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道程21

 

下町のご夫婦って素敵ですよね~。

 

原作でも読める日が来ればなぁって思います。

 

下町で過ごす本物夫婦、見てみたいですよね。

 

わたしも市場の店のおばちゃんになって見守りたいです。

 

 

*************** 

 

 

 

 

「じゃあ、夕鈴。行ってくるね。」

「はい、行ってらっしゃいませ。」

 

今朝も陛下を下町の実家から王宮へと見送る。

 

あれから、陛下と想いが通じてからというもの、陛下はここから王宮へと政務をしに行き、終ると私の所に戻ってきている。

王が不在で大丈夫なのかと思うが、いつもなら止める李順さんも、特に急を要する案件もないのでその方が陛下の精神衛生上よろしいでしょう、ということで今に至っている。

御正妃様がいる間は戻れない、と私が言った我儘でこういう状態になっていることに後ろめたい気持ちはあるものの、以前のように見送ることができ、お帰りなさいと毎日言えることがとても嬉しい。

陛下の言う通りに事が運んで、もし後宮に戻ったとしたら、こうして自分でご飯を作って愛しい人を待つこともままならなくなるだろうと思うと、今の時間がとても大切で宝物のように感じた。

陛下もそれは同じようで、「普通の夫婦みたいに過ごせて夢のようだ。」と日々笑みを浮かべている。

これが薄氷の上にある幸せの真似事であろう事は2人ともわかってはいたけれど、それならば今のうちに思う存分堪能しようと、より濃密な時間を過ごすようになった。

陛下が家にいらっしゃる時は、私はほとんど陛下の膝の上にいるか腕の中に囲われるかであったし、そうでない時でも優しい眼差しで常に私を見つめていた。

私と言えば、相変わらず陛下の愛情表現の一つ一つの甘さに慣れなくて顔が赤くなるのを感じはしていたけれど、以前のように自分から離れようとしたりすることはなくなって、素直に甘えられるようになった。

そんな私の変化に陛下は時に目を丸くして困ったような笑みを浮かべ、「そんなに煽らないでくれ、我慢ができなくなる。」と甘く囁いてくる。

最初にこちらに現れた時にあまりにも見境なく貪ったので自粛中なんだそうだ。

それでも毎日共に寝台に入り、逞しい腕に抱かれて眠りにつく幸福感に、いつしか睡眠もしっかり取れるようになり体調も少しずつ回復してきていた。

 

体調がよくなってきたと同時にあることに気が付いた。

なんでこんなことを忘れていたのか。

あり得ないことだが帰ってきたときは辛くて毎日をどうにか生きることで精いっぱいでそれどころではなかったし、陛下が来てからは今度は幸せすぎてふわふわとした毎日ですっかり失念していた。

 

でもそんなわけないはずだ。

後宮にいた頃も、こちらに戻って来てからも、念のためずっと同じお茶を飲み続けていた。

何かあった時に御世継問題になることを防ぐためだと自分に言い聞かせて。

2度と戻らないならば決してこの身に宿してはならないと自分の心に蓋をして。

 

青ざめて立ち尽くしていると後ろからふわっと抱きしめられた。

愛しい人の香りにほっとすると同時にどうしたらいいのかわからずに固まってしまう。

 

「・・・夕鈴。」

「は、い・・・。」

 

どう伝えたらよいのか思いつかず言葉が出てこない。

まだ疑惑の段階だし確認したわけではないので、今言わなくても許されるだろうか。

 

「・・・ね、夕鈴?もしかして・・・?」

「えと、なんでしょう?」

 

どうにかごまかせないかと思ったけれど、頭の上の方から大きな溜息が落ちてきた。

 

「ふぅ。夕鈴?君の夫をもっと信じてくれないか?」

「もちろん・・・信じていますよ?」

「私は、そうだったらいいなと思っているのだが?」

「・・・」

 

ごまかすのは無理そうだ。

陛下は敏い方だから、私が気付くよりも早くわかっていたのかもしれない。

 

「・・・黎翔、様。月の物が、考えてみたら、以前から、来ていません・・・。」

「うん。」

「どう、したら・・・。」

「・・・」

「私なんかが陛下の御子を・・・。」

「夕鈴・・・。」

 

さっきまでの優しい見守るような声色が嘘のように冷たい声で名を呼ばれた。

あまりもの冷たさに身体が強張る。

 

「夕鈴、君は酷いな。」

「・・・」

「私は君を正妃に迎えたい、と言ったはず。忘れたか?」

「・・・いいえ、忘れるわけがありません。」

「ならば、君はいずれ皇子の母、国母になる、と思ったが違ったか?それとも他の女に私の子を産ませる気か?」

「っち、違います!嫌です!」

 

再び陛下の寵を競わなければならない日が来るとしたら私は耐えられない。

想像しただけで次から次へと涙が溢れ止まらなくなる。

そんな私を見て、陛下はふぅっと小さく溜息をつくと気配を和らげて困った顔で、けれども嬉しそうに笑いながら涙が零れ続けている頬に唇と何度となく落とした。

 

「夕鈴、僕の事、誰かと分けるの?」

「い、嫌です!」

「うん。さっきすぐにそう言ってくれたから、僕嬉しかったんだ。」

「・・・」

「でもね、夕鈴。僕は何度も君が良いって伝えてきた。君じゃなきゃ駄目なんだ。君との子以外はいらない。信じてくれる?」

「は、は・・・い。」

「私なんか、なんて言わないで。君は僕に諦めていた普通の幸せをくれたんだ。僕はね、誰かに恋することなんてきっとないって思っていた。誰かに執着することは弱みができるってことだから。そうならないようにしてきたし、実際気持ちを御することに成功してきた。・・・君以外はね。」

 

ふふふ、と照れくさそうに笑う陛下は王様ではなく。

 

「君と出会って、君と過ごして、僕は君が心の中に居ることの居心地の良さを知ってしまった。君がいることで強くも弱くもなることも。それは王様としては相応しくないかもしれないけれど、一人の個としての人生を捨てなくてもいいんじゃないかって思えるようになったんだ。」

「は、い・・・」

「だから、まだ正式には迎えられないけれど、絶対に正妃になって戻ってもらうから、だから・・・」

 

陛下は私を抱きしめていた腕を緩めると、私の前に跪いて手を取った。

 

「へ、陛下!何を?やめてください!王様なのに!」

「夕鈴?君は王の僕が好きなの?」

「ち、違います!黎翔様が好きなんです!」

「ふふ、嬉しいなあ。」

 

ものすごく嬉しそうに取った手の甲に口付けを落として真剣な目でこちらを見上げる。

 

「汀 夕鈴。僕と結婚してください。一生を共に。」

「へ、陛下~。」

「夕鈴?返事は?」

「・・・は、はい、黎翔、様。命尽きるまで御傍においてください。」

 

そう答えると再び陛下の腕の中に囚われた。

 

 

 

 

 

陛下の衣装の胸元は私の涙でぐっしょりになってしまって、寒いんじゃないかと着替えるよう勧めたけれど、私を抱きしめてる方が温かいし嬉しいから離れたくないんだ、としばらく胸に閉じ込められたまま話をした。

閨で半ば無理やり後宮に戻ることを約束させた後ろめたさがあったらしく、ちゃんと婚姻の申し込みができて、了承が貰えてよかった、と頬を染めて言う陛下が可愛らしく見えた。

陛下の言う通り、私だけがこの人の個としての幸せを与えられると言ってくれるなら、もう卑屈になったりしない。

陛下の御傍で共に人生を歩めるように、私も陛下のように強くならなければと思う。

 

この人が与えてくれる愛情をほんの少しでも返せるように。

 

 

 

 

 

 

 

だけど・・・。

 

 

 

 

 

「な、なんですって?へ、陛下の馬鹿~!」

「ご、ごめんね。夕鈴。僕夕鈴に逃げられるのが怖くて・・・。」

「狼が怖いなんて、そんなことありません!!」

「ある!ある!私は君にはちっとも勝てる気がしない。君がいないと死んでしまう。」

「~~~また、そんなことを!大体ころころ入れ替わらないでください!」

「だって夕鈴、どちらも好きだろう?」

 

どちらもって、どちらもって、そりゃそうだけど、こうなってくると融合しすぎてよくわからない。どう言えばこの人に分かってもらえるのか。

 

「と、とにかく!陛下の御子が出来たかもしれないことはとても嬉しいですが、ですが!!卑怯です!!!」

「はい・・・。すみません。でも夕鈴結局逃げたし。いざとなったら子が出来れば僕の傍にいるかなぁって。へへ。」

「へへ、じゃありません!!もう!もう!!もう~~~!!!」

 

御妃様たちと同じ様に、子を成さないお茶を普通の物に入れ替えてたなんて!

 

「ゆうりーん。お願い!許して?だって僕ゆうりんとの子が欲しかったんだ。」

 

そんな捨て犬みたいな瞳で窺うような眼差しはやめてほしい。

私が結局許してくれるだろうと思っているのだから。

全くこの人は。

 

器も懐も心も、尋常じゃないほど広く大きいのに、私に対してはこんな事をしてしまうくらいに余裕がないらしい。

 

ふっと笑って両手を陛下に伸ばして抱き付いた。

 

「もういいですよ。でも次からは、二人の事は。いえ、家族の事は、相談してくださいね?」

「うん!ごめんね、夕鈴。ありがとう。明日、一緒に産婆さんの所に診てもらいに行こうね!」

 

下町に来たその日以来共に眠るだけで我慢していたのは、既に子が出来ているかもしれないのに無茶なことをしてしまった為大事をとっての事だったらしい。

 

一生こうして我儘な狼に翻弄されるのかしら?

でも大好きな人に、しかも手の届かないと思っていた人に、甘く翻弄されるならそれもいいかもしれない。

 

囚われたのは私か貴方か。

 

 

 

 

************** 

 

 

 

つづく 

 

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