• 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31

道程6

さくさくっと。

 

 

 

**************

 

 

 

 

お妃様達の入宮の宴が行われた翌日から後宮には様々な花が咲き誇り、とても華やかなものになった。

お妃様達は毎日煌びやかに自身を飾り付け、陛下の気を引こうと素晴らしい装いに身を包んでいる。

それはまるでキラキラピクニックさながらではあったけど、本物のお妃様になったからかその時以上であったし、各生家から連れてきた侍女たちですら飾り立てていた。

陛下の唯一と言われてはいても、元々バイト妃であり質素倹約を常としてきた夕鈴からしてみれば、控えめな装いである自分がとても場違いで、自分付きの侍女に悪いなと思う日々が続いていた。

 

その日々はと言うと、朝は厨房の片隅か老師の部屋でお菓子を作るか、そうでない日は一日中後宮立ち入り禁止区域での掃除に励んでいた。

本物のお妃様達が来たとはいえ歴代の後宮に比べると膨大な部屋がまだまだ余っているのだ。

 

今日も昼餉を済ませて再び立ち入り禁止区域に向かっていた。

 

 

 

 

 

_____あ。

 

夕鈴は久しぶりに陛下を見かけた。場所は王宮にほど近い後宮の四阿だ。

 

_____他のお妃様達が来る前はよく一緒にお茶を飲んだりおしゃべりをして寛いだっけ。

 

つい数日前にも一緒に過ごしていたことを思い出し少し落ち込んだ。

 

_____そっか。そうやって思い出も塗り替えられるんだわ。

_____御正妃様がいらっしゃれば、またその方との思い出が増えるんだわ。

 

 

 

 

 

黎翔も夕鈴に気が付いていた。

視界の端にとらえた彼女はいつもの元気さが見えないようだった。

本当はいつものように近づいて抱き上げ膝の上に誘いたかったが今は目の前に別の妃がいる。

そんな行動をとったら、夕鈴が後でどんな目に合うかと思い伸ばしかけた手を引っ込めた。

せめてと思い目線を合わせようとしたが、夕鈴の方がそれを拒否するかのように顔を伏せ足早に去って行ってしまった。

 

_____ツキン。

 

一瞬胸を刺すような痛みが走ったが、特に長く続いたわけでもなく、毒を飲んだわけでもなさそうだったので、何の痛みか不思議に思いながらも目の前の妃との下らない時間に意識を戻した。

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

 

「バーイットちゃ~ん。」

 

今日も立ち入り禁止区域には能天気な隠密の声が響いた。

 

「ねぇ、浩大。急に現れるのはもういいけど、その能天気な声って隠密としてはどうなのよ?」

「え~、だめ~?」

「いや、ダメっていうか、そんな大声で大丈夫なのかなって。」

「ん、大丈夫だよん。今この辺りには誰もいないぜ。いたら来ねぇな。」

「あ、そう。ならいいんだけど。」

 

____こういう気遣いがバイトちゃんだよね。

 

「あ、今日はね、桃饅頭よ。餡からちゃんと作った力作よ!!」

「マジ?やったねぇ。オレ桃饅頭好き~。」

「浩大は口に入ればなんだっていいくせに。」

「そんなことないよ~。お妃様の手作りの品を毎日楽しみにしてますよ。」

「・・・偽物よ。ただの庶民の家庭料理の範囲だもの。ここでは毎日下町では見たことのないような素晴らしい料理やお菓子が卓の上に並んで凄いわよね。こっちの方がしっくりくるからやっぱり私って根っからの庶民なのね。」

 

