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柔らかく優しく甘く ⑪

話が進むと思うでしょう?

でしょう?

なんで私のお話は進まないんでしょうね?←デフォ

でもこれを抜くと伝わらない気がするのです。

よろしければお付き合いくださいませ。 

 

 

************** 

 

 

下町、章安区_______

 

____思ったよりも効果が出ているようだな。

 

早朝、まだ日も明けやらぬそんな時間、黎翔は下町に下りていた。

常ならば朝一に重臣たちとの朝議の時間が持たれるのだが、議題が煮詰まり、良い案も出ないという事で、もっと良い案を考える時間を持つために今日は珍しく休みだったのだ。

黎翔が即位して間もなく、王都の治安や経済の安定にいち早く取り掛かった彼は、時間を見つけてはこうして自ら効果を確かめに下りていた。

といっても、眼鏡の側近には毎回大目玉を食らうのだけど、それもまためんどくさいながらも楽しみの一つだと思い、お忍びをやめる気などさらさらないのであった。

 

こんなに早い時間にも拘らず市は賑わい、女性一人で切り盛りしている店も見られる。

ほんのちょっと前まで、この時間にあいている店と言えば、腕に覚えのありそうな店主のいる店か、ちょっと強面のお兄さんがやっている屋台くらいだった。

所々で値に対する言い争いが聞こえ、法外な値段で物の売買がされていた。

 

とてもではないが、民が安心して商いができ、また買い物ができる場所ではなかったのだ。

 

それが今日はどうだ。

屋台からは温かそうな湯気が立ち上り、その周りでは談笑しながら皆が美味しそうな粥に舌鼓を打っている。

話している内容も、以前に比べると随分と明るく、野菜の値が安定したとか、安心して商売ができるようになったとか、黎翔の耳を喜ばす話題に満ちていた。

 

王宮に居れば、民の声など届かない。

そういう声は都合のよい貴族の世迷言に打って変られ、こうやって危険を冒そうとも直接見聞きしなければわからないのだ。

正直王宮で聞く声は貴族の為にはなっても庶民の為にはならないことも多いだろう。

どちらも大切な民には変わりはなかったが、階級社会の闇を、差を少しでもなくしたいという思いで必死にやって来た。

それがこうやって少しでも生かされていることを見るのはとても嬉しいことだった。

 

心が少し温かくなるのを感じながら、そろそろ眼鏡の側近が怒りを爆発させる前に戻ろうと踵を返した時だった。

 

ドンっ!!

 

誰かにぶつかって、どうやらぶつかった方が尻餅をついて倒れてしまった。

その人物は「いった~。」っと言いながら口を尖らせて周りを確認している。

それが少女だと気が付いた黎翔は手を差し伸べた。

 

「あ、ごめんね。大丈夫?」

 

差し出された手を見て、その後黎翔の方を見上げた彼女は、パッと顔を真っ赤にしたかと思うと今度は血の気が引いたのか青ざめた。

 

「い、いえ!あの、此方こそすみませんでした。余所見をしてしまって。お怪我はありませんか?」

 

転んだ少女は此方の手を見つめ、どうしたらいいのかと目を泳がし、まるで目に入らなかった、とでも言わんばかりに自分で立って埃を払い始めた。

 

差しのばした手を放置され、しばし自分の手を見つめ呆然としてしまったが、少女が真っ赤になりながら湯気を頭から出しているのに気が付くと自然と笑みが零れた。

 

「いや、僕は何ともないよ。君は大丈夫?転んだけど、傷はない?」

 

基本的に他人が傷つこうとなんだろうと気にならないはずの自分がなぜ彼女にそう言ったのかわからなかった。

ただの気まぐれか、彼女が余りにも面白そうだったからなのか。

 

「あ、はい。大丈夫です!すみませんでした!あの、私、急ぎますので!!失礼します。本当にすみませんでした。」

 

「あっ。」

 

もう少し彼女のコロコロ変わる表情も、真っ赤に染まる頬も見ていたかったのに、彼女は脱兎のごとく駆け出して見えなくなってしまった。

彼女の態を思い出すと知らず笑ってしまう。

 

「くっ、くっ、くっ。」

 

_____逃げ足の速い兎だな。

 

さて、彼女に見習って、私も王宮に急ぐとするか。

 

先程までの柔らかい雰囲気は霧散して、黎翔は王宮へと戻った。

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

「くっ、くっ、くっ。」

「へ、陛下!ここで笑うのは控えてください。」

「大丈夫だ。周りには誰もいない。」

「・・・。いかがされました?その様に笑うなど、珍しいですが。」

「ふ、そうだな。珍しい毛色の野兎を見つけたんだ。」

「野兎、で御座いますか?」

「ああ。」

「王宮の庭に紛れ込んでいたので?」

「いや、王都に居た。」

「はぁ、今朝抜けだされていた時、ですか?」

「ああ。とても可愛らしく元気だったぞ。」

「はぁ、それがそんなに笑いを誘うのですか?」

「ああ。コロコロ表情が変わって実に面白いぞ。」

「表情、ですか?」

「まぁ良い。この話はこれまでだ。」

 

