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本誌派生SS第57話⑤

どんどんいきます~。



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「支度は整ったかな?」

 

はっ、やっと来た~。

 

「陛下~~~~~」

 

陛下はこちらを見て目を丸くしたまま固まって動かない。

 

「あ、あの、やっぱり変ですよね!あの、すぐ着替えますから。」

 

言い終わらないうちにずかずかと近づいてきて腰をさらわれ陛下の腕の中に閉じ込められる。

 

「ゆーりん、すっごぉく、綺麗・・・」

 

陛下は蕩けるような笑顔をして耳元で囁いた。

 

「このように美しい妃を持って私も幸せと言うものだ。誰にも見せたくはないが、共に参ろう。」

「や、陛下~。これは何かの間違いでは?」

「何がだ?これ以上美しくなっては見つめるのもつらくなる。」

 

あ~。いちいち甘い~。

 

「下町に行くのですよね?これでは、あの、陛下も私も正装では?」

 

李順さんが準備したという衣装を見て驚いた。

それはまるで婚礼衣装の様で、もちろん下町ではお目にかかれないようなもので。

純白の上等な絹に繊細な刺繍が施され、所々に真珠が縫い込まれている。上掛は極薄い桃色の、これまた手の込んだ刺繍がされ、こちらは紅水晶と翡翠が縫いとめられている。装飾品に至っても、また同じような豪奢さだった。

 

「そのままで良い。」

 

ん?なんで狼陛下なの?

 

「でもこのままだとみんなが驚いちゃいますよ。」

「いや、そのままでいいんだ。」

 

ますます訳が分からない。挨拶に行ってくれることはうれしい。本当は王様なんだから欲しいというだけで済む話なのは私でもわかっている。

でも、王様だということが下町で知られては大変だし、私が庶民だということがそこからばれてしまっては陛下の御為にならないのではないかしら?

 

「いえ、陛下が下町に行ったことが表沙汰になったら、そこから私が庶民の出であることがばれてしまいます。私は構いませんが、陛下が貶められるのは嫌です。」

「皆知っている。」

「え?皆?」

「そうだ。皆知っている。」

 

は?何を?出自不詳なはずでは?

 

「今詳しく話をしていると日が暮れてしまうからな。馬車の中で話すとしよう。」

 

陛下は茫然とした私を抱き上げると額に唇を落とし、「はぁ、僕、馬車の中で我慢できる自信ないよ。」と嬉々として運んで行ってくれた。

 

馬車が準備されていることにも驚いたけど、その豪奢さにも驚いた。

王様が乗るよりは控えめだが、やはり装飾はそれなりのものだ。

その上、大臣その他重鎮が両脇に立ち並び頭を垂れて拱手している。

いったい何が起こっているのかわからない。私は気絶しそうな身体を陛下に預けていた。

馬車に乗り込むと李順さんが先に乗っていた。

 

「李順さん~、いったい何なんですか?どうしてこんなことに?」

「どうもこうもないですよ。正妃様。」

「は?正妃さま?誰が・・・ま、まさか___」

「まさかもトサカもありません。あなたですよ、夕鈴様。」

「え、いや、私庶民ですよ。李順さんのおっしゃる然るべき家柄ではないですよ。」

「そうですね。ですが、あなたが正妃様になられるのですよ。ああ、今日は急ぎでしたのでこの様な衣装になっておりますが、近々立后していただきますので衣装を新調いたしましょう。戻ったら、今まで以上に妃教育をしますので頑張ってくださいよ。忙しくなりますよ。」

 

最後の方は苦虫を噛み潰したような顔で言われ、はぁ~っと溜息をつかれた。

 

「李順、今はそれくらいでよかろう。それより、何故お前が同じ馬車に乗っているのだ?」

「ええ、どっかの誰かさんが正妃様のお美しい姿をどうにかなさらないように、ですよ。」

「どうにかとはなんだ?だいたいこれが我慢できると思うか?」

「だから同乗してるんです!!あなたはもう箍が外れるとこうなんですから!!!盛りのついた狼は大人しくしていてください!恥ずかしいのは夕鈴殿ですよ!!」

 

うきゃ~、李順さんどこまで知ってるの?ていうか、知っているのね・・・

 

「夕鈴殿、ええ、わかってますよ。全く、回りくどいことをなさって。周りの迷惑も考えて欲しいものですよ。ええ!!!」

 

へ?なんで考えてることがわかっちゃったの?

 

「あなたの考えていることは顔を見れば誰でもわかります!」

「はあ、そうですか。あの、ところで周りに迷惑って・・・」

「ええ!!もう!!あなたが!!浩大に嫁ぐといった日から政務室にはいらしてませんでしたから、あなたは!!存じ上げてらっしゃらないでしょうが!!!その日からですよ。政務室は今までで一番のブリザードで官吏が何人も倒れました!!まるでどこかの令嬢の書かれているという物語が如く、陛下の視線!一挙手一動によって皆倒れましたよ。」

 

李順さんはふぅ~っと大きな溜息をついた。

 

「ですが、それが良かったのです。後宮のいざこざから寵妃が政務室に出てこなくなったため陛下の機嫌が降下していると考えた官吏たちから、夕鈴殿を政務室にとの嘆願書が出されました。それをもとに方淵と水月が官吏たちを纏め上げ、妃として認めるよう大臣たちに訴えかけてくださいました。家に反してもよい、と。陛下とお妃さまの御為とおっしゃられましたよ。」

 

夕鈴の瞳からは大粒の涙があふれ出した。

政務室のみんなが・・・ありがたくて嬉しくて、何と言っていいかわからない。

 

「まあ、他にもいろいろありますが、とにかく、王宮の総意はあなたを認める、ということで纏まりました。庶民であることから、権力争いになんら関わらずに済むというのも良かったのですよ。ですから、胸を張ってください。これ以上泣かれると、私の腕をもってしても美しくして差し上げることは難しくなります。」

 

_____正妃様になられるんですから、無様な様を民に見せるわけにはいきません!

 

ともう一つ小言を落とすと、今までにないくらい微笑んだ。

 

「ご正妃様。陛下をよろしくお願いしますよ。」

  

 

 

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つづく

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