「たまに、ね・・・」

 

何故か急に不穏な空気を醸し出した黎翔に夕鈴は不安が募る。

黎翔はいつも二人の時は夕鈴を翻弄し、わざと怒らせるようなことをする、いわゆる悪ガキのようなものだ。

それが、今目の前にいる黎翔は心底弱り切ったように、何か大切なことを伝えるか逡巡しているように感じる。

いつもはドSで俺様な王様が、何故か困っているように感じて、夕鈴はつい言ってしまった。

 

「わ、私で良ければ、お聞かせください!!」

「・・・」

「お給金の分はしっかり働きますとも!!」

「くっ、くっ、くっ。夕鈴は素直だよね。君のそういうところにホッとするんだよね。」

 

そう言って笑った黎翔は、心からの笑みに見えて、夕鈴も初めて力を抜いて自然な笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、言うけど・・・実は、女官たちが淹れるお茶は大抵媚薬が混入している。」

「・・・へ?び、やく?」

「ああ。」

「びやく?」

「媚薬、だ。」

「え?薬?」

「・・・媚薬、知らない?」

「あんまり・・・その、少しだけ下町で聞いたような。でも、その、それって・・・」

 

ぼふんっ!ぼふんっ!!ぼふんっ!!!

 

「ああ、そう、考えているので概ね正解だと思う。」

 

真っ赤に茹で上がった夕鈴を面白そうに見つめた黎翔が笑いながら言う。

 

「そ、そんな、そんなの笑っていることじゃ!!」

「まぁ、幼いころから慣らしているから対して効果はないんだが、たまに、強い催淫作用があることがあってね。困ってるんだ。でも策のためには飲まないわけにもいかないし・・・」

 

心底困ったように苦笑いする黎翔に夕鈴の胸はきゅうっと苦しくなる。

 

確かに夕鈴には意地悪ばかりする困った王様だけど、知ってしまった。

朝は主婦同然に早起きする夕鈴よりも更に早起きして王宮へ向かう日も多いこと。

共に夕餉を取った日でも戻って政務に励んでいることも。

何日も後宮に戻ってこれない日が続くことも。

 

少なくとも、陛下は王様を頑張っている――――。

 

そう思ったら、涙が溢れてきた。

確かに困った人だけど、国のために誰よりも働いて頑張っている。

女ったらしなのはどうかと思うが、それも情報を得るためだと言われれば仕方がないとも思う。

目の前にいるこの人は、王様から逃げ出すことなく、立派に勤め上げているのに。

 

気が付くと夕鈴はぐっと握りこぶしを突き上げていた。

 

「え?」

 

泣いたかと思うと急に勇ましくなった夕鈴に黎翔は珍しく動揺をみせ、床に座ったまま後ずさった。

 

「任せてください!陛下は、そりゃあ困った人だし女ったらしだけど、立派な王様なのに!!私が陛下を守りますから!!」

「へ?」

「陛下の御茶は全て私が淹れます!」

「本当に?」

「ええ!もちろんです!!」

「もしも他の御茶を飲んで媚薬を盛られたら?」

「そ、それは、そんなことは起こり得ませんが、そ、その時は私が責任をもって!最速で陛下を元に戻します!!」

「で、でもそれは・・・」

「戻します!!」

「・・・は、はい。よ、よろしく、ね?」

 

鼻息荒く宣言する夕鈴に気圧され、黎翔は頷くことしかできなかった。

 

様に夕鈴には見えた――――。

 

夕鈴はやっぱりうっかりさんだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

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狼さんが狙った獲物を逃がすわけないものね?( *´艸`)