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道程10


もう~。陛下ったら!(ノД`)・゜・。

 

 

 

 

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御正妃様を迎えてからの陛下は後宮に渡られる日の多くを御正妃様と過ごすようになった。

今までは私を含めすべてのお妃様を平等に扱ってくださっていたけれど、やはり御正妃様ともなれば違うらしかった。

まあ、あんなに綺麗な方だから、陛下でなくても夢中になるだろうと思う。

 

思う、けれど・・・。

 

私のこともちゃんと考えてるって言ったくせに、どこがちゃんとなんだ!!と腹が立つ。

 

がしかし、やはりそこはバイトだから仕方がない、と自分に言いきかす日々が続いていた。少し期待してしまった自分がいたことに笑ってしまう。

あんなにいつか放り出されることを頭の片隅に置いて考えていたくせに、いざそうなると悲しくなるなんて。

 

都合がいいのは私も、だわ____。

 

陛下がお優しいから、心のどこかで期待してしまっていたらしい自分が恥ずかしかった。

結局のところ、陛下は御正妃様を選んだのだ。

それはそうだ。それが正しい。

わかっている。これが正常な後宮なのだ。

 

でもそれとともに、日に日に私を蔑んだ目で見る人達が増えてきた。

今までは陛下のおかげで人として扱ってもらっていたらしいが、寵愛がなくなった出自不詳の妃など噂の格好の餌食だった。

私を見かけては見下したように笑い去って行くのはまだ良かった。

中には一言二言侮辱する言葉を投げつけ、明らかに出ていけと言う者もいた。

私だけならいい。

我慢、する。

けれど、問題は私付きの侍女さんたちにまで影響があったことで。

どうやら私のせいで謂れのないことをあれこれ言われているらしかった。

時が経つほどに顔色が悪くなる侍女さんたちは、それは私には笑顔で相変わらずよくしてくれたけど、優しくされればされるほど、偽物なんかに就いたばかりに酷い目にあわせてしまっているのが辛かった。

 

 

 

 

 

そんなある日_____。

 

御正妃様からお茶の御誘いを受け、四阿に呼び出された。

 

「御正妃様、お待たせしてしまい申し訳ございません。御呼びとお聞きいたしましたが如何されましたか?」

「いえ、一度、ずっと陛下の唯一としてここに居たあなたとお話をしてみたいと思ってましたの。よろしいかしら?」

「・・・私のお話などお聞かせするほどのことは御座いませんわ。私はただ陛下の傍に居た、それだけの存在です。」

「そうですわね。今はもう私もいるのですし、あなたの手を煩わせることもないと思いますわ。」

「仲睦まじいようで何よりですわ。」

 

心にもないことをペラペラよくも言えるものだわと自分が怖くなる。

どす黒い感情に囚われたくなくて話題を変えた。

 

「それよりも、本当に話とはそれだけなのでしょうか?」

 

御正妃様の目が細められ、まっすぐに私を見据えられた。

 

「夕鈴。あなたは今まで私の陛下の為によく尽くしてくださり感謝しておりますのよ。ですが、私が来たからには後宮のしきたりに則るのが筋というもの。」

「はい、御正妃様に御仕えするのが私の務めですわ。」

「・・・本当に言いにくいのだけど。部屋を移動してもらいたいのよ。」

「部屋を、ですか?」

「ええ。あなたの今使っている部屋は妃が一人しかいないということから陛下が御渡りしやすい場所を選ばれたと聞いているの。でも、位を考えると、本来はもっと奥の方の部屋があなたの居場所。わかるかしら?」

 

御正妃様は妖艶な笑顔でこちらを見て言った。

 

ああ、そういうことか____。

 

「はい。部屋も後宮の秩序に則らなければ御正妃様のお手を煩わせてしまいますね。」

「他の妃の手前、お前だけ特別扱いはできなのよ。黎翔も、あ、ごめんなさいね。陛下も同じ考えだわ。」

 

黎翔も、ね____。

 

「畏まりました。すぐに部屋に戻って御正妃様のご用意してくださった場所に移りますわ。」

「そうね。・・・あ、それから、侍女だけど。彼女たちもあなた専用から外しますからそのつもりで。何か用がある時は誰かその辺に居るものを捕まえるか、食事の時に給仕に来るものに伝えるように。」

