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道程15

カラ元気な夕鈴が悲しいなぁなんて思ったりして。

 

 

続きをどうぞ。 

 

 

 

 

************

 

 

 

 

「う~、さむっ。」

 

下町の朝は早い。

後宮にいたときはほとんど上げ膳据え膳だったけど、ここではそんなわけにはいかない。

ここ最近あまり眠れてないせいか身体がだるく熱っぽかったけど、育ち盛りの青慎の為に朝餉を作らなくちゃと寝台から下りる。

台所まで行こうとすると、卓の上の何かが目に入る。

 

____何か置いたっけ?

 

ふと見やると、それは下町ではめったにお目にかかれないもので・・・。頬が緩んだ。

きっと浩大があれから往復してくれたのだろう。

悪いな、と思いながらもこうして少しでも陛下の気配を感じられることが嬉しい。

置かれていた籠に入っていたのは、後宮で私がよく簪にしていたお気に入りの花で。

こんなに大きさが揃っていて量もあると下町では手に入らない。

いくらなんでも青慎にだってわかるくらいには珍しくて高価な花だ。

ちょっと困るけれど、陛下が私のお気に入りの花だということに気が付いていてくれたのが嬉しくて手を伸ばす。

暫く香りを楽しんでいると、花の間から紙片がのぞいていることに気が付いた。

 

____大根の煮つけ、美味しかったよ。

 

そこには流麗な文字でそう短く書かれていた。

何を書くのか迷ったのか、ぽたぽたと墨が落ちた跡があちこちにあって、陛下の悩ましげな顔を想像して自然と頬が緩む。

本当は、離宮で何があったのか、知りたかった。

だけど、それだけでいい気がした。

御傍にいることは出来なくても、心だけは傍に・・・。

 

 

 

 

 

それからは毎日何か作っては卓の上に置いておいた。

すると気が付かない間にそれはなくなっていて、毎朝定期便の様に陛下からのささやかな贈り物と便りが届いた。

それは最初にもらった花であったり、季節の果物であったり、私が負担に思わないように気を使ってくださっていることがとても嬉しかった。

 

ただ、便りを開くと涙が零れた。

 

____会いたい。

 

____寂しい。

 

____寒い。

 

それから、____愛してる。

 

短くても、陛下がとても私を欲してくれていることが伝わってきて、自分の我儘でここにいることを申し訳なく思い始めていた。

我慢できなかった私が、逃げることしかできなかった自分が、ものすごく酷い人間のように感じた。

 

 

 

 

 

そうやって日々は過ぎ、暫くすると罪人として捉えられたお妃様と官吏達の刑が執行されたらしい、と下町で噂されるようになった。

不義密通を犯した妃と官吏、それから、御正妃様を亡き者にしようと企てた妃と官吏、ということだったらしい。

御正妃様を亡き者にしようと企てた妃と官吏は立てた計画と同じように葬られたらしかった。

不義密通の罪を犯した妃は全員身籠っていたため、尼寺に出家し、出産後子と離されることとなったという。

全員?離宮に行くといったって2週間くらいだったはず。その間に全員?

なんだか腑に落ちないが、その他にも一族郎党全てに咎がいったらしく、下町の者はすっかり狼陛下に縮み上がってしまった。

あの美貌でこの所業かとあちらこちらで噂されていた。

中でも、御正妃様を亡き者にしようと企てた者たちへの刑が余りに酷すぎると、寵愛の深さがわかるよな、なんて言われていた。

 

____やっぱりそうなのかしら?

 

毎日何かしら届けてくださるけど、お顔を見たのはあれきりだった。

陛下なら、どんなに忙しくても抜け出すくらいは雑作もないはず。

と、そこまで考えて、顔が真っ赤になってしまった。

私はいつからこんなに欲張りになってしまったのだろう。

陛下が私の為に何かを送ってくださることを当たり前に感じ、会いに来てくれないのはもう愛されてないからだなんて思うなんて。

大体、後宮に帰らなかったのは私が耐えられなかったから。

陛下が他の人に微笑みかけるのすら、もう見ていられなかったから。

 

だから逃げたのに。

 

なのに会いに来てくれないと拗ねるなんて間違っている。

きっと傷心の御正妃様に付き添われているのよ。お優しい方だもの。

きっともうすぐ、私の事なんてお忘れになるわ。

 

 

 

 

 

