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道程8

 

 

ああ、読み返していて悲しくなってきました。

 

ハッピーエンドって決めてなかったら読むの挫折しそうな勢いです。

 

そんなお話書いてすみません←

 

 

 

***********

 

 

 

あの日の陛下は、最初からおかしかった。

あの日、陛下は他のお妃様のところに御渡りになると聞いていたから、私は自室でのんびりして寝台に入ろうと思ったところだった。

陛下はお妃様達に諍いが起きないように、各お妃様を日替わりで順番に回られていた。

それは一番下っ端である私も同様で、本物のお妃様達と同等の扱いをしてくださっていた。

順番でいくと私のところに来るまでにはまだ日があったし、お妃様達を迎えてからそのルールは破られることはほとんどなかった。

一度だけ、『浩大が桃饅頭が美味しかったと言っていたから食べたくなって。』と嬉しそうにやってきたことはあったけれど、それきりのことだった。

それなのに、陛下は深夜と呼んでもいい頃に女官も従えず、そっと、まさに人目を避けてという感じでやってきた。

 

「陛下!いかがされたのですか?今日はお菓子のご用意はしていませんが。すみません。」

 

陛下の事だからまた食べたくなったのかもしれない。

桃饅頭をとても気に入ってらしたから。

なのに陛下は返事もせず、一言も発せずにこちらへ近寄ってきたかと思ったら私の腰をさらいひょいと抱き上げると寝所の方へ歩き出した。

 

「へ、陛下!どうされたのですか?お、お茶でも・・・あの、あ・・・。」

 

どさりと寝台に降ろされると同時に上から陛下がのしかかってきた。

他のお妃様の香りがする。

 

_____やだ。

 

反射的に陛下を押しやってしまった。

なのに陛下は有無も言わさず抑えつけてきた。

貪るように口づけをされ、結局後はなされるがままだった。

 

悲しかった。

 

他のお妃様の香りを纏ったまま何のつもりで来たのか。

私になら何したっていいと思ってるのかと辛くなった。

 

_____けれど。

 

涙を流し続ける私に、陛下は優しかった。

やってることは優しくはなかったけれど、ずっと「夕鈴、夕鈴・・・」と泣きそうな声で呼び続けてくれた。

涙を唇で吸い取って、ずっと全身に口付けを送ってくれた。

とても悲しくてやりきれなかったけど、陛下があまりにも縋るように抱きしめて名前を囁くから、後はどうでもよくなってしまった。

 

何があろうと陛下の味方でいる。陛下の為なら何でもやってあげたい。

何も持たない私ができることがあるならば。

ずっとそう思ってきた。

 

だから、それが陛下にとって必要であれば受け入れようと思った。

 

朝まで散々翻弄され、陛下が自室に戻ったのは空が白みかけてから。

陛下は一言だけ。『ありがとう。』と言って最後に優しい口付けを額に寄せて帰られた。

何か役に立てたのであれば良かった。

そう思うことにした。

 

けれど、朝とてつもなく怠い体をどうにか動かして着替えようとした時にとんでもないことに気が付いた。

 

「え、な・・・な、え?何?虫、さされ、じゃない、わよね?」

 

昨日は悲しくてよくわからず、気持ちを切り替えるころには夢中で気が付かなかったけれど、これは_____。

所謂、所有印というモノかしら?え?なんで?

陛下と私は秘密の関係で、だからこそ陛下は私との房事を匂わす様な事をすることはなく、それは李順さん向けではあったけれど、今までこの様な後を刻むことは避けていた。

 

_____はずだった。

 

特にルールがあったわけではないけれど、陛下がされないので、同じように私も陛下の御体にはなるべく触れないように、いつも敷布を握りしめていたのだった。

それがどうしたことだろう。

全身くまなく紅い華が咲いている。

これでは人前には出られない。

基本的に露出のない衣装を好んで身に着けているので大半は隠れる。

だけども、鏡に映る姿で確認しても、首筋とかにも見えるし、手首や手の甲までもうっすらだけれども咲いている。

 

____な、何してくれてるのー!!ていうか・・・なんで?

 

急に私に所有印を刻んでしまった彼の人の考えていることはわからない。

私は受け入れることしかできないのだ。

今度いらっしゃた時に聞いてみよう。

取り敢えず今日は自室に籠って調子が悪いことにして用事がある時以外は人目につかないようにするしかない。

 

 

 

 

 

それからというもの、陛下は後宮に御渡りになる日は私のところに来る日でなくとも、深夜になると必ずと言っていいほど私の部屋を訪れるようになった。

誰かの匂いを纏ったまま、入ってくるなり眠っている私に構わず寝台の上に登ってきて私を組み敷き、まるで貪るかのように唇を合わせ肌を重ねる。

その度に私の胸はきゅーっと痛むのだけれど、私以上に陛下が辛そうで縋り付くように抱きしめてくるから拒否することも躊躇われて、結局好きにされてしまっている。

 

あの夜以来、陛下は相変わらず言葉少なく、紅い華は霞むことなく夜ごと刻まれ色褪せることはない。

 

とは言え、私の部屋からは離れているとはいえ、嬌声が漏れ聞こえてくることもあって、他のお妃様達と房事に励んでいるらしいことは人から聞くよりも明らかだ。

 

なのに____。

 

それなのに、嬌声が漏れ聞こえてきた日に限って、陛下は私のところにやってくるようになっていた。

しかも本当に限りなく奪いつくされる。

翌日はとてもじゃないが掃除などできない位に貪られる。

 

____なんのつもりなんだろう。

 

陛下が良くわからない。

夜毎違う香りを身に纏ってやってくる。

背中や二の腕にはお妃様達がつけたであろう爪痕がくっきりと、それも癒えることなく日毎に増えていく。

それが増えるごとに私の身体に咲く紅い華も増えていく。

何をなさっているのか_____?