自分で言ってて悲しくなってきた。

どれだけ長く後宮に居ても、いろいろなお妃教育を受けようとも、ふとした瞬間に下町のことを思い出し、私にはなんて不相応な所にいるのだろうと思わずにはいられない。

あの煌びやかなお妃様達がやはり陛下には相応しいのだろうと思うと涙が出てくる。

でも、陛下が御正妃様をお迎えし本当の幸せを手に入れるまであと少しだけ、もう少しだけ傍に居たい。

出来ればほんの気まぐれにでも笑顔を向けてもらえたら嬉しいと思う。

と同時に、先程陛下がお妃様と過ごしていた光景が蘇って心が痛くなった。

わかってはいても目に入ると胸が苦しくて、思わず見つからないようにこそこそとここまで急いで来てしまった。

本当はいつものように蕩けるような笑顔で呼んで欲しかった。

抱き上げられて膝の上に誘われたかった。

 

でも、もうそんな日は来ない。

わかってる。

私が望んだんだもの。

 

溢れだしそうな涙を必死に隠した。

 

「浩大、忙しくないの?陛下はお忙しそうよ。政務もみっちりなのにお妃様達のところへも行かなきゃならないし。あなたは陛下をお守りしているんでしょう?」

「まあね。でも大丈夫だよ。へーかはお妃様達の部屋でも少し過ごしたら自室に戻ってるし~。」

「へ?そうなの?・・・あの、お世継ぎはお生まれになりそう?」

「ん~、どうだろうね。へーか次第じゃね?」

「早くお世継ぎができれば陛下の御世も安定するだろうし、ここは浩大しっかり守ってね。」

「・・・で、それは本音?」

「だから、本当よ。陛下が幸せならいいの。だから浩大よろしくね。」

 

_____自分が幸せにしてやろうとは思いつきもしないんだろうな。

へーかの幸せは多分バイトちゃんにしか運べないだろうけど。

どっちも立場をわきまえすぎててめんどくさいヨ。

 

隠密は溜息を風に紛らわせた。

 

 

 

 

 

****************

 

 

 

 

 

「へーか、あちこちから送られてきているネズミは追い払っときました。」

「あちこち・・・ね。そろそろごまかすのも難しいか。彼女たちの香油の匂いも目線もうっとおしいことこの上ないのだがな。」

「ん~。じゃあ・・・」

「仕方ないな。明日から順番に回るさ。・・・王とは煩わしいものだな。何も思い通りにならない。」

「で、それは仕方ないとして、例のモノはどうします?」

「各妃の部屋の物と交換しておけ。そうだな、食事にも毎食混ぜろ。」

「・・・お世継ぎ要らないの?」

「・・・ただでさえ妃等面倒くさいのに、子供でも成したら何を言い出すかわからん。抱くのも本当は煩わしい。今はまだいい。」

「バイトちゃんと作っちゃえば~。」

「・・・今はバイト代がないと困るというからな。でも、・・・ゆーりんの子供だったらきっと可愛いだろうな。うん、いいな~。・・・でも、まだ夕鈴にはここは安全じゃないからな。しばらくは無理・・・かなぁ。」

 

_____はは。

これで逃げ出されたらどうなるのかな?

怖~ヨ。

 

「そういえば、今日夕鈴を見たんだが、あまり元気がないようだった。」

「あ、今日もバイトちゃんの桃饅頭食べながらお茶したっス。これがもうおいしいの!へーか食べたことある?マジでうまいぜ~。」

「・・・なぜわが妃のお手製をお前が独り占めするのだ。」

「ん~、そりゃ老師が忙しくて来れないから?どっかの誰かさんも来ないしね~。」

 

小刀が音も無く隠密に放たれた。

 

「じょ、冗談です、ハイ。あ、でもへーか、独り占めじゃないです。バイトちゃんはちゃんとへーかがいつ来てもいいように毎日へーかのぶんも作ってますよ。来なくてもったいないから食べてって、まあ翌日結局オレの腹のなかですけどネ。」

「それを早く言え!」

「今から行くの~?もう遅いよ。寝てんじゃね?」

「この時間じゃないと周りがうるさいからな。____頼んだぞ。」

「リョーカイ!」

 

_____明日はお菓子なしかなぁ。

 

隠密は嬉しそうに笑いながら屋根の上で一晩中見守っていた。

 

 

 

 

*************

 

 

 

つづく

スポンサーサイト

コメント

コメントを投稿する

管理者にだけ表示を許可する