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柔らかく優しく甘く⑧

こんばんは!

 

あけましておめでとうございます!

今年も亀更新になるとは思いますが、よろしくお願いします(#^^#)

 

さて、明日から仕事です・・・((+_+))

いやだぉ、まだやすみたりないぉ!!

と叫んでみても、業務は待ったなしですね←

では、連休最後の日に・・・

下町編、どうぞ~。

 

 

 

 

**************** 

 

 

 

「お!夕鈴ちゃん!久しぶりだね!どこ行ってたんだい?」

「おじさん!お久しぶりです。今、住み込みのお仕事で此処から離れてるんです。今日は久しぶりにお休みを頂いたので、青慎の好きなものをたっくさん作ろうと思って。だから、これ、安くして!」

「あはは、暫く見なくても変わってないな。よし!姉弟愛に免じて負けとくよ!」

「やった!おじさんかっこいい!」

 

妃バイトを始めて初めての休みを貰って下町に帰って来た。

 

こちらにくる前に氾家にも寄り、後宮での生活や陛下の御様子などを旦那様や紅珠様にお話をして。

瞳をキラキラさせ頬を染めあげ身を乗り出して陛下のお話を聞く様はとても可愛らしくて。

さすが御正妃様になる方だけあるなと変な感心をしてしまった。

常日頃、妃教育の中で李順様のおっしゃる妃像、まさにそのままの貴族の御姫様。

 

羨ましい・・・。

 

何がかはこれ以上考えないようにして急いで地元に帰ってきた。

思考に囚われては危険だ。

私の中の何かがそう言っていた。

 

 

 

 

 

「おい!」

「・・・。」

「おい!お前!」

「お前呼ばわりされる覚えはないわよ!」

 

この馬鹿金貸しが!!

 

「お前、貴族の屋敷に住み込みだっていうから少しはお淑やかになるかと思ったけど、何も変わらねぇな。」

 

ふっ、と口角を上げて嫌味を言ってくる。

 

「うっさいわね!几鍔!あんたなんかに言われたくないわよ。ほっといてちょうだい!」

「ほっとけるか!お前は俺のシマのガキだからよ。」

「だからガキじゃないっつーの。」

「まぁ、いい。帰って来たんなら青慎が喜ぶだろうさ。たまに見に行ってるが、大丈夫って言っちゃいるけど寂しいだろうからな。」

「・・・あ、ありがとう。でも、また行く。」

「はぁ?仕事終わったんじゃねぇのか?」

「ただの休みよ。また戻らなきゃ。」

「なんでだよ。お前青慎が可愛くないのか?」

「可愛いに決まってんでしょ!バッカじゃないの?お給金がいいのよ。仕方ないじゃない。」

「まぁ、そうか。何か困ったことがあったら言え。青慎はちゃんと俺が見とくからよ。」

「・・・うん、よろしく。」

「はんっ。素直だと気持ちわりーぜ。」

「うっさいわね。触らないでよ。」

 

最後まで憎まれ口をたたき合って、人の頭をくしゃくしゃにして去って行った。

 

ちょっと面白くないけど、面倒見がいい昔馴染み。

こいつなら碌でもない父親よりもよっぽど頼りになるだろう。

 

可愛い青慎を此処に残して、青慎の為だからってあんな仕事をしているのがばれたらこっぴどく怒られそうだけど。

 

ドンっ!!

 

考え事をしながら歩いていると何かにぶつかって持っている野菜などが転がっていった。

けれど自分はちっとも痛みも衝撃もなくて。

気が付くと誰かに腕を掴まれ支えられていた。

 

あれ?この温もり・・・わたし・・・?

 

「大丈夫?」

「あ!っと、すみません!考え事をしていて・・・。」

 

ごつごつとした手や指に男の人なことに気が付く。

 

「やぁ、また会ったね。」

 

また・・・?

見上げると眼鏡を掛けた美丈夫が柔らかく微笑みながら此方を覗き込んでいた。

 

「ええと?」

 

どこかで会ったかしら?