「おっきさっきちゃ~ん。」

「こ、こーだい!!もう、もう、もう~~~~~!!」

「あ、うまそうだね。それチョーダイ。」

「・・・はい、どうぞ。久しぶりね。」

「ああ、忙しかったからネ。」

「来たってことは、もう落ち着いたのかしら?大変だったみたいじゃない?」

「ん~、そうダネ。でも、こっちの噂ほど酷くないと思うけど。多分?」

「多分?って何よ!・・・で、陛下と御正妃様は仲良く過ごされてる?」

「あー、うん。見た目?」

「何?見た目って。下町でも御正妃様への寵愛がすごいんだって話でもちきりよ。」

「いや、うん、だから、見た目、だよ。」

「は?見た感じで仲睦まじいならそれでいいじゃないの。」

「うん、お妃ちゃんはね。まあ、その辺りはまた今度、ネ。オレ急いでるからさ。」

「え?どうしたの?」

「うん、ちょっと遠くに行くんだよね。仕事でさ。だから、しばらく来れねえし、へーかの御使いも別の奴が来ると思うんだよね。」

「ああ、そのこと?そんなの大丈夫よ。毎日来るの大変だったでしょう?ありがとうね。」

「いんや、オレも美味しいもの食わせてもらってたし、その辺は大丈夫。」

「じゃあ、急ぐんでしょ?これ持ってって。」

 

お妃ちゃんは作り立ての肉饅頭を包んでくれた。好物でしょって。

こういう気が使えるところがお妃ちゃんだよな。

 

「オレ行くけど。へーかとちゃんと話せよ。」

 

お妃ちゃんの頭をくしゃくしゃっと撫でる。

 

「ありがと。会えたら、ね。」

 

少し困ったように笑う。こりゃ陛下、説得するの大変かもな。

 

「じゃあな!」

 

次に会うときは陛下の隣で笑ってるといい。

 

オレはオレの仕事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____今日は何も届かなかったな。

 

月を見上げて庭で佇む。

 

「・・・姉さん、寒いからそろそろ部屋に入ったら?」

「ありがとう。もう少しお月見をしたら私も寝るわ。お休み、青慎。」

「・・・うん、お休みなさい、姉さん。」

 

帰ってきてからの私の体調があまりよくないことを気にかけてくれる優しい弟の言葉も遠くに聞こえていた。

あんなことを考えちゃったせいかな?陛下も私が嫌な女だってわかったのかな?

毎日届けてくれる品物や文が嬉しい反面、この先の不安が募ってつい我儘なことを考えた。

いっその事忘れてくれたら、なんて思ったはずなのに、糸のような繋がりすら無くなると心が千切れそうだった。

結局私の心は今だ陛下に囚われていて、一生このままなのだろうと思った。

忘れられるはずもなかった。

初恋だった。

初めて自分が女でよかったと思った。

初めてを捧げられることが嬉しかった。

全ての初めてを陛下と過ごした、とても幸せな日々。

 

____もう、戻れない・・・。

 

気が付くと月が滲んでいた。

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

 

「陛下、こちらを。」

「ふっ、お早いものだな。まあ、そうでなければ困るがな。了承の旨認めよ。桜華の里帰りを急がせよ。そろそろ夕鈴が心配だからな。」

「御意。」

 

これでやっと夕鈴に会いに行ける。

桜華の手前少しでも気取らせてはいけないと我慢していたがこちらも限界だ。

夕鈴に刻んでもらった証も消えてしまった。

きっと彼女の身体からも私が消えているだろう。

こうして離れてみると彼女の存在がいかに私の心を占めていたのかがわかる。

毎日短い文を届けさせてはいるが、彼女はあまり眠れていないらしいと報告が来ていた。

これ以上延ばしては体調が心配だ。

それに彼女はもう飯店でのバイトをしているらしかった。

あんなに可愛いんだから男がほっとくわけがない。

早く行かねば僕から逃げ出すために誰かの物に成りかねない。

ある意味彼女は王の為ならばとその身を差し出してしまう危うさがある。

僕個人の為ではないところが寂しいけど、そうあるように接してきたのは自分なのだから仕方ない。

 

桜華が王宮から出たらすぐに行ってその身に分からせてやらねばならない。

 

狼陛下に本当に愛されるということがどういうことなのか。

 

 

 

 

 

「道中気を付けられよ。身体を休め、また愛らしい笑顔を見せに戻ってきておくれ。」

 

桜華が子が流れたとの話を聞き、すぐに輝蘭国から里帰りさせて身体を休ませてやりたいと書簡が届いた。

こちらの思惑通りに事が運んで笑みがこぼれる。

おそらく輝蘭国国王の寵を受けさせ、再び身籠らせることが目的であろうことは明白だった。

 

「はい、ありがとうございます。早くあなたのもとに戻れるようゆっくり過ごして参ります。」

「では行かれよ。」

 

桜華を乗せた馬車は夕方には国境を超えるだろう。

 

そうすれば・・・会える。

 

 

 

 

 

桜華が国境を越えたことを確認してから彼女のもとへと急いだ。

家の門をそっと開けて中を伺うと、庭で月を見上げる君を見つけた。

いつまでたってもそのまま、ずーっと見上げている。

そのうちぽろぽろと瞳から涙が零れ落ちた。

 

____陛下・・・。

 

声もなく、唇が僕の呼び名を紡いだ。

 

「わが妃よ、何をそんなに憂いているのだ?」

 

 

 

 

***************

 

 

 

つづく

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