お妃様達に咲かせているだろう花を戯れに私にも咲かせて楽しんでいるのだろうか?

いや、別に楽しんだところで誰にも責められないことに気が付いて悲しくなる。

そうだ。彼は王様なのだ。

それは責務で、公務と何ら変わらない位置づけだ。

誰にどんな仕打ちをしようと彼は責められるべき人ではない。

娶ったお妃様をどのように扱ったところで、そんなの百も承知で入宮してきているのだ。

 

____普通のお妃様達は。

 

私だけが間違っているのだ。

私だけがそれを認められないのだ。

王様としての彼が好きなのではない。

多分彼が王様でなくても私は好きだと思う。

けれど、陛下が陛下として頑張っているから何か役に立ちたいと思った。

何も持たない私にただ傍にいて欲しいと望んでくれるなら居たいと思った。

やっとわかった。

私は陛下を独占したかったのだ。本当は。

やっとわかったのではなく、認めることにする。

なんで辛いのを我慢してまでお妃様達の入宮に口添えしたのか。

李順さんに言われたからというのもあったけれどそれだけではない。

私は怖かったのだ。陛下がいつか来るだろう本物のお妃様達にあの蕩けるような笑顔で笑いかけ抱き寄せる様を見ることになることが。

その日がいつ来るのか、いつ要らないと言われるのか、いつ陛下に飽きられてしまうのか、私は怖かった。

だから自分で幕を引こうと、終わらせてしまおうと、無意識にきっと思ってしまった。

好きなのは本当だけど、境界線を引いていたのは私の方だったかもしれない。

いつ放り出されるかわからない、本当に陛下の気持ち一つの存在で。

あまりにも不安定な自分の立場が苦しくなったのだ。

どうせ来る未来なら・・・。早い方がいい。

きっと忘れられないけれど、痛みは少しずつ薄れていくだろう。

所詮私は下町娘だ。綺麗なお妃様達には何から何まで敵わない。

敵うとか、比べることもおこがましい。

元々そんな身分だ。

陛下もいつか忘れるだろう。

 

寂しいけれど、それが正しいのだ。

 

あと少しだけ____。

 

 

 

 

 

いつものように散々貪られた夜明け近い時間。

いつもより早いお帰りだった。

明日は御正妃様がいらっしゃる。

大切な、御成婚の儀式のある日だ。

 

「あのね、夕鈴。明日成婚の儀式が終わってしばらくしたら離宮に行く予定なんだ。」

「あ、はい。存じ上げております。李順さんから伺っております。」

「ん、それで・・・。妃達も一緒に連れて行くんだけど、ね。その・・・。」

「ふふ、大丈夫ですよ、陛下。ちゃんと聞いてますよ。」

「ん~、僕、夕鈴も連れて行くって言ったんだけど、李順が駄目だと反対してね。長いこと寵愛を独り占めした妃は示しの為にも置いていくようにって。今更新婚旅行なんていらないでしょうっていうんだ。奴め。」

「そうですね。ただでさえ陛下は毎日いらっしゃってくださってますものね。」

「いや、それは多分ばれてないと思うんだけど。」

「久しぶりにお休みを頂戴しました。たまには実家に行って青慎にもいろいろやってあげたいし、嬉しいです!」

 

殊更嬉しいを強調してみる。

本当は嬉しくなんかないんだけど。

そういうシナリオなのだ。

陛下はこの旅で、要するにお世継ぎ作りに励むことになるのだ。

私なんかに時間を割いている場合ではない。

 

わかってます。

だから、____ごめんなさい。

 

「お土産何か買ってくるから楽しみにしててね。」

「バイトにお金を使わないで下さいよ。無事に帰ってきてくだされば。」

「____私は君をバイトだとは思っていない。本物だと、そう思っている。君は違うのか?」

「い、いえ。あの・・・ご、ごめんなさい。」

「何かあるのか?」

「あの、その、だって私、あなたのお世継ぎを産んでさしあげられません!偽物には限界があります。ですから、その・・・お気持ちはとても嬉しいのですが、私はあなたに必要なものは何一つ持ってないし差し上げられないんです。だから・・・。」

「____ふぅ。夕鈴。もう少ししたらちゃんと話す時間をとるから。お願いだからそんな風に思わないで。私は夕鈴のことをちゃんと考えている。最近は君の優しさに甘えすぎている自覚はあるが。すまない。でもこれだけは信じて欲しい。私は君がいないと息をすることもままならない。君がいないなんて考えられないんだ。今はこんなだけど、きっと君が居心地がいいように整える。だから、だから、待っていて欲しいんだ。僕を諦めないで。お願い。」

 

最後は子犬の雰囲気で懇願するように言われるともう何も言えない。

本当にずるい人____。

 

「はい。ありがとうございます。嬉しいです。」

 

きっと顔は真っ赤だろうけれど、嬉しいのは本当だったから声が弾んだ。

 

「では今宵の宴で。君の可憐な姿を見るのを楽しみにしている。では行ってくる。」

「行ってらっしゃいませ。」

 

その日王宮は王の正妃を迎え、厳かで賑やかな一日となった。

 

 

 

 

***************

 

 

 

続く

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