よっぽど私が不思議そうな顔をしていたのだろう。

美丈夫は困ったような期待外れのような微妙な顔をした。

 

「前、朝早くに。ほら、確か君が今日から貴族の屋敷で働くんだって言って急いでた。」

 

「・・・あ!」

「思い出した?」

「は、はい!あの時もぶつかってしまって。すみませんでした。」

「いや、大丈夫だよ。・・・はい、これ。ずいぶんたくさんの荷物だね。」

 

誰だったか深く考え込んでいる間に、目の前の美丈夫は私が転がしてしまった荷物をすべて集めてくれていた。

 

「あ、ありがとうございます!重ね重ねすみません!え~っと・・・。」

「うん、大丈夫だよ?それよりも、その荷物一人で持って帰るの?」

「あ、はい!今日は久しぶりの休みなので、弟の好物をいっぱい作ってあげたくて。つい買いすぎちゃいました。」

 

1人というには過ぎた荷物が恥ずかしく変な汗が出てくる。

ふぅ、とため息が聞こえて来て泣きそうになってしまった。

 

「じゃあ、また会えた記念に。家まで持ってあげるよ。」

 

呆れられたと思っていたのに全然違う事を言われて驚いて顔を上げると、美しい顔に満面の笑みを浮かべている美丈夫と目が合った。

 

「いえ、あの、悪いですし。」

「ここでぶつかったのも何かの縁だよ。それに袋も破けちゃってるし、二人じゃないと持てそうにないでしょ?」

 

そう言われると確かにそうだから二の句も告げない。

どうにか断ろうと口をパクパクさせていると美丈夫はさっさと歩きだして振り返った。

 

「こっちであってる?早くおいで?」

 

その毒気のない鮮やかな笑みに頑なな心が馬鹿らしくなって、駆け寄ると二人で並んで家に向かった。

 

「あの、ありがとうございます。見ず知らずの方に。」

「ん~。知ってるよ?顔と名前はね。」

「え?名前、ですか?」

「うん。ゆーりんでしょ?」

「!」

「前会った時、いや、ぶつかった時か。そう話しているのを聞いたんだ。」

 

ごめんね、とバツが悪そうに謝ってくる顔はそれが心からの言葉だと言っているようで。

寧ろ一度聞いただけの名前と顔をよく覚えていたなと感心してしまう。

 

「大丈夫ですよ。私なんか、よく覚えてくださっていましたね。」

「うん、だってゆーりん元気だったし、声も鈴の様に響いて、笑顔も可愛かったし。」

 

そりゃあね、忘れるわけないよ。と笑いながら見つめられると居た堪れなくて。

 

「あ、あの!何もできませんが!良かったらお礼にご飯を御馳走させていただけませんか?と言っても私が作るただの庶民料理ですが!あの、御屋敷のお嬢様にも好評なので、大丈夫かと思うんですが!って自分で何言ってるんですかね?」

 

慣れない褒め言葉に動揺を隠せず早口になったのは許して欲しい。

 

「ふふ。うん。僕なんかに食べさせてくれるなら、お邪魔してもいいかな?」

「は、はい!是非!家事は得意なんです!これくらいしかお礼できませんが、頑張って作りますね!」

「じゃあ、早く帰ろう。楽しみだな、ゆーりんのご飯。」

「なんてことないですよ?普通ですよ。あまり期待しないでくださいね。」

 

他愛ないことを話しながら家路を急いだ。

 

家に着いてからは台所は戦場と化した。

1か月に一回休めたらいい方だ、と李順さんから言われていたので、ここぞとばかりに保存食を作り置きしておくための荷物だったのだ。

お客さんが来ていることもすっかり忘れ家事に夢中だった私は夕餉の支度がやっと終わったころ思い出した。

 

「あ、あの~、ごめんなさい。作ることに夢中ですっかりほったらかしにしてしまって・・・。お構いもせず・・・。」

「ん~ん、大丈夫だよ。あちこち動き回って凄いなって感心して見ていたから楽しかったよ。」

「あちこちって・・・。これくらい普通ですよ?」

「そう?」

 

私が落ち込まないように気を遣って言ってくれているのだろう。

にこにこと笑顔を崩さずにこちらの様子を伺っている。

美丈夫の上にこんなに思いやりがあるなんて、今日はいい日だわ、なんて能天気な考えまで浮かんできたけど。

 