兎に表情なんてあるのかと訝しげな目線を送ってくる李順をうっとおしく感じ、政務に取り組む振りで書簡に目を落とす。

書簡の上に下町で見かけた可愛い野兎を思い浮かべながら。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

それからも黎翔のお忍びが治まることはやっぱりなかった。

事あるごとに抜け出し、何か施策を出して実行しては暫くすると王都に下りたって自身の目で確かめに行っていた。

 

政務の少しの合間に抜け出すので時間はいつもまちまちではあったものの、そのうち何度かは以前ぶつかった黎翔のいう所の野兎である少女とすれ違っていた。

彼女の方はといえば黎翔にちっとも気が付かなかったのだが、黎翔は何故かいち早く彼女の気配を察し、鈴のような清らかな声のする方へ吸い寄せられるのだった。

 

見るたびに野兎は元気で、いつも大輪のひまわりのような笑顔で町の皆と会話を楽しんでいた。

ある時は働いている貴族の屋敷で何をやり皆に褒められた、とか、一緒に働くみんなの為に何かしたい、とか、あと高級な食材が所狭しと置かれていて目に毒だ、なんて言っていたこともあった。

屋敷の姫や息子とも知り合ったとも言っていた。

貴族の蔑むような視線に晒されたかと聞き耳を立てると、全然違っていて。

寧ろ姫や息子がどれほどの情のある兄妹かという事を皆に話していた。

どうやら彼女はその屋敷の者に大層好かれているようだったし、その貴族の屋敷での仕事がとても気に入っているようだった。

 

黎翔には野兎の少女が言う全てが新鮮に感じた。

彼女の言葉は何の意図もなく紡がれているだろうことが分かるくらい明るい響きがあった。

王宮で常に感じる自分へ向けられる言葉との違和感。

表面は自分を褒め称え崇め奉っている様相を呈していても、その奥に潜められている蔑み、侮蔑の感情。

周りの何をも信じることが出来ない己の立場。

彼女のような人が側にいてくれたら、少しは心が穏やかに過ごす時間も持てるだろうか。

気が付くと黎翔はそんなことを考えるようになっていた。

 

でも、と自分の考えに自嘲気味に笑う。

そんな事はあり得ないことなのだ。

自ら望んだものを側に置き、心の安寧を求めるなど王に許されることではない。

現に自分には既に己の感情とは関係のない所で許嫁が決められており、それは国益の為にもなるという事は十分わかっていた。

正妃として遇するのに十分である許嫁の姫を娶り、落ち着いたらその他にも国の為になる姫を数名迎える。

これは黎翔が望むと望まざるとに係わらず慣例であり決定事項であった。

世継ぎを設けること、国の為になる数多の姫を娶る事は王としての責務であり、庶民のような一夫一妻、相手だけが唯一という夫婦関係は可能性としても考えるべくもなかった。

 

そして遠くに母の幻影が浮かんだ。

只の舞姫に過ぎなかった母が父王に見初められ後宮入りし、どのような辛い目にあったのか。

思い出すだけで胸の中に黒いものが広がることを感じた。

母の様な女人を作らいないためにも何事にも、何者にも執着を見せてはならないと心に誓ったのだ。

 

____私は王なのだ。

____個としての僕は、玉座に座るときに捨てたはず。

____何も望んではならない。

____野兎は野に居るべきだ。

____僕の為に辛い思いをさせることはない。

____今ならまだ、諦められる。

 

そう心に強く思い直し、黎翔は伝え漏れてきた話から分かった彼女の名前を囁いた。

 

「・・・ゆーりん。」

 

それから黎翔は下町に下りることはなくなった。

 

 

 

************* 

 

 

やっとばらしたと思ったら過去に飛ぶっていう罠←仕掛けているのはお前だ!

 

 

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コメント

はじめまして!
最近拝見させていただいております!
そして、更新されていた事に浮き足立っております!
まだ、全部拝見出来ていないですが、ゆっくり見ていきます!
これを、見ないと寝られないって重症か…
このコメントは管理人のみ閲覧できます
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みね 様

初めまして!!
辺境ブログに足を運んでいただきありがとうございます!
嬉しいです~(#^^#)
毎夜寝る前に読んで頂いてるのですか?これまた嬉しいです!!
更新もまめにできてないのにありがたい(*´ω`*)
重体になるまでがんばります!←

また遊びに来てくださいね!!(#^^#)
ほっぺ様

連続コメントありがとうございます!( *´艸`)
わたしも読み返してたら、あれ?戻ってるし・・・って←
自分まで焦らされてるっていう事実(>_<)
陛下視点好きと言っていただけて嬉しいです!!

でも、更新焦らしてるわけではないのよ?
ちょっと忙しくて・・・
あれとかメッセのお返事とかほら、コメントもしたいし←
ほっぺさんのも待ってるのよ?←催促
ボナ 様

まずは入国おめでとうございます!
あっちには長編がたくさんあるので徘徊して楽しんでくださいね!(#^^#)

陛下はずっと見ていたのです。
愛でる対象が思いがけず腕の中に飛び込んできたのであんなことに・・・
なるほどーって思っていただけたら嬉しいなぁ。

徘徊頑張ってくださいね!!

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