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道程11


くぅっ。陛下のバカ~。

 

と再び思ったまんまるこです。

 

*************

 

 

 

 

「ようこそ離宮にお越しくださいました。陛下置かれましては御正妃様、お妃様方をお迎えになられこれからの御世、更に栄華を極めることでしょう。」

 

離宮の管理人が拱手して奏上する。

 

ここは王家の離宮、その中でも殊の外華美に作られた蘭華宮である。

この離宮は歴代の王が只々妃達を愛でるためだけに作られており、黎翔の好みとは真逆を行く贅を尽くした作りになっていて、本当はこんなところ解体したものだと思っていた。

しかし、今回の旅の目的は只々正妃を寵愛していることを他の者の目に晒すことが目的であり、それにこんなにうってつけのところはなかった。

妃を愛でるためだけに作られているだけあって、国王専用の寝室から妃達の各房は全て目に入るように作られていた。

ということは逆にも言え、つまりは国王が誰とどう過ごしているのかが全ての者から見えるということでもある。

それは寵を賜りたい妃達を競わせ、より自分に媚を売り、しどけなく妖艶に誘う妃達を面白おかしく楽しむためのもので、それは決して良い趣味とは思えない。

しかし逆に言えば妃達が何をし、誰と過ごし、どんな表情をしているかもつぶさに観察できるということでもあった。

その為、自分の意に沿わない離宮であったが赴くことにしたのである。

 

「挨拶などはよい。正妃が疲れているようだからな。すぐに部屋に案内せよ。」

「っは!気が付かず申し訳ございません。御正妃様、この者たちが此方で貴方様に御仕えする侍女でございます。いかようにもお使いくださいませ。」

「桜華、着いた早々すまないが政務がある。君と離れるのは寂しいが部屋で待っていておくれ。」

 

他の妃達には目もくれず、ただ正妃にのみ甘い夫を演じる。

 

「はい。少し疲れました。休ませていただきますわ。失礼いたします。」

 

そう黎翔に妖艶に甘えた声で答えると侍女に向き直り、表情を一変させて言った。

 

「私は少し休みたい。部屋に案内せよ。」

「かしこまりました。此方へ参りましょう。」

 

桜華の表情の変わりように侍女たちは驚き、顔をこわばらせて頭を垂れたまま共に去って行った。

 

_____ふう。めんどくさい。

結局彼女も毒花に過ぎん。王族である以上仕方ないかもしれんが・・・。

 

黎翔は遠く離れた愛おしい娘を思い出し、誰に気づかれることもなく一瞬本当の笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

「陛下!!」

「うるさい、なんだ。もう少し静かにできんのか?」

「これが静かにできますか!どういうことです?」

「なにがだ?」

「官吏たちですよ!離宮でも政務をやるから連れて行く、と仰いましたよね?」

「ああ、だから今やっているだろう?」

「違います!!官吏たちに数名、王宮の反勢力に加担していると思われる家の者が混ざっております!!通常ならば随行など許されるはずのない者たちが、です!!一体何を考えてらっしゃるのですか?」

「・・・ふん。あいつらにうってつけの仕事があってな。あいつらでないと駄目だ。」

 

李順は黎翔の言葉の裏に隠れているだろうことがわからずに眉間に皺をよせ眼鏡をくいっとあげた。

 

「どういうことでしょう?」

「・・・」

「陛下!!」

「・・・。わかった。聞きたいというならば、お前も腹をくくれ。」

「腹を、ですか?」

「そうだ。聞いてから、それには賛成しかねます!なんて言うくらいなら聞かない方が良い。なぁ、浩大。」

「うん、多分聞いたら倒れちゃうだろうから聞かない方がいいんじゃネ?」

 

声のする方を見ると部屋の中にはいつの間にか隠密の姿があった。

 

「あなた、夕鈴殿の護衛はどうされたのですか?」

「オレ、へーかの隠密だよ。へーかの御命令でこっちに来てるに決まってんダロ。」

「・・・つまり?浩大が必要なことがここで行われる、ということでしょうか?」

「そうだ。正確には既に始まっている、が正しいな。」

「そうだね。李順さんが知らないだけ、ダヨ?」

 

ふう~。李順は深いため息をついた。

本当はあまり聞きたくはない。

聞きたくはない、が仕方ない。

意を決すると眼鏡を掛け直して言った。

 

「わかりました。私は陛下の意に沿うのが命だと思っております。何が起こっているのか、どうしたいのかお教え願えますか?御二方?」

 

黎翔と浩大は夕鈴には見せたことのないと酷薄な笑顔を李順に向けた。

 

 

 

 

 

「な、なんですって?そ、それは・・・。陛下、本気ですか?」

「本気に決まってんでショ。へーかダヨ?」

 

そこには目を細め口角を上げて笑う戦場の鬼神、冷酷非情の狼陛下がいた。

 

 

 

 

 

その頃、王都下町。乾隴。

 

いつもと変わらない景色とやり取りが繰り広げられていた。

 

「おい!お前!久しぶりじゃねえか。帰ってきたのか?」

「帰ってきたら悪い?」

「はんっ、大方何か仕出かして首にでもなったんじゃねえのか?いい年して落ち着きがねえからな。」

「う、うるさい!!いい年して、は余計よ!!」

ひとしきりいつもの挨拶をかわすと几鍔はキョロキョロと辺りを見回してから言った。

「・・・で、今日はあいつは付いてきてねえのかよ。」

「あ、あいつって誰よ。」

「ああ!あいつだよ、李翔って言ったか?お前が帰ってくるといつもくっついて来てただろう。」

「あ、あの方はただの上司よ。私はもう戻らないから・・・」

 