「やっぱり駄目です!!」

「ええ?な、何が?」

「そんな甘やかさないでください!」

「え?ゆーりん、ちょっと落ち着いて・・・。」

「私は落ち着いています!!」

「えーっと、何が駄目なのかな?」

「お客様を自分で招いておいたにも拘らずほったらかしてしまったことです!」

「ああ・・・。」

「何か、何かできることはありませんか?」

「ええ!だって夕餉を御馳走してくれるんでしょ?それで十分だよ。」

「だって、それだけじゃあ悪いです!」

「そう?」

「そうなんです!!」

 

握り拳を胸の前で握りしめ、兎に角何か頼み事はないかと勢いよく言いつのる。

と、ふぅっとため息が聞こえた。

やり過ぎたかと思ったけど、美丈夫の言葉を待つことにした。

 

「ん~、じゃあさ、こうしようよ!」

「なんですか?何なりと!!覚悟はできています!」

「いや、覚悟ってそんなすごいことじゃないんだけど。」

「はい!」

「あはは、ゆーりんって面白いね。」

「普通です!!」

「ぷっ、普通って。僕こんな顔の女の子見たことないよ。」

「~~~~~っ!!ひ、酷いです!」

「あはは、ごめん、ごめん。言い過ぎた。ゆーりんが楽しいから、つい。」

「もう、もう、えっと・・・あれ?」

「ん?」

「あの、すみませんが、お名前を伺ってないような気がするのですが・・・」

「うん、聞かれてないね。」

「教えていただけますか?」

「僕・・・?」

「あ!もしかして都合が悪いとかだったらいいんです。」

 

さっきは焦っていて気が付かなかったけど、よくよく見ると下町ではあまりお目にかかれないような上等の生地を身に纏っていることに気が付く。

もしかしたら貴族とか何とかで、身分を明かせない立場かもしれない。

 

「そうだね。知らないと呼ぶときに困るよね?」

「え?いえ、まぁそれは、どうにか・・・。」

 

答えがしどろもどろになってしまったのは許して欲しい。

嘘は苦手だ。

それに、一緒に歩いたりして話をするのはとても楽しかった。

だから、名前くらいは知りたかったし、呼びたかった。

 

「翔、だよ。」

「しょう、様ですか?」

「様は要らないよ?」

「では、翔さん、で。」

「・・・。」

「~~~しょ、しょ、う?」

「うん!ゆーりん。」

 

2人見つめあって笑った。

 

後宮に、偽物だけど入ってからと言うもの、こんな穏やかな時間を過ごせていなかったことに今更ながらに気が付く。

あそこでは本当の自分には蓋をし、表情も動き方も考え方や感情まで全てが私であり、私ではなかった。

更に陛下へと引きずられる気持ちに一生懸命ブレーキをかけるために日々気を抜くことが出来ず、嫉妬と羞恥と忠誠と、もういろんな気持ちがごちゃまぜで、24時間偽りの自分を演じ続けていたことが自分をいかに疲弊させていたのかが分かる。

 

自分らしく振る舞えることがこんなに楽しいことなんだと初めて気が付いた。

 

「ふふ、ちょっと、いい気分です。」

「ん?何が?」

「秘密です。さて、しょ、翔?私に何か頼み事とか在りませんか?嬉しいのでなんでもいいですよ。」

 

自分が自分らしくいられることが素晴らしいと認識させてくれたのだから、できることなら何でもやろうと心の中で握り拳を作った。

 

「じゃあさ、またこうやって食事を作ってくれる?」

「へ?そんな事でいいんですか?」

「うん、僕ゆーりんの顔見るだけでも楽しいんだけど。」

「さっきから失礼ですよ。もう。でも本当に?」

「うん。だってさっきからとってもいい匂いがしてて早く食べたいくらいだよ。」

「あ!そうでした!冷めちゃいますね!弟はまだなんですけど、先に食べちゃいましょう!!」

 

そうやって食べながら楽しく会話をして。

私が帰って来た時で、また翔に偶然にでも会ったら食事を作って御馳走する、という話に落ち着いた。

 

そんなに偶然会う事もないだろう。

きっと翔なりの優しさなんだろう。

 

優しい人だな。

 

気が付くと帰省前の憂鬱はどこかへ飛んで、優しい時間が流れていた。

 

 

 

***************** 

 

 

 

つづく

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