「・・・わかりましたわ。早急に取り掛からなければ御正妃様にご迷惑をおかけしてしまいますので私はこれで下がらせていただきます。失礼いたします。」

 

頭を下げ礼をとるとそのまま振り向いた。

御正妃様の御顔を見たらきっと泣いて叫んでしまう。

どんなに苦しくても悲しくても、自分の感情に振り回されて御正妃様を罵ることだけは許されない。

陛下にご迷惑が掛かってしまうのは耐えられない。

 

唇を強く噛み締め俯いたまま急いで部屋まで戻り、今まで私の為に一生懸命世話をしてくれた侍女さんたちにできる限りの笑顔でお礼を言った。

侍女さんたちは涙をこぼしながら、私がなんでこんな目に合わなければならないのかと怒ってくれたけれど、誰の耳に入るともしれない後宮だ。

侍女さんたちは部屋を移るまでお手伝いをと言ってくれたけれど、あまり長引くと彼女たちの為にならない。

私は感謝の言葉とともに陛下にとってはこれでいいと思っていること、これからは御正妃様や他のお妃様達に真摯に御仕えしてほしいことを伝え、下がるように言った。

 

____これでいい。私は忘れられた方がいい。

 

そう心の中で呟いて、部屋の片付けにかかった。

 

翌日からは今まで以上に掃除に励んだ。

雅な趣味などのない私のできることと言ったらこれくらいだし、身体を動かしている間はあまり考えずに済む。

 

「バイトちゃん・・・」

「何?」

「ん~、あのさ、あの、これ美味しいネ。」

「そうでしょ?こないだ老師から借りた巻物に書かれてた新作なの。」

「なんか最近使う材料が高いんじゃネ?」

「そう?王宮で手に入るものなんて私からしたら全部高級だわよ。」

 

下町ではめったにお目にかかれないものだらけだ。

つい今のうちに堪能しておこう、なんて思ってるのがばれないかと内心ヒヤッとした。

 

「ま、そっか・・・。」

「そうよ。毎日贅沢で、ほんとに身分不相応だわ。」

「なんでだよ!お妃様には違いないだろ?」

 

前に言ったよりもちょっと強い口調で浩大は言う。

わかってるくせに。

 

「だ~か~ら!!浩大は!私のことずっとバイトちゃんって言ってるじゃない。」

 

何度同じことを言ってもこの隠密はまた同じことを言う。

 

「ん~、まあ、それでいいならそういうことにしとくけどサ。___あのさ、へーかに言わなくていいの?」

「ん?高い食材を使ってること?そういえば言ってないわね。でも李順さんには許可をとってるわけだし、別にいいわよね?」

「そうじゃなくて、さ。____部屋を移ったことだヨ。言ってないダロ?」

「____直接お話しする機会がなくて私から話はしてないけど、御正妃様から聞いてらっしゃると思うわ。毎日御一緒に過ごされているようだし。それに・・・陛下も御正妃様と同じ考えだと伺っているもの。」

「____違う、と思う。」

「ふう。違わないわ。現に御正妃様がいらしてからは陛下は御正妃様ととても仲睦まじく過ごしていらっしゃるでしょう?私どころか、他のお妃様達もほったらかしだわ。」

「それは・・・」

 

____そう見せてはいるけれど。

 

これは言えない。

言ったら計画が崩れてしまう。

この子は嘘がつけない、稀にみる純粋さ。

陛下でなくとも、オレもじっちゃんも人として惹かれている。

この子が居なくなれば、陛下はおかしくなるかもしれない。

この子をこれ以上追いつめたくはないが本当のことも言えない。

陛下が正妃を寵愛するふりをしているおかげでこの子への刺客はだいぶ減っているのも事実だ。

浩大はがしがしと頭を掻いた。

 

「ともかく!浩大!明日からあなたも離宮に行くのでしょう?そろそろ私も自室に戻るし、あなたも隠密っていったって準備があるんじゃない?もうここはいいわよ?」

「リョーカイ!んじゃ、しばらくへーかと行ってくるけど、帰ってきたらまたおいしいのチョーダイね?」

「ふふ、あなたが食べてくれるから毎日作り甲斐があって良かったわ。行ってらっしゃい。陛下をよろしくね?」

 

約束はできないからごまかした。

ごめんね。

怒って憎んでくれるかしら?

きっとその方がいいわ。

 

 

 

 

 

「ゆーりん!!!」

「如何されました?お疲れ様です。陛下?明日は早いのでは?」

「お疲れ様です、じゃないよ。なんでここに居るの?」

 

明日は離宮に行かなければいけないから、行く前に夕鈴に暖めてもらいたくて周りの目をごまかして部屋に行ったのに気配がない。

適当に侍女を捕まえて聞いてみればみればここだと言う。

しかも就けていた侍女も専属を離れているという。

 

____何故こんなことに?

 

苛立ちで、関係ないとわかっていても夕鈴の手首を強く握りしめていた。

 

「っつ、なんでって・・・。御正妃様が後宮の決まり事に従ってここに移るようにと。陛下も分かってくださっているとお聞きいたしましたが。」

 

夕鈴が青褪めて瞳には恐怖が浮かんでいた。

それでも止まらなかった。

 

「私はそんな許可は出してはない!こんな、こんな場所で、侍女も就けず、一人で寂しく過ごさせるなんて・・・!!!」

 

頭に血が上ってどうしようもない。

彼女の手が震えるのも目が潤んでいたのも分かっていたが激情が己を支配し怒りは治まらない。

桜華を問い詰めねば気が済まない。

しかし今問い詰めてしまえば今までやってきたことが水の泡になることも分かっていて、怒りをどこに向けていいかわからず立ちすくんでしまった。

そんな私に夕鈴はあいている方の手を伸ばし頬に触れた。

 

「陛下、私は大丈夫です。ここでも下町の自室よりも広いですよ。皆さんにも良くしてもらっています。何も困ってなどいないです。・・・ね?」

 

ふわっと微笑む。

私の好きな、愛しい夕鈴の可愛らしい笑顔。

これを守りたくてとった行動が彼女を苦しめているのだから本末転倒だ。

私は彼女を苦しめることしかできないのだろうか?

 

でも、それでも、彼女のいる未来があるのなら、少しでも望みがあるのなら、僕はそれに賭けたい。

 

彼女の笑顔に気持ちが救われた気がして、ふっと表情が和らぎ彼女と微笑み合う。

 

と、彼女の右手首が鬱血して色が変わっているのに気が付いた。

 

「ご、ごめん!!ゆーりん、僕・・・。」

 

情けない。

守りたいと言っておいて自分の感情をぶつけ傷つけてしまった。

項垂れた僕に夕鈴は慌てて喋りだした。

 

「へ、陛下!大丈夫です。これくらいすぐに治ります。ね。あ、あの、怒ってくれて、その・・・嬉しかったです。ふふ、ありがとうございます。だから、大丈夫です。」

 

ふわりと笑う。自分が傷ついた時ですらこんなに優しい夕鈴。

僕は彼女に見合うくらいの男だろうか?

 

____否。見合わない。

 

わかっているのだ。でも手放せない。

恋は盲目とはよく言ったものだ。

 

「本当にごめんね・・・。僕のこと嫌になった?」

 

自分が情けなさすぎて不安になり、つい聞いてしまった。

口に出してからしまったと思ったけど届いてしまったのは仕方がない。

 

「いえ、陛下のこと嫌いになるなんてこと、絶対ありません!私はどこに居ても何をしていても陛下の味方です!!」

 

力いっぱい腕をぐっとあげて勇ましい表情を作って言い切った。

すぐにふふっと笑う。

 

ああ、僕の好きな夕鈴だ。

 

時間はかかるけど、絶対に君を、いや、君と幸せになりたいんだ。

 

だから待っていて。

 

「ねえ、ゆーりん。しばらく会えなくて寂しかったんだ。暖めて?」

 

君にゆっくりと手を伸ばす。

その手は払いのけられることなく夕鈴の両手で包み込まれ、そのまま寝台へと導かれる。

 

「・・・わ、私も、とても寂しかったです。私も暖めて?」

 

夕鈴の露出している肌全てが真っ赤に染まる。

全身真っ赤だろうな。

いつもより少し積極的な彼女に嬉しくなる。

想いは通じているのだろうか。

 

そうだといい。

 

そう思いながら彼女の柔らかな身体に寄り添った。

 

 

 

 

 

翌朝、後宮からは主が全て居なくなり、その静けさはある種異様な雰囲気を醸し出していた。

 

 

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つづく

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