涙が零れそうになって何と言ったらいいかわからず黙り込んでしまった。

 

「はっ、だから言っただろう。貴族なんてやめとけって。だからか。お前酷い顔してるぞ。騙されていたのがやっとわかったか、このバカ。」

「うっさい!!あんたのがバカよ!人の顔にケチつけるのやめてよね!そ、それに、別に私騙されてなんかないし!!」

「ふうん。じゃあなんであいつは来ないんだ?なんで王宮には戻らないんだ?」

 

何と答えたらいいか思いつかずに睨み合っていると、急に几鍔が一点を凝視して固まり、口をパクパクさせ始めた。

 

「アンタの方こそすごい顔になってるわよ。私を見て何のつもりよ!」

「お、お前・・・なんだ?それ・・・。」

 

几鍔が私に向かって指を指す。

顔が真っ赤だ。

今まで見たことのない顔をしている。

 

____ん?どこ?

首の下あたり?・・・。どわぁ~~~~~!!!!!

 

「ちょ、ちょっとどこ見てんの?」

 

急いで襟元を引き寄せ隠した。

 

「いや、違うだろ!お前、もしかして・・・そうなのか?」

 

几鍔が指を差した胸元には幾つか陛下の残した紅い華が咲いていた。

早く王宮から離れたくて、泣きながら急いで出てきてしまったので気が付かなかった。

 

「う、うるさいわね!!ほっといてよ!!!」

 

今度こそ本当に涙が出てしまった。バカ几鍔。見ない振りしなさいよ。

 

「お、お前。だからか?帰らないって、なんだ?あいつ貴族なんだろ?もしかして正妻が来たのか?妾にされたのか?だから逃げてきたのか?」

「・・・。ふう。どうだっていいでしょう?アンタに何の関係があるのよ。」

「大ありだ!お前が傷ついたのを見て黙ってられっか。ちょっと行ってくる!!」

「ちょっとって!どこ行くのよ!!やめてよ!王宮にはいないわよ。奥様を連れてご旅行に行かれているもの。」

「はあ?お前がこんな顔してんのにか?呑気な奴だな。ぜってー許せねぇ。」

「几鍔・・・。詳しいことは話せないけど、許すも何も、もともとそういう関係じゃないのよ。傷つくのもおこがましいわ。」

「お、お前、それでいいのか?わかってて・・・。」

「そうよ。わかっていて傍に置いてもらっていたの。いつか正妻がいらっしゃるまで、それまであの方が寂しがらないように一緒に居たかったの。・・・私が願ったことだわ。あの方は叶えてくれただけよ。」

「で、でもな!」

「でも、も何もないの!もうこの話は終わり!!誰にも言わないで。青慎にも絶対よ!!もう、終わったのよ・・・。」

「ふん。勝手に大人になったみたいな顔しやがってよ。」

 

几鍔はちょっと乱暴に私の頭をくしゃくしゃにかき回してから去って行った。

ちょっと寂しそうな、まだ言い足りないような笑顔だったけど、何も言わないでくれた。

それから振り返って、

 

「何か困ったことがあったら言え!後、話ししたくなったらいつでも呼べ!!わかったな!!変な顔でいつまでも泣いてんなよ!!」

 

優しい憎まれ口をたたいて雑踏に消えていった。

 

さあ、新しいバイト先も探さなきゃ!お家のこともいろいろほったらかしてるし、やることだけはいっぱいあるもの。

いつかきっと思い出さなくなるわ。楽しかったって笑えるようになるわ。

だから今はこの胸の痛みと付き合うとしよう。

 

____でも・・・。

 

今朝、と言うか明け方、まだ日が昇らないうちに私の部屋から帰る陛下はしつこい位に離宮から戻ってくる時はちゃんと出迎えて欲しいと言っていた。

お土産をきっと持ってくるからって。正妃の手前抱きしめることはできないけれど、私の顔を、一番に見たいんだって言ってくれていた。

 

私はそれを裏切るのだ。

 

陛下のことは大好きだ。

好きどころか愛していると思う。

自分なんかより陛下が何倍も大事だし、何よりも陛下を優先する。

命も惜しくないという程に。

だから、だから私では駄目なのだ。

こんな何も持たない者が傍に居ても陛下が悪く言われてしまう。

それが嫌だった。

それに始めてしまった関係が、先の見えない恋が、苦しくて辛くて。

二人で過ごす時間はとても幸せではあったけれど、その分いつか来る未来にずっと怯えていた。

本当は誰にも触れて欲しくなんかなかった。

あの蕩ける様な笑顔も、優しく抱きしめてくれる腕も、冬になると寄り添った温もりも、私だけの物だったのに。私が自分で幕を引きたくてやったことにこんなに傷つく権利なんかないのに。

なのに心は痛くて、早くこの日が、陛下から離れる日が来るようにと、毎日涙を流しながら待っていたのに。

これでよかったはずなのに。なのに・・・。

 

____もう、会えないんだ・・・。

 

夕鈴は一人下町の自分の部屋で泣き崩れた。

 

 

 

 

夕鈴が下町で泣きながら眠りについた頃、離宮では何かが動き始めていた。

 

 

 

 

*************

 

 

 

続く

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コメント

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ボナ様

こんな辺境の方までいらっしゃいませ〜(*^^*)
嬉しいです!

でも、沢山泣かせてしまったようで、すみません( ̄▽ ̄)
うちには酷い陛下しかいないので←
でも、わたしはどんな話でもハッピーエンドでなければいやなので、これもそうです!
SNSからの転載になりますが、こうして読んでくださる方がいるのは嬉しいです(≧∇≦)

続きも手直ししつつ、早めにこちらへ持ってきますね(*^^*)

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