• 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31

SS 夫婦の形

大遅刻ですね・・・((+_+))

仕事が強制的に休みなので、ちょっと書庫を覗いてみたら、あれこれ転がっていました←忘れてた

大遅刻ですがもしよろしければどうぞ。

 

 

 

【本誌沿い】

【臨時花嫁】

 

 

 

**************




「陛下。あのですね、明日は夫婦の日なんだそうです。」
「へぇ。そうなんだ。」
「それでですね、考えたんですけど、あの、私、偽物なんですけど、明日は本物と思って過ごしてみたらどうかと。」
「え?本物?」

夕鈴が頬を紅く染めながら提案してきた内容に黎翔は内心浮き足立つのを気がつかれないように驚いた顔をして見せた。

「へ、陛下もですね、もう少しして落ち着いたら、御正妃様を迎えるでしょうし、その練習です!」

鼻息も荒く夕鈴から出た言葉に嫌な気持ちしか起きない。
全くこの兎は変なことを考えるものだ。
そう思いながらも、握りこぶしを作ってあーでもないこーでもないと話し続けている彼女はきっと引かないのだろう。
仕方ない。

「ねぇ、ゆーりん。わかってる?正妃ってどんな人が来るか。」
「もちろんです!教養高く、司書に通じ、楽に明るく、素敵なお姫様です。」
「ゆーりんの言うお姫様だと、こっちの僕は出せないんだけど。」

伺うように覗き込むと、まずったなという顔でしばし考え込む君がいて。
諦めてくれるかと思ったのに君から出た言葉はやはり想像していたのとは違った。

「ならば、それが出せるようになれるよう練習しましょう!」





*************




「妃よ。今戻った。」

昨日約束した通りに準備して、陛下の帰りを待っていた。
その内容とは、一般的なお姫様設定。
お茶を入れるのは私ではなく侍女で、一緒に出すお菓子は手作りではなく後宮御用達の物だ。
一通り、熱い夫婦の演技をし、お茶を入れてもらったところで陛下が侍女を下げた。

「後は、陛下どうしたらいいんでしょう?」
「そうだなぁ。子作りとか?」
「それは本当に本物が来た時にお願いします。」
「え?ダメなの?つまんないなぁ。」
「つまんないではありません。」
「うーん。じゃあ向かいに座れば?」

陛下に言われるまま卓を挟んで向かいに座る。
いつもなら、今日は何してた?とか陛下が話題を振ってくれるけど、今日はそんなこともなく。
沈黙が重くのしかかって居心地が悪い。

「えっと、陛下?」
「なんだ?妃よ。」
「その、何かお話は?」
「私は政務で疲れている。」

陛下はそう言ったきり、また黙ってしまった。
昨日おっしゃっていた通り、子犬を出すことはできない、というアピールだろうか。

「えと、じゃあ、あの、長椅子で身体を伸ばされませんか?」
「ああ、良い。これを飲んだら戻るゆえ。」

相変わらず目も合わせてくれないし、低く冷たい声色のまま拒絶される。
こんなんじゃ、いつまでたってもお妃様達とのんびり過ごすなんて無理じゃないかとこの人の行く末を思うと涙が溢れてきた。
後宮とは陛下がのんびりと過ごされ、お妃様達に癒される場所であるべきなのに。
私だって、偽物だけど。
バイトだけど。
陛下の味方になりたいのも、少しでも癒してさしあがられたらと日々を過ごしているのに…。

とそこまで考えて、私はサーっと血の気が引く音がした。

今のこの状況のどこが陛下を癒しているのだろうか。
勝手な自分の提案を陛下は苦笑いしながらも受け入れてくださったけれど、今この状況はちっとも楽しそうじゃない。
陛下も私も居心地が悪くて仕方ない。
こんなの、臨時花嫁としても、プロ妃としても失格だ!
折角の夫婦の日なのに、私はなんてことをしているのだろう。

情けなくなって、恥ずかしくなってうつむいて黙り込んでいると、陛下が大きくため息をついて立ち上がった。

「では、私は戻る。君はゆっくりしてくれ。」

そう言って、もう振り向きもせず去っていく。
その背中が寂しくて。
いつもの温もりが感じられないことがせつなくて。
気がつくと陛下へと駆け出し背中から抱きついていた。

「ゆ、ゆーりん?どうしたの?」

恥ずかしくて、どうしたらいいかわからなくて、陛下の背中に顔を埋めたまま、兎に角謝った。

「陛下。申し訳ございません。折角の夫婦の日でしたのに。つまらないことをしてしまって。こんなんじゃ、プロ妃失格です。」

ふぅ。

頭の上からため息が聞こえて、抱きつく手がビクッと震えてしまう。

「ゆーりん、いいんだよ?」

陛下は優しく諭すかのように、陛下のお腹でギュッと握られた私の手に自分の手を置いて、何度もポンポンっとあやすかのように触れる。

「君は良かれと思ってしてくれたんだろう?」
「でも!」
「うん。僕はね、多分夕鈴以外にこんなに気を許せる人が来るなんて思ってないんだ。」
「そんな!」
「いいから。聞いて?」
「…。」
「夕鈴以外が淹れたお茶を飲みたいとも思わないし、君以外を膝の上に乗せるなんて考えられない。話を聞くことも億劫だと思う。」
「でも…でも、いつか!」
「うん。いつか、は来るかもしれないし、来ないかもしれない。でもね、今は本当でしょう?」
「え?」
「今、ゆーりんがいて、ゆーりんのお茶が飲みたくて、作ってくれたお菓子や料理が美味しくて、君の温もりでホッとできる。…それじゃ、だめ?」

陛下の困惑したような、懇願するような声。
こんな私でも、役に立っていると一生懸命伝えてくれる人。
一国の王様なのに、こんなバイトにまで優しい人。
いつか、本当に心から支えてくれるお妃様が現れるまで。

「〜〜〜〜〜仕方、ないですね!私で我慢してください!」
「我慢じゃないよ。夕鈴がいいんだ。」
「もう、そんな甘いこと言って私を甘やかさないでください!」
「夫婦の日でしょう?最愛の妻を甘やかさずにどうするというのだ?」

急に狼の色気を撒き散らしいつものように私を翻弄する。

そっか、それでいいんだ。
これが私たちの、偽物だけど、いつもの夫婦の形。

「陛下!実はお菓子作ってあるんです。お時間が許すなら、召し上がって行かれませんか?」
「本当に!今日はのんびりできなくてつまんなかったんだぁ。じゃあ、ここからだね!」
「はい!すみませんでした!いつものようにお願いします!」

二人で微笑みあって。
そっと陛下から離れた私を、陛下はいつもの調子で抱き上げ部屋へと戻る。

ちょっと普通じゃないけれど。
本物でもないけれど。

これが私たちの日常。

これが私たち夫婦。



*******************

 

 

 終

スポンサーサイト

コメント

コメントを投稿する

管理者にだけ表示